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咲良の答え⑧
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ただどうしても素直になれなかった。一緒に暮らしていても同居人状態で、誕生日も他の人に祝ってもらい、最後まで触れてくれなかった彼の告白は信じ難い。
ついふらつく足で数歩後退した。そんな私を見て蒼一さんが悲しげに眉を顰める。だがすぐに、優しく微笑んだ。
「咲良ちゃん。僕はね、綾乃の居場所を知ってるんだ」
「……え!?」
突然の真実に声を漏らした。お姉ちゃんの居場所は、結局両親も見つけ出せていない。それをどうして蒼一さんが?
「な、なんで蒼一さんが? お姉ちゃんは今どこにいるんですか?」
「大丈夫、楽しく過ごしている。僕はそのサポートをしてる」
「え?」
「幻滅される覚悟で言う。
あの結婚式は僕と綾乃が仕組んだ」
次から次へと、蒼一さんは私の想定外の言葉ばかり出した。口を開けたまま、私はただ唖然とするしかない。
「え?」
「元々綾乃とは仲のいい友達で恋愛感情なんてなかった。お互いにだ。
もし……綾乃が当日いなくなれば、周りに気を遣う咲良ちゃんが立候補するんじゃないかって、そこまで考えて実行した」
結婚式の日のことが蘇る。お姉ちゃんがいないと騒ぎになり、蒼一さんは困ったように俯いていた。彼と結婚できるチャンスを活かしたくて、私は立候補した。
お姉ちゃんの身代わりに、立候補したんだ。
やや似合わないドレスを着て知らない人たちの前で式を行った。それでも、隣に蒼一さんがいてくれたから乗り越えられた。
彼は私に数歩近づく。そして叱られた子供のような顔で言った。
「ごめん。僕はね、とっても狡くて酷い人間なんだ。
幻滅されるかもしれないと思って言えなかった。どうしても君のそばにいたかったから」
信じられない真実に、私はようやく彼の言葉を理解し始めた。
じゃあ、あの日お姉ちゃんが逃げることを知っていた。私がその代わりになることも想定されていた。
私が蒼一さんと結婚したのは、なるべくしてなったっていうこと?
私の顔を見て、蒼一さんは悲しげに苦笑した。そして再び手をとり、そのまま車に近づいていく。
助手席に乗せられると、彼は運転席に乗り込んだ。シートのひんやりとした温度が背中から伝わる。ハンドルを握り、けれどもエンジンをかけることなく蒼一さんは言った。
「咲良ちゃんは他に好きな人がいるんだ、って思ってた。だから、僕たちのこの関係をどうしようかずっと考えてたんだ。勢いだけであんな計画をして、先のことまで考えてなかった馬鹿なんだよ僕は」
どこか遠くを見るように蒼一さんが言う。その横顔を見つめながら、私は彼の言葉に耳を傾けていた。
「今更、って思われるかもしれないけど伝えたかった。本当の自分の気持ちを咲良ちゃんに。始まりこそあんな偽りの結婚だったけど、それでも僕は」
彼のハンドルを握る手に力が入る。私はつい反射的に言った。
「私! いくら気を遣う人間でも!
……好きでもない人の結婚相手に立候補したりしません」
はっとした顔になる。蒼一さんがゆっくりとこちらを向いた。
私の頬を生ぬるい涙が伝った。ああ、言いたくてもずっと言えなかった言葉をようやく言えた。言った方がいい、と諭してくれた蓮也の言葉が脳裏によぎる。長い間踏み出せなかった一歩をようやく踏み出せた。
あれはあなただったから。蒼一さんだったから立候補したの。
私の初恋だったから。叶うはずのない恋だったから。お姉ちゃんが逃げ出したのを見て喜んだ黒い心があったから。
ついふらつく足で数歩後退した。そんな私を見て蒼一さんが悲しげに眉を顰める。だがすぐに、優しく微笑んだ。
「咲良ちゃん。僕はね、綾乃の居場所を知ってるんだ」
「……え!?」
突然の真実に声を漏らした。お姉ちゃんの居場所は、結局両親も見つけ出せていない。それをどうして蒼一さんが?
「な、なんで蒼一さんが? お姉ちゃんは今どこにいるんですか?」
「大丈夫、楽しく過ごしている。僕はそのサポートをしてる」
「え?」
「幻滅される覚悟で言う。
あの結婚式は僕と綾乃が仕組んだ」
次から次へと、蒼一さんは私の想定外の言葉ばかり出した。口を開けたまま、私はただ唖然とするしかない。
「え?」
「元々綾乃とは仲のいい友達で恋愛感情なんてなかった。お互いにだ。
もし……綾乃が当日いなくなれば、周りに気を遣う咲良ちゃんが立候補するんじゃないかって、そこまで考えて実行した」
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お姉ちゃんの身代わりに、立候補したんだ。
やや似合わないドレスを着て知らない人たちの前で式を行った。それでも、隣に蒼一さんがいてくれたから乗り越えられた。
彼は私に数歩近づく。そして叱られた子供のような顔で言った。
「ごめん。僕はね、とっても狡くて酷い人間なんだ。
幻滅されるかもしれないと思って言えなかった。どうしても君のそばにいたかったから」
信じられない真実に、私はようやく彼の言葉を理解し始めた。
じゃあ、あの日お姉ちゃんが逃げることを知っていた。私がその代わりになることも想定されていた。
私が蒼一さんと結婚したのは、なるべくしてなったっていうこと?
私の顔を見て、蒼一さんは悲しげに苦笑した。そして再び手をとり、そのまま車に近づいていく。
助手席に乗せられると、彼は運転席に乗り込んだ。シートのひんやりとした温度が背中から伝わる。ハンドルを握り、けれどもエンジンをかけることなく蒼一さんは言った。
「咲良ちゃんは他に好きな人がいるんだ、って思ってた。だから、僕たちのこの関係をどうしようかずっと考えてたんだ。勢いだけであんな計画をして、先のことまで考えてなかった馬鹿なんだよ僕は」
どこか遠くを見るように蒼一さんが言う。その横顔を見つめながら、私は彼の言葉に耳を傾けていた。
「今更、って思われるかもしれないけど伝えたかった。本当の自分の気持ちを咲良ちゃんに。始まりこそあんな偽りの結婚だったけど、それでも僕は」
彼のハンドルを握る手に力が入る。私はつい反射的に言った。
「私! いくら気を遣う人間でも!
……好きでもない人の結婚相手に立候補したりしません」
はっとした顔になる。蒼一さんがゆっくりとこちらを向いた。
私の頬を生ぬるい涙が伝った。ああ、言いたくてもずっと言えなかった言葉をようやく言えた。言った方がいい、と諭してくれた蓮也の言葉が脳裏によぎる。長い間踏み出せなかった一歩をようやく踏み出せた。
あれはあなただったから。蒼一さんだったから立候補したの。
私の初恋だったから。叶うはずのない恋だったから。お姉ちゃんが逃げ出したのを見て喜んだ黒い心があったから。
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