30 / 95
蒼一の想い④
しおりを挟む
私は無言で彼女の熱い手をとり中へ引いた。ベッドに誘導すると、そっと座らせる。
「こんな時くらい頼ってほしいな」
「でも」
「はい、寝て。反論禁止。待っててね」
布団に寝転がった咲良は申し訳なさそうにこちらを見上げた。それを安心させるように微笑む。
そしてすぐさまキッチンへ向かった。テーブルにある食事は美味しそうだが高熱が出ている人にはやや厳しそうだ。私は簡単にお粥を作り冷蔵庫に入っている果物を剥いた。薬箱に入っていた風邪薬も用意し、たっぷり水分を持って再び咲良の部屋に向かう。
慣れない生活にパーティーでトドメを刺したかもしれない。彼女が体調を崩しても仕方のないことだ。朝会った時は普通にしてたと思ったが、もしかしたらすでに体調が悪かったのだろうか。気づけなかった自分が憎い。
ノックし扉を開けた。咲良はちゃんとベッドに横になっていた。私は持っていたお盆を一旦置き話しかける。
「食べれるかな、薬飲むから少しでも胃に入れたほうがいいよ」
「あれ、おかゆ? 蒼一さん作ってくれたんですか!」
「消化にいいものがいいからね」
「すみません、わざわざ作らせちゃった」
申し訳なさそうに言ってくる咲良に笑う。
「お粥ぐらいで大袈裟だな。食べれる? 食べさせてあげようか」
「たた、食べれます!!」
慌てた様子で彼女は起き上がる。私が差し出したお粥を受け取り、頭を下げる。
「果物まで……ほんとありがとうございます」
「無理しないでいいからね、食べれる分だけで」
「あとは大丈夫です。ありがとうございました」
「すぐ追い出そうとするね」
「だって、うつしちゃいます」
「その時はその時だよ」
私の言葉に、咲良は困ったように視線を泳がせた。熱で真っ赤にさせた顔をさらに紅葉色にしながら、ポツンと小声で呟く。
「……シャワーは入ったんですけど……その後も汗いっぱいかいたから、その、匂いとか気になるんです」
誰だ? 今私の心臓を握りつぶしたのは。おかげで一瞬思考が止まってしまったではないか。
恥ずかしそうにしている咲良の横顔にため息を漏らしてしまいそうになるのを必死に堪えた。無意識にこんなに私の心を揺さぶる彼女が恐ろしいとさえ思う。
なんとか平然を装いながら笑ってみせる。
「そうなの? 全然わからないから大丈夫だよ」
「でも……」
「それより、咲良ちゃんの様子の方が心配だよ。その熱かなり高いでしょう。せめてちゃんと薬を飲むところまで」
私の食い下がりに彼女は折れた。小さな口でゆっくり食事をとり、果物も半分ほど食べた。水分をしっかり飲んだあと、ちゃんと薬も飲み込む。
そのまま重そうな体を横にしてベッドに丸まった。
顔を布団から半分だけ出している咲良がこちらを見ている。食器をまとめている私に小さな声で言った。
「蒼一さん、ありがとうございます」
「いいえ。これくらい当然でしょ。たくさん寝るんだよ。無理しないこと」
私が言うと頷いた。食器を片付けに一度外に出、そうだ頭を冷やすものでも、と思い出した。再度部屋を訪ねると、ノックしても今度は返事がなかった。
恐る恐るドアを開ければ、早いことに咲良はもう寝息を立てていた。だいぶ辛いのだろう、薬が効いて熱が下がればいいのだが。
私は起こさないようにそうっと近寄り、彼女の額を冷やした。冷たさに驚いたのか、少しだけ眉を顰める。たったそれだけのことが酷く愛しくなって、そのまま咲良の顔を覗き込んだ。
気持ちよさそうにすやすや眠る咲良の寝顔を見て笑いながら、もう寝室が分かれてしまったため寝顔を拝むこともあまりできないのだと思った。
咲良がいないベッドは広い。広くて、快適で、自由で、そして寂しい。もうこれで咲良と二度と一緒に寝ることがないのだと思うと自分で提案したにも関わらず苛立った。
ぼんやりと咲良の寝顔を眺める。布団から出ている左手が、やはりスッキリしていることに気づき無意識にその手を取った。私より小さくて熱い手だった。
「こんな時くらい頼ってほしいな」
「でも」
「はい、寝て。反論禁止。待っててね」
布団に寝転がった咲良は申し訳なさそうにこちらを見上げた。それを安心させるように微笑む。
そしてすぐさまキッチンへ向かった。テーブルにある食事は美味しそうだが高熱が出ている人にはやや厳しそうだ。私は簡単にお粥を作り冷蔵庫に入っている果物を剥いた。薬箱に入っていた風邪薬も用意し、たっぷり水分を持って再び咲良の部屋に向かう。
慣れない生活にパーティーでトドメを刺したかもしれない。彼女が体調を崩しても仕方のないことだ。朝会った時は普通にしてたと思ったが、もしかしたらすでに体調が悪かったのだろうか。気づけなかった自分が憎い。
ノックし扉を開けた。咲良はちゃんとベッドに横になっていた。私は持っていたお盆を一旦置き話しかける。
「食べれるかな、薬飲むから少しでも胃に入れたほうがいいよ」
「あれ、おかゆ? 蒼一さん作ってくれたんですか!」
「消化にいいものがいいからね」
「すみません、わざわざ作らせちゃった」
申し訳なさそうに言ってくる咲良に笑う。
「お粥ぐらいで大袈裟だな。食べれる? 食べさせてあげようか」
「たた、食べれます!!」
慌てた様子で彼女は起き上がる。私が差し出したお粥を受け取り、頭を下げる。
「果物まで……ほんとありがとうございます」
「無理しないでいいからね、食べれる分だけで」
「あとは大丈夫です。ありがとうございました」
「すぐ追い出そうとするね」
「だって、うつしちゃいます」
「その時はその時だよ」
私の言葉に、咲良は困ったように視線を泳がせた。熱で真っ赤にさせた顔をさらに紅葉色にしながら、ポツンと小声で呟く。
「……シャワーは入ったんですけど……その後も汗いっぱいかいたから、その、匂いとか気になるんです」
誰だ? 今私の心臓を握りつぶしたのは。おかげで一瞬思考が止まってしまったではないか。
恥ずかしそうにしている咲良の横顔にため息を漏らしてしまいそうになるのを必死に堪えた。無意識にこんなに私の心を揺さぶる彼女が恐ろしいとさえ思う。
なんとか平然を装いながら笑ってみせる。
「そうなの? 全然わからないから大丈夫だよ」
「でも……」
「それより、咲良ちゃんの様子の方が心配だよ。その熱かなり高いでしょう。せめてちゃんと薬を飲むところまで」
私の食い下がりに彼女は折れた。小さな口でゆっくり食事をとり、果物も半分ほど食べた。水分をしっかり飲んだあと、ちゃんと薬も飲み込む。
そのまま重そうな体を横にしてベッドに丸まった。
顔を布団から半分だけ出している咲良がこちらを見ている。食器をまとめている私に小さな声で言った。
「蒼一さん、ありがとうございます」
「いいえ。これくらい当然でしょ。たくさん寝るんだよ。無理しないこと」
私が言うと頷いた。食器を片付けに一度外に出、そうだ頭を冷やすものでも、と思い出した。再度部屋を訪ねると、ノックしても今度は返事がなかった。
恐る恐るドアを開ければ、早いことに咲良はもう寝息を立てていた。だいぶ辛いのだろう、薬が効いて熱が下がればいいのだが。
私は起こさないようにそうっと近寄り、彼女の額を冷やした。冷たさに驚いたのか、少しだけ眉を顰める。たったそれだけのことが酷く愛しくなって、そのまま咲良の顔を覗き込んだ。
気持ちよさそうにすやすや眠る咲良の寝顔を見て笑いながら、もう寝室が分かれてしまったため寝顔を拝むこともあまりできないのだと思った。
咲良がいないベッドは広い。広くて、快適で、自由で、そして寂しい。もうこれで咲良と二度と一緒に寝ることがないのだと思うと自分で提案したにも関わらず苛立った。
ぼんやりと咲良の寝顔を眺める。布団から出ている左手が、やはりスッキリしていることに気づき無意識にその手を取った。私より小さくて熱い手だった。
0
お気に入りに追加
285
あなたにおすすめの小説
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる