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蒼一の想い④

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 私は無言で彼女の熱い手をとり中へ引いた。ベッドに誘導すると、そっと座らせる。

「こんな時くらい頼ってほしいな」

「でも」

「はい、寝て。反論禁止。待っててね」

 布団に寝転がった咲良は申し訳なさそうにこちらを見上げた。それを安心させるように微笑む。

 そしてすぐさまキッチンへ向かった。テーブルにある食事は美味しそうだが高熱が出ている人にはやや厳しそうだ。私は簡単にお粥を作り冷蔵庫に入っている果物を剥いた。薬箱に入っていた風邪薬も用意し、たっぷり水分を持って再び咲良の部屋に向かう。

 慣れない生活にパーティーでトドメを刺したかもしれない。彼女が体調を崩しても仕方のないことだ。朝会った時は普通にしてたと思ったが、もしかしたらすでに体調が悪かったのだろうか。気づけなかった自分が憎い。

 ノックし扉を開けた。咲良はちゃんとベッドに横になっていた。私は持っていたお盆を一旦置き話しかける。

「食べれるかな、薬飲むから少しでも胃に入れたほうがいいよ」

「あれ、おかゆ? 蒼一さん作ってくれたんですか!」

「消化にいいものがいいからね」

「すみません、わざわざ作らせちゃった」

 申し訳なさそうに言ってくる咲良に笑う。

「お粥ぐらいで大袈裟だな。食べれる? 食べさせてあげようか」

「たた、食べれます!!」

 慌てた様子で彼女は起き上がる。私が差し出したお粥を受け取り、頭を下げる。

「果物まで……ほんとありがとうございます」

「無理しないでいいからね、食べれる分だけで」

「あとは大丈夫です。ありがとうございました」

「すぐ追い出そうとするね」

「だって、うつしちゃいます」

「その時はその時だよ」

 私の言葉に、咲良は困ったように視線を泳がせた。熱で真っ赤にさせた顔をさらに紅葉色にしながら、ポツンと小声で呟く。

「……シャワーは入ったんですけど……その後も汗いっぱいかいたから、その、匂いとか気になるんです」

 誰だ? 今私の心臓を握りつぶしたのは。おかげで一瞬思考が止まってしまったではないか。

 恥ずかしそうにしている咲良の横顔にため息を漏らしてしまいそうになるのを必死に堪えた。無意識にこんなに私の心を揺さぶる彼女が恐ろしいとさえ思う。

 なんとか平然を装いながら笑ってみせる。

「そうなの? 全然わからないから大丈夫だよ」

「でも……」

「それより、咲良ちゃんの様子の方が心配だよ。その熱かなり高いでしょう。せめてちゃんと薬を飲むところまで」

 私の食い下がりに彼女は折れた。小さな口でゆっくり食事をとり、果物も半分ほど食べた。水分をしっかり飲んだあと、ちゃんと薬も飲み込む。

 そのまま重そうな体を横にしてベッドに丸まった。

 顔を布団から半分だけ出している咲良がこちらを見ている。食器をまとめている私に小さな声で言った。

「蒼一さん、ありがとうございます」

「いいえ。これくらい当然でしょ。たくさん寝るんだよ。無理しないこと」

 私が言うと頷いた。食器を片付けに一度外に出、そうだ頭を冷やすものでも、と思い出した。再度部屋を訪ねると、ノックしても今度は返事がなかった。

 恐る恐るドアを開ければ、早いことに咲良はもう寝息を立てていた。だいぶ辛いのだろう、薬が効いて熱が下がればいいのだが。

 私は起こさないようにそうっと近寄り、彼女の額を冷やした。冷たさに驚いたのか、少しだけ眉を顰める。たったそれだけのことが酷く愛しくなって、そのまま咲良の顔を覗き込んだ。

 気持ちよさそうにすやすや眠る咲良の寝顔を見て笑いながら、もう寝室が分かれてしまったため寝顔を拝むこともあまりできないのだと思った。

 咲良がいないベッドは広い。広くて、快適で、自由で、そして寂しい。もうこれで咲良と二度と一緒に寝ることがないのだと思うと自分で提案したにも関わらず苛立った。

 ぼんやりと咲良の寝顔を眺める。布団から出ている左手が、やはりスッキリしていることに気づき無意識にその手を取った。私より小さくて熱い手だった。


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