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蒼一の決意②
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「咲良さんに直接聞けばいいじゃないですか」
「……きくつもりだけど、今は話してくれそうにないから」
「あら。なんでも言い合えるってわけじゃないんですね」
「……仲がよくてもそういうこともある」
苦し紛れにそう答えたが、彼女は微笑んだまま何も言わなかった。何だか居心地が悪く感じ、そのまま背を向ける。顔を見ないまま告げた。
「違ったならいいんだ、ごめん。時間を取らせた」
「いいえ。これで失礼しますね」
新田さんはそういうとあっさりこの場から去っていった。いなくなったことにホッとする。そうか、彼女じゃなかったか。あの誕生日の日のことが引っかかっていたのだが。
深いため息をついた。もう午後は休みをとって帰ろうか、と考える。このままでは仕事なんて手につかないし、今はとにかく咲良と話したい。あの子はいつも周りのことを考えて自分を蔑ろにする癖がある。これ以上追い詰めてほしくない。
そう心に決めたとき、ポケットに入っているスマホが震えたことに気がついた。手に取り出し画面を覗き込むと同時に息をのむ。それは母からだった。
『仕事終わったら、うちに寄ってね』
簡潔にそうメッセージが入っていた。そこで私はついに確信する。
咲良のあの行動の原因は母だったか。きっと私の知らぬ間に咲良と何かあったのだ。頭を抱えて舌打ちをする。
こんなことならもっと強く釘を刺しておけばよかった。時間が経てば母の気持ちも落ち着くだろうと甘く考えていた自分が悪い。
「くそ」
スマホをポケットにしまい込むと、私はそのまま会議室を出た。仕事なんてしてられる余裕はなかった。乱暴に帰りの支度をすると、仲間に帰る趣旨を告げ仕事の指示だけ行うと、私は即座に会社を出た。
自分の家に帰るのはかなり久々だった。
見慣れているはずの白い屋敷が、何だか恐ろしいもののように感じる。私は最近使っていなかった鍵を取り出して玄関の扉を開けると、そのままリビングへ足早にすすんだ。
扉を開けると、広いソファに母が一人紅茶を飲んでいた。私の存在に気づくと、少し驚いたような顔でティーカップを置く。
「仕事は?」
「休んできました。母さん、咲良に何かした?」
余裕のない声でそう尋ねる。母は何も答えず、そばに置いてあるスマホを取り出し何か操作している。その余裕綽々な態度が自分を苛立たせた。
近寄って見下ろす。睨みつけながら再度同じ質問を投げかけた。
「咲良に何かしましたか?」
「どうして」
「昨日様子が変だった。聞いても話してくれませんでした。だいぶ追い詰められていた」
泣きながら自分の部屋から去ったあの顔が忘れられない。いつだって笑顔で私を包んでくれていた彼女が、目と鼻を真っ赤にして泣いていた。
思い出すだけで胸が苦しい。
「今日私を呼び出したのはそれに関することなんでしょう? 一体何を」
早口でそう捲し立てると、母は少し笑った。そして組んでいた足を下ろすと私に言う。
「蒼一。
あなた、咲良さんと離婚なさい」
「…………は」
ぽかんと口を開けてしまった。彼女はじっと私を試すように見ている。突然の言葉は自分を混乱させた。
「急に何を?」
「急ではないですよ。ずっと考えていました。ええ、そうね、あなた方の違和感たっぷりの結婚式に参加している時からずっとです。
綾乃さんがいなくなって、あの時は咲良さんに代わりをお願いするしかありませんでした。それは私もわかってるし咲良さんに感謝してますよ。緊張で顔がこわばったちっとも幸せそうじゃない花嫁でしたね」
「……確かに始まりはあんな形でした。でも僕たちは」
「様子見をしていました。果たしてどうなるのかと。あのパーティーの時、うまく取り繕ってましたが分かりましたよ、あなた方は結局夫婦ごっこなんだってね」
自分の胸が痛んだのに気がつく。ごっこ、という言葉がナイフのようだった。
私たちのどこが不自然だったのだろう。自分達では分からなかった。咲良はパーティーの時とてもよくやってくれていたし、周りも褒めちぎっていた。それとも、当事者には分からない距離感が出ているのだろうか。
そう落ち込みつつ、論点がずれていることに気がつく。私は自分を奮い立たせ再度母にきいた。
「……きくつもりだけど、今は話してくれそうにないから」
「あら。なんでも言い合えるってわけじゃないんですね」
「……仲がよくてもそういうこともある」
苦し紛れにそう答えたが、彼女は微笑んだまま何も言わなかった。何だか居心地が悪く感じ、そのまま背を向ける。顔を見ないまま告げた。
「違ったならいいんだ、ごめん。時間を取らせた」
「いいえ。これで失礼しますね」
新田さんはそういうとあっさりこの場から去っていった。いなくなったことにホッとする。そうか、彼女じゃなかったか。あの誕生日の日のことが引っかかっていたのだが。
深いため息をついた。もう午後は休みをとって帰ろうか、と考える。このままでは仕事なんて手につかないし、今はとにかく咲良と話したい。あの子はいつも周りのことを考えて自分を蔑ろにする癖がある。これ以上追い詰めてほしくない。
そう心に決めたとき、ポケットに入っているスマホが震えたことに気がついた。手に取り出し画面を覗き込むと同時に息をのむ。それは母からだった。
『仕事終わったら、うちに寄ってね』
簡潔にそうメッセージが入っていた。そこで私はついに確信する。
咲良のあの行動の原因は母だったか。きっと私の知らぬ間に咲良と何かあったのだ。頭を抱えて舌打ちをする。
こんなことならもっと強く釘を刺しておけばよかった。時間が経てば母の気持ちも落ち着くだろうと甘く考えていた自分が悪い。
「くそ」
スマホをポケットにしまい込むと、私はそのまま会議室を出た。仕事なんてしてられる余裕はなかった。乱暴に帰りの支度をすると、仲間に帰る趣旨を告げ仕事の指示だけ行うと、私は即座に会社を出た。
自分の家に帰るのはかなり久々だった。
見慣れているはずの白い屋敷が、何だか恐ろしいもののように感じる。私は最近使っていなかった鍵を取り出して玄関の扉を開けると、そのままリビングへ足早にすすんだ。
扉を開けると、広いソファに母が一人紅茶を飲んでいた。私の存在に気づくと、少し驚いたような顔でティーカップを置く。
「仕事は?」
「休んできました。母さん、咲良に何かした?」
余裕のない声でそう尋ねる。母は何も答えず、そばに置いてあるスマホを取り出し何か操作している。その余裕綽々な態度が自分を苛立たせた。
近寄って見下ろす。睨みつけながら再度同じ質問を投げかけた。
「咲良に何かしましたか?」
「どうして」
「昨日様子が変だった。聞いても話してくれませんでした。だいぶ追い詰められていた」
泣きながら自分の部屋から去ったあの顔が忘れられない。いつだって笑顔で私を包んでくれていた彼女が、目と鼻を真っ赤にして泣いていた。
思い出すだけで胸が苦しい。
「今日私を呼び出したのはそれに関することなんでしょう? 一体何を」
早口でそう捲し立てると、母は少し笑った。そして組んでいた足を下ろすと私に言う。
「蒼一。
あなた、咲良さんと離婚なさい」
「…………は」
ぽかんと口を開けてしまった。彼女はじっと私を試すように見ている。突然の言葉は自分を混乱させた。
「急に何を?」
「急ではないですよ。ずっと考えていました。ええ、そうね、あなた方の違和感たっぷりの結婚式に参加している時からずっとです。
綾乃さんがいなくなって、あの時は咲良さんに代わりをお願いするしかありませんでした。それは私もわかってるし咲良さんに感謝してますよ。緊張で顔がこわばったちっとも幸せそうじゃない花嫁でしたね」
「……確かに始まりはあんな形でした。でも僕たちは」
「様子見をしていました。果たしてどうなるのかと。あのパーティーの時、うまく取り繕ってましたが分かりましたよ、あなた方は結局夫婦ごっこなんだってね」
自分の胸が痛んだのに気がつく。ごっこ、という言葉がナイフのようだった。
私たちのどこが不自然だったのだろう。自分達では分からなかった。咲良はパーティーの時とてもよくやってくれていたし、周りも褒めちぎっていた。それとも、当事者には分からない距離感が出ているのだろうか。
そう落ち込みつつ、論点がずれていることに気がつく。私は自分を奮い立たせ再度母にきいた。
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