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咲良の戸惑い②
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ふうと息を吐く。結局私と蒼一さんの関係は変わらず今に至る。
「咲良さん、あっちのお鍋の火を弱めた方が」
「あ、しまった!」
私はぼうっとしてたのを慌てて自分を戒める。料理を提供するぐらいしか仕事ができてないんだもの、しっかりしなきゃね。
鍋の中身を確認しつつ、私はあっと思い出したことがあった。洗い物をしている山下さんに恐る恐る尋ねる。
「あの、山下さん」
「はい?」
「山下さんって、ケーキ……とか、作れますか?」
私の言葉をきき、彼女は笑って答えてくれた。
「ええ作れますよ」
「あの、教えていただけませんか」
私が言うと、山下さんは手をタオルで拭きながらぱっと顔を明るくさせる。そしてニコニコしながら言った。
「蒼一さんのお誕生日ですか!」
私は恥ずかしくなりながらも小さく頷いた。
そう、あと少しで蒼一さんの誕生日がやってくる。子供の頃は下手くそな似顔絵とかを渡していたのが懐かしい。大好きなお兄ちゃんにプレゼントしたわけだが、思春期だった蒼一さんにとっては迷惑だっただろう。
それでも彼は嬉しいよと喜んで子供の頃の私を褒めてくれた。いつだって彼は優しく、私を面倒みてくれていた。
私も成長するにつれ、恥ずかしさも勝ち蒼一さんにプレゼントなんかしなくなっていた。そういうのはお姉ちゃんの役目だと思っていたし、何をあげていいかわからなかったと言うのもある。
でも今は一緒に暮らしていて、書類上だけでも夫婦なのだからお祝いしなくちゃ。ちょっと豪華な料理を作って、できればケーキも焼いてみようかと思い立っているところなのだ。
山下さんは嬉しそうに笑ってくれる。
「そうでしたね、そうでした! お誕生日でしたね蒼一さん! ぜひ焼きましょう」
「はい、大したことはできないけれど、自分にできることは頑張りたいなあって」
「分かりました、ケーキなんて焼くのは久しぶりだから私も予習してきますね。ほら、私の子供たちも大きくなっちゃったから! 腕が鳴りますね~」
私より気合が入っている山下さんを見て笑う。蒼一さんが幼い頃から家政婦として出入りしている山下さんは、きっと蒼一さんのことも子供のように思っているところがあると思う。
でもよかった、これでケーキは一安心。あとはプレゼントを選ばなきゃ。
想像しながら顔の筋肉が緩んでくる。喜んでくれるといいなあ、なんて。
同居人から進歩できない苦しみはあれど、やっぱり好きな人のそばにいることはこの上ない幸せ。誕生日を祝えるなんて、ワクワクしちゃうな。
私が怪しくニヤニヤしていると、突然山下さんが顔を覗き込んでくる。彼女は嬉しそうに目を線にしながら言った。
「ふふふ、いいですねえ。恋する乙女って感じ」
「えっ!」
「微笑ましいですよ~! 可愛らしいわ」
恋する、なんてストレートに言われて一瞬慌ててしまった。でも特に否定する必要もないため、私は恥ずかしく思いながら小さく頷いた。
山下さんは気づいてるんだなあ。私が蒼一さんを本当に好きだってこと。勿論片想いだとは知らないだろうけど。形だけの夫婦だなんて普通思わないよね。
彼女はうんうんと頷く。
「好きな人のためじゃなきゃ、咲良さんもこんなに頑張って料理を勉強したりしないですもんね。あなたの真剣な眼差し見てればわかります」
「ふふ、山下さんの教え方が上手なおかげでもあります」
「嬉しいこと言ってくれるー!」
二人で顔を合わせて笑う。最初は家政婦を呼ぶって言われた時少し戸惑ったけれど、相手が山下さんでよかったと思った。子供の頃から顔は知っているし、とっても明るくていい人だ。この人と話すことが楽しみにもなっている。
山下さんとケーキ作るのも待ち遠しいなあ。
あ……でも。私の心にふと翳りができる。
当日は平日でお仕事だし、その後も誕生日は他の人と過ごすかも。友達と食事に行くとか。ちゃんとその日の予定を確認しなきゃだなあ。
ぼんやりと鍋の中身をかき混ぜながら思う。こんな時、本当の夫婦だったら確認なんて取らずに無言の了解で一緒にお祝いできるんだろうな。
私たちにはまだそれがない。
山下さんに気づかれないように小さく息を吐いた。
「咲良さん、あっちのお鍋の火を弱めた方が」
「あ、しまった!」
私はぼうっとしてたのを慌てて自分を戒める。料理を提供するぐらいしか仕事ができてないんだもの、しっかりしなきゃね。
鍋の中身を確認しつつ、私はあっと思い出したことがあった。洗い物をしている山下さんに恐る恐る尋ねる。
「あの、山下さん」
「はい?」
「山下さんって、ケーキ……とか、作れますか?」
私の言葉をきき、彼女は笑って答えてくれた。
「ええ作れますよ」
「あの、教えていただけませんか」
私が言うと、山下さんは手をタオルで拭きながらぱっと顔を明るくさせる。そしてニコニコしながら言った。
「蒼一さんのお誕生日ですか!」
私は恥ずかしくなりながらも小さく頷いた。
そう、あと少しで蒼一さんの誕生日がやってくる。子供の頃は下手くそな似顔絵とかを渡していたのが懐かしい。大好きなお兄ちゃんにプレゼントしたわけだが、思春期だった蒼一さんにとっては迷惑だっただろう。
それでも彼は嬉しいよと喜んで子供の頃の私を褒めてくれた。いつだって彼は優しく、私を面倒みてくれていた。
私も成長するにつれ、恥ずかしさも勝ち蒼一さんにプレゼントなんかしなくなっていた。そういうのはお姉ちゃんの役目だと思っていたし、何をあげていいかわからなかったと言うのもある。
でも今は一緒に暮らしていて、書類上だけでも夫婦なのだからお祝いしなくちゃ。ちょっと豪華な料理を作って、できればケーキも焼いてみようかと思い立っているところなのだ。
山下さんは嬉しそうに笑ってくれる。
「そうでしたね、そうでした! お誕生日でしたね蒼一さん! ぜひ焼きましょう」
「はい、大したことはできないけれど、自分にできることは頑張りたいなあって」
「分かりました、ケーキなんて焼くのは久しぶりだから私も予習してきますね。ほら、私の子供たちも大きくなっちゃったから! 腕が鳴りますね~」
私より気合が入っている山下さんを見て笑う。蒼一さんが幼い頃から家政婦として出入りしている山下さんは、きっと蒼一さんのことも子供のように思っているところがあると思う。
でもよかった、これでケーキは一安心。あとはプレゼントを選ばなきゃ。
想像しながら顔の筋肉が緩んでくる。喜んでくれるといいなあ、なんて。
同居人から進歩できない苦しみはあれど、やっぱり好きな人のそばにいることはこの上ない幸せ。誕生日を祝えるなんて、ワクワクしちゃうな。
私が怪しくニヤニヤしていると、突然山下さんが顔を覗き込んでくる。彼女は嬉しそうに目を線にしながら言った。
「ふふふ、いいですねえ。恋する乙女って感じ」
「えっ!」
「微笑ましいですよ~! 可愛らしいわ」
恋する、なんてストレートに言われて一瞬慌ててしまった。でも特に否定する必要もないため、私は恥ずかしく思いながら小さく頷いた。
山下さんは気づいてるんだなあ。私が蒼一さんを本当に好きだってこと。勿論片想いだとは知らないだろうけど。形だけの夫婦だなんて普通思わないよね。
彼女はうんうんと頷く。
「好きな人のためじゃなきゃ、咲良さんもこんなに頑張って料理を勉強したりしないですもんね。あなたの真剣な眼差し見てればわかります」
「ふふ、山下さんの教え方が上手なおかげでもあります」
「嬉しいこと言ってくれるー!」
二人で顔を合わせて笑う。最初は家政婦を呼ぶって言われた時少し戸惑ったけれど、相手が山下さんでよかったと思った。子供の頃から顔は知っているし、とっても明るくていい人だ。この人と話すことが楽しみにもなっている。
山下さんとケーキ作るのも待ち遠しいなあ。
あ……でも。私の心にふと翳りができる。
当日は平日でお仕事だし、その後も誕生日は他の人と過ごすかも。友達と食事に行くとか。ちゃんとその日の予定を確認しなきゃだなあ。
ぼんやりと鍋の中身をかき混ぜながら思う。こんな時、本当の夫婦だったら確認なんて取らずに無言の了解で一緒にお祝いできるんだろうな。
私たちにはまだそれがない。
山下さんに気づかれないように小さく息を吐いた。
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