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咲良の戸惑い④
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私と蒼一さんは同居人状態であると言っても、書類上は夫婦だ。妻でありながら、他の男性と二人きりで食事はよくないのでは? もちろん蓮也は仲のいい友達だけれど、知らない人から見たらあまり良くないかもしれない。
ううんと唸って悩む。でも蓮也は付き合いの長い友達だしなあ。
一人でそう考えているところに、玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。はっとしてすぐにスマホを適当に放る。すぐに廊下を駆けて玄関へ向かうと、やはり蒼一さんが帰宅してきたところだった。
「お帰りなさい! 早かったですね」
私が笑顔で言うと、彼も柔らかい顔で返してくれる。
「うん、最近ちょっと落ち着いてるから」
「よかったです」
「夕飯食べようかな、お腹空いた」
「すぐに温めますね」
こういった会話だけを聞けば、完全に夫婦なんだけどなあ。私はすぐにキッチンへ戻り、昼間山下さんと作った料理たちを温め直す。
毎日を繰り返すことで少しずつ慣れてきた蒼一さんとの生活。リズムが出来てきたといえばいいのだろうか。
食卓に二人分の食事を並べていく。すぐにやってきた蒼一さんはテーブルの上を見た顔を綻ばせた。
「あ、生姜焼きだ」
「好きなんですか?」
「実はね」
笑う顔はどこか子供っぽく見えて可愛いと思ってしまった。熱くなった胸を抑えつつ、グラスにお茶を注いでいく。
どこか機嫌良さそうに席に座る蒼一さんの前に腰掛ける。二人で手を合わせて挨拶をした。
「いただきます」
箸を持ち食事を取る。今日の食事もほとんどは私が作ったものだ。でも蒼一さんは多分山下さんが全部作ってると思ってる。さて、いつバラそうか。
「あ、そうだ」
ご飯を飲み込んだ時、私は声を出す。蒼一さんが顔を上げた。
「あの、今度蒼一さん、お誕生日じゃないですか」
「え? あ、そうだねそういえば」
まるで人ごとのように彼は言う。少し笑ってしまった。
「そんな、忘れてたんですか?」
「うん、完全にね」
「あの、当日はお仕事ですよね? 終わった後どこか出掛けられますか? お友達とか」
「え? いや別にそんな予定ないけど」
彼の返答を聞いて喜びが笑顔で溢れてしまった。そんな私の顔を不思議そうに蒼一さんが見てくる。喜びを隠すこともなく、声を弾ませて言った。
「じゃあ、おうちでお祝いですね!」
驚いたように目を丸くする。山下さんと少し豪華なご飯、あとケーキも焼かなきゃ。当日に蒼一さんと二人で祝える。
「祝ってくれるの?」
「もちろんですよ! あ、そんな大層なことはしませんが……お仕事終わって家で誕生日会やりましょう」
私の提案に、蒼一さんがそっと目を細めた。そして優しい笑顔で頷く。
「ありがとう。仕事絶対早く終わらせて帰る」
よかった、と安心する。当日にちゃんとお祝いできるんだ。それだけで私は十分嬉しい。
ニコニコしながらご飯を頬張る。プレゼントも買わなきゃ、何がいいんだろう。男の人って何が欲しいか分からないから……あ、そうだ!
「あの話は変わるんですが蒼一さん。この前会った蓮也覚えてますか?」
私が尋ねると、一瞬彼の箸が止まる。そしてほんの少し間があったと、私の方を見た。
「うん、覚えてるよ」
「今度ご飯行こうって誘われたんですけど、あの、ほら、それってこう、あんまりかな、と思って」
歯切れの悪い言葉をゴニョゴニョと言った。なんだか言いにくかったのだ、『異性と二人で食事はよくないですか、一応私たちは書類上夫婦だから』なんて。
私のぼんやりした言葉を蒼一さんは理解したようだった。味噌汁を飲み込み、小さな声で言った。
「別に行ってきたら」
「え」
「ランチぐらいは大丈夫だよ。気にしないで。彼は昔からの友達だってしってるから」
そう言った蒼一さんは、そのまま食事を続けた。
黙々と食事を続ける彼に倣い私も箸を動かす。きっと蒼一さんはそう言うだろうなと思っていた。最初から私の好きに生活していいんだよって言ってたし。行かないで欲しいなんて言うはずないよね。
ただ……少しだけ寂しいのは、なぜなのかな。
「分かりました。じゃあ今度昼に食事でも行ってきます」
「楽しんでね」
蒼一さんはそれだけ言うと、あとは何も言わなかった。
ううんと唸って悩む。でも蓮也は付き合いの長い友達だしなあ。
一人でそう考えているところに、玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。はっとしてすぐにスマホを適当に放る。すぐに廊下を駆けて玄関へ向かうと、やはり蒼一さんが帰宅してきたところだった。
「お帰りなさい! 早かったですね」
私が笑顔で言うと、彼も柔らかい顔で返してくれる。
「うん、最近ちょっと落ち着いてるから」
「よかったです」
「夕飯食べようかな、お腹空いた」
「すぐに温めますね」
こういった会話だけを聞けば、完全に夫婦なんだけどなあ。私はすぐにキッチンへ戻り、昼間山下さんと作った料理たちを温め直す。
毎日を繰り返すことで少しずつ慣れてきた蒼一さんとの生活。リズムが出来てきたといえばいいのだろうか。
食卓に二人分の食事を並べていく。すぐにやってきた蒼一さんはテーブルの上を見た顔を綻ばせた。
「あ、生姜焼きだ」
「好きなんですか?」
「実はね」
笑う顔はどこか子供っぽく見えて可愛いと思ってしまった。熱くなった胸を抑えつつ、グラスにお茶を注いでいく。
どこか機嫌良さそうに席に座る蒼一さんの前に腰掛ける。二人で手を合わせて挨拶をした。
「いただきます」
箸を持ち食事を取る。今日の食事もほとんどは私が作ったものだ。でも蒼一さんは多分山下さんが全部作ってると思ってる。さて、いつバラそうか。
「あ、そうだ」
ご飯を飲み込んだ時、私は声を出す。蒼一さんが顔を上げた。
「あの、今度蒼一さん、お誕生日じゃないですか」
「え? あ、そうだねそういえば」
まるで人ごとのように彼は言う。少し笑ってしまった。
「そんな、忘れてたんですか?」
「うん、完全にね」
「あの、当日はお仕事ですよね? 終わった後どこか出掛けられますか? お友達とか」
「え? いや別にそんな予定ないけど」
彼の返答を聞いて喜びが笑顔で溢れてしまった。そんな私の顔を不思議そうに蒼一さんが見てくる。喜びを隠すこともなく、声を弾ませて言った。
「じゃあ、おうちでお祝いですね!」
驚いたように目を丸くする。山下さんと少し豪華なご飯、あとケーキも焼かなきゃ。当日に蒼一さんと二人で祝える。
「祝ってくれるの?」
「もちろんですよ! あ、そんな大層なことはしませんが……お仕事終わって家で誕生日会やりましょう」
私の提案に、蒼一さんがそっと目を細めた。そして優しい笑顔で頷く。
「ありがとう。仕事絶対早く終わらせて帰る」
よかった、と安心する。当日にちゃんとお祝いできるんだ。それだけで私は十分嬉しい。
ニコニコしながらご飯を頬張る。プレゼントも買わなきゃ、何がいいんだろう。男の人って何が欲しいか分からないから……あ、そうだ!
「あの話は変わるんですが蒼一さん。この前会った蓮也覚えてますか?」
私が尋ねると、一瞬彼の箸が止まる。そしてほんの少し間があったと、私の方を見た。
「うん、覚えてるよ」
「今度ご飯行こうって誘われたんですけど、あの、ほら、それってこう、あんまりかな、と思って」
歯切れの悪い言葉をゴニョゴニョと言った。なんだか言いにくかったのだ、『異性と二人で食事はよくないですか、一応私たちは書類上夫婦だから』なんて。
私のぼんやりした言葉を蒼一さんは理解したようだった。味噌汁を飲み込み、小さな声で言った。
「別に行ってきたら」
「え」
「ランチぐらいは大丈夫だよ。気にしないで。彼は昔からの友達だってしってるから」
そう言った蒼一さんは、そのまま食事を続けた。
黙々と食事を続ける彼に倣い私も箸を動かす。きっと蒼一さんはそう言うだろうなと思っていた。最初から私の好きに生活していいんだよって言ってたし。行かないで欲しいなんて言うはずないよね。
ただ……少しだけ寂しいのは、なぜなのかな。
「分かりました。じゃあ今度昼に食事でも行ってきます」
「楽しんでね」
蒼一さんはそれだけ言うと、あとは何も言わなかった。
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