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蒼一の戸惑い⑤
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新田さんは困ったように眉を下げた。
「実は、企画部の木村さんがどうしても今日中に相談したいと」
それを聞いて、今度は私が眉を下げる番だった。
「明日にしよう」
「明日から木村さん出張なんですって。今進行中のプロジェクトについて一刻も早くお話したいとのことで」
私は困り視線を泳がせた。今手がけているプロジェクトは重要なもので、とても力を入れているものだ。もちろん新田茉莉子も携わっている。木村という人は仕事もでき人望ある、私も一目置いている相手だった。
新田さんは付け足す。
「あまり時間は取らせない、とのことでした」
「…………」
仕方ない。私はため息をついた。
「分かった、短時間でなら付き合う。呼んでもらっていいよ」
「外の店を予約してあるそうです」
「なんでわざわざ? 社内でいいんじゃないか」
「社内で話しにくいことみたいです」
やや声をひそめた彼女に、一体どんな話が飛び出すのかと不安が募る。あのプロジェクトは絶対成功させなければならないものなのだが。
私は立ち上がり身の回りの支度を始めた。
「分かった、そうということならすぐに行こう。僕もあまり時間を取られたくない」
「わかりました」
新田さんは踵を返し素早く動いた。私はポケットからスマホを取り出し、咲良に連絡する。仕事で職場の人たちと少し飲むこと、でもなるべく早く終わらせて帰ることを告げる。
すぐに返事は返ってきた。『大丈夫です、待っています。頑張ってくださいね』と、機嫌を損ねた様子のない文面に少しだけ安心した。
ついてないな。なぜ昨日言ってくれなかったんだ、よりにもよって今日そんな話をしてくるなんて。私は一刻も早く帰りたくて仕方ないというのに。
スマホを再びポケットにしまい込むと、私は鞄を持ってその場から去った。
場所は会社からすぐにある個室のある和食屋だった。新田さんに連れられ中へ入ると、やや狭めの個室に通される。木村さんの姿はまだ見えていなかった。私が座ると、新田さんも隣に腰掛ける。
彼女はメニューを取り出し私の前で開いてくれた。
「何か飲まれますか」
「いや、今はいいよ、木村さんがきてから」
腕時計を眺める。本来ならもう家に向かっているはずなのに、とため息をついた。
そんな私の様子に気がついているのか、新田さんが言う。
「何かご予定があったんですね」
「まあね」
「急いでいる天海さん珍しいから」
「今日だけはなるべく早く上がりたいんだ」
「お誕生日だからですか」
ストレートに言われて苦笑した。どこでそんなことを知ったんだこの人は。いい年にもなって誕生日を楽しみにしてる男だとバレてしまった。
「そう。木村さんがなんの話かわからないけど、できれば早めに切り上げたい」
「分かりました」
彼女は頷いて納得した。少し安心する。新田さんは基本仕事もできるし、こう言う時上手く立ち回れるタイプだ。色々と器用、といえばいいか。
新田さんはスマホを取り出し覗き込む。少し操作した後私に言った。
「木村さん、少しだけ遅れるそうです」
「……わかった」
苛立ちをなるべく抑えるようにして返事を返した。彼も仕事か何かですぐに来れないんだろう、仕方ない。
私は自分のスマホも取り出し咲良から連絡がないか確認する。さっきのメッセージ以降何も来ていないようだった。ふうとそのままスマホを置く。
家に帰れば食事も用意してある、ここで腹を膨らませるわけにはいかない。少し烏龍茶でも飲んであとは二人で食事をとってもらおう。
「実は、企画部の木村さんがどうしても今日中に相談したいと」
それを聞いて、今度は私が眉を下げる番だった。
「明日にしよう」
「明日から木村さん出張なんですって。今進行中のプロジェクトについて一刻も早くお話したいとのことで」
私は困り視線を泳がせた。今手がけているプロジェクトは重要なもので、とても力を入れているものだ。もちろん新田茉莉子も携わっている。木村という人は仕事もでき人望ある、私も一目置いている相手だった。
新田さんは付け足す。
「あまり時間は取らせない、とのことでした」
「…………」
仕方ない。私はため息をついた。
「分かった、短時間でなら付き合う。呼んでもらっていいよ」
「外の店を予約してあるそうです」
「なんでわざわざ? 社内でいいんじゃないか」
「社内で話しにくいことみたいです」
やや声をひそめた彼女に、一体どんな話が飛び出すのかと不安が募る。あのプロジェクトは絶対成功させなければならないものなのだが。
私は立ち上がり身の回りの支度を始めた。
「分かった、そうということならすぐに行こう。僕もあまり時間を取られたくない」
「わかりました」
新田さんは踵を返し素早く動いた。私はポケットからスマホを取り出し、咲良に連絡する。仕事で職場の人たちと少し飲むこと、でもなるべく早く終わらせて帰ることを告げる。
すぐに返事は返ってきた。『大丈夫です、待っています。頑張ってくださいね』と、機嫌を損ねた様子のない文面に少しだけ安心した。
ついてないな。なぜ昨日言ってくれなかったんだ、よりにもよって今日そんな話をしてくるなんて。私は一刻も早く帰りたくて仕方ないというのに。
スマホを再びポケットにしまい込むと、私は鞄を持ってその場から去った。
場所は会社からすぐにある個室のある和食屋だった。新田さんに連れられ中へ入ると、やや狭めの個室に通される。木村さんの姿はまだ見えていなかった。私が座ると、新田さんも隣に腰掛ける。
彼女はメニューを取り出し私の前で開いてくれた。
「何か飲まれますか」
「いや、今はいいよ、木村さんがきてから」
腕時計を眺める。本来ならもう家に向かっているはずなのに、とため息をついた。
そんな私の様子に気がついているのか、新田さんが言う。
「何かご予定があったんですね」
「まあね」
「急いでいる天海さん珍しいから」
「今日だけはなるべく早く上がりたいんだ」
「お誕生日だからですか」
ストレートに言われて苦笑した。どこでそんなことを知ったんだこの人は。いい年にもなって誕生日を楽しみにしてる男だとバレてしまった。
「そう。木村さんがなんの話かわからないけど、できれば早めに切り上げたい」
「分かりました」
彼女は頷いて納得した。少し安心する。新田さんは基本仕事もできるし、こう言う時上手く立ち回れるタイプだ。色々と器用、といえばいいか。
新田さんはスマホを取り出し覗き込む。少し操作した後私に言った。
「木村さん、少しだけ遅れるそうです」
「……わかった」
苛立ちをなるべく抑えるようにして返事を返した。彼も仕事か何かですぐに来れないんだろう、仕方ない。
私は自分のスマホも取り出し咲良から連絡がないか確認する。さっきのメッセージ以降何も来ていないようだった。ふうとそのままスマホを置く。
家に帰れば食事も用意してある、ここで腹を膨らませるわけにはいかない。少し烏龍茶でも飲んであとは二人で食事をとってもらおう。
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