上 下
48 / 95

蒼一の戸惑い⑦

しおりを挟む
「白昼堂々と、こんなものが撮れましたよ。天海さんん、よろしいんですか」

 こちらの様子を伺うように彼女は言う。その声で我に返る。私は持っている写真を適当にテーブルに置いた。

「彼のことは知ってる、咲良の幼馴染みたいなものだから」

「でも男性ですよ、抱きしめるなんてあります?」

「仲いいんだよ」

「そもそも既婚者が異性と二人きりで会うなんてどうなんですか?」

「僕が行っていいって言ったんだよ」

 強い語尾で言った。そう、恐らくこれは咲良が相談してきたあの日のことだろう。自分の頭はめちゃくちゃに混乱しているが、一つ冷静にいられる点があった。強く抱きしめているのは蓮也の方で、咲良は驚いたようにその腕を下ろしていた。その景色がかろうじて自分を保てる真実だった。

 これで咲良の両腕が蓮也の背中に回っていた日には、恐らく私は狂っていた。

 蓮也の気持ちは知っている。多分だが、彼は咲良に想いを告げたんだ。その時のシーン、というところか。

「それより感心しないな、なぜ咲良をこんなふうに調べ回ったの? こんなの、狙わなきゃ撮れない写真だよね」

 私はじっと新田さんをみた。彼女は唇を固くとじ、私を見上げている。

 そう、こんな写真、偶然で撮れるわけがない。咲良の周辺を調べなければ無理なのだ。

 彼女は私の袖を再び強く掴んだ。そしてどこか涙を溜めた目で言う。

「分かりませんか……? 本当は知ってるでしょう、私の気持ちなんて。私はずっとずっと天海さんが好きだったんですよ」

 やや掠れた声でそう告げられた。私はわずかに息を吸ったまま返事に戸惑う。

 新田さんはそのまますがるように続けた。

「それでも、あなたには昔から婚約者がいたことは有名な話でした。相手は藤田グループの藤田綾乃、女の私からみても見惚れるほどの完璧な女性でした。片想いは秘めておこうと思ったんです。
 でも、少しでも天海さんによく思って貰える女になれるよう藤田綾乃を手本に頑張りました。仕事もあなたのサポートができるよう、外見にも気遣って、私は必死にやってきたんです。

 それがなんですか? いざ式になって出てきたのは妹の方。藤田綾乃とはまるで似てないどこにでもいるような子。そんなの、引き下がれると思います?」

 震える声で私に言う。情けなくも、自分は言葉をなくして何も返せなかった。

 彼女の好意はまるで気がつかなかったといえば嘘になる。確信はしてないが、もしかしたら、と思うことはあった。それでも気づかないふりが一番かと思っていた。仕事上よきパートナーとして過ごすのがいいんだと。

 そうやって誤魔化してきた自分の対応が悪いのか。

「お願いします天海さん、こんな結婚終わりにしてくれませんか? いえ、立場上それができないなら、そのままでもいいから私を見てくれませんか?」

「に、新田さん」

「どう考えても藤田咲良はあなたには不釣り合いです。パーティーの時は上手く誤魔化してたけど、腕のいいメイクでもつけばあれぐらい女は化けれます。普段の彼女は地味で子供らしくて、あなたの隣には相応しくないです」

 彼女はついに頬に涙をこぼした。私の袖をしっかり握りしめ、離さない。小さなその手で必死に握るその様子に胸を痛める。

 それでも私はそっと袖から彼女の手を離させた。ここで情を見せるわけにはいかない、と思った。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦 ✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

欠陥姫の嫁入り~花嫁候補と言う名の人質だけど結構楽しく暮らしています~

バナナマヨネーズ
恋愛
メローズ王国の姫として生まれたミリアリアだったが、国王がメイドに手を出した末に誕生したこともあり、冷遇されて育った。そんなある時、テンペランス帝国から花嫁候補として王家の娘を差し出すように要求されたのだ。弱小国家であるメローズ王国が、大陸一の国力を持つテンペランス帝国に逆らえる訳もなく、国王は娘を差し出すことを決めた。 しかし、テンペランス帝国の皇帝は、銀狼と恐れられる存在だった。そんな恐ろしい男の元に可愛い娘を差し出すことに抵抗があったメローズ王国は、何かあったときの予備として手元に置いていたミリアリアを差し出すことにしたのだ。 ミリアリアは、テンペランス帝国で花嫁候補の一人として暮らすことに中、一人の騎士と出会うのだった。 これは、残酷な運命に翻弄されるミリアリアが幸せを掴むまでの物語。 本編74話 番外編15話 ※番外編は、『ジークフリートとシューニャ』以外ノリと思い付きで書いているところがあるので時系列がバラバラになっています。

本日はお日柄も良く、白い結婚おめでとうございます。

待鳥園子
恋愛
とある誤解から、白い結婚を二年続け別れてしまうはずだった夫婦。 しかし、別れる直前だったある日、夫の態度が豹変してしまう出来事が起こった。 ※両片思い夫婦の誤解が解けるさまを、にやにやしながら読むだけの短編です。

処理中です...