上 下
26 / 95

咲良の想い⑩

しおりを挟む
 蒼一さんがくれた。小さな石が光っている。シンプルででも綺麗だ。パーティーのためだとはいえ、私のために買ってくれた。

 これを外したくないと思った。私はもう子供じゃない、蒼一さんと結婚した大人の女だ。本当は彼に、一人の女性として意識してもらいたい。

 私の願いを聞いてもらえるとすればただ一つ。

 例えお姉ちゃんの代わりでもいいから、同居人からどうにかして脱出したいの

「……そうです。私、もう子供じゃないんです」

「そうだね。もう二十二だもんね」

「子供っぽく見られるけど違います。私は」

 隣に座る蒼一さんをみる。瞬間、茶色の瞳と目が合った。たったそれだけで、私の全身は縛られたように動けなくなってしまう。魔法だろうか、と思った。

 あなたの妻として隣に立つことがこれほど嬉しかったなんて。できれば本当に妻となれたらどれくらい幸せなんだろう。私は求めすぎなんだろうか。

 出したい言葉が出てこない。でも言いたい。言ったら彼が困ることなんてわかってる、けど伝えたい。

 私、は。




「あ」

 言葉を探している時、目の前の蒼一さんが声を上げた。首を傾げると、彼は笑って言った。

「そうだ。今日、来たよ」

「え?」

「咲良ちゃんのベッド」

 それを言われた途端、言おうとしていた言葉は脆くも崩れ去った。サラサラと砂のように、言いたかった気持ちも無くなっていく。

 嬉しそうに、ほっとしたように言った蒼一さんの顔が印象的だった。

「パーティーの間、山下さんに立ち会いお願いしておいた。あっちの部屋に設置したから、咲良ちゃんはそっちで寝てね」

「…………」

「これでゆっくり寝れるね。よかった」

 これまで毎晩隣で寝ていた私たち。それでもただ睡眠をするだけで、本当に彼は何もしてこなかった。

 彼の提案で購入した私用のベッド。私用の部屋。ここに完全に別室が確立された。

 それは『本当に手なんか出さないよ』という彼の強い意志だった。



「……はい、ありがとうございます」

「疲れたでしょう、先お風呂入っておいで」

「お言葉に甘えて。ありがとうございます」

「お礼の件は考えておいてね」

 私はニコリと笑って見せると、そのまま蒼一さんに背を向けた。ふらふらと部屋に入ってみると、新品のベッドが確かにそこには存在していた。

 苦笑する。褒められて調子に乗ってしまった。これほど対象外だと彼から突きつけられて、何を夢見ていたんだろう。

 普通、はさ。気持ちはなくても、男の人って女を抱けるんじゃないの?

 私はそんな気も起きないほど女として見られてないんだろうか。隣に寝て、それでも何もないんじゃもう救いようがない。きっと一生、私は彼と繋がることはない。

 左手にしていた指輪をそっと外し、近くの引き出しにしまいこんだ。綺麗な輝きを見せる石が、今はあまりに辛かった。





しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

私、女王にならなくてもいいの?

gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

処理中です...