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咲良の憂鬱②
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「あ! あの蒼一さん、夕飯は何か食べたいものとかありますか? 私そんなに料理上手くないけど、それくらい……」
私が尋ねると、彼は少しだけ眉を下げた。サラダを食べながらいう。
「無理しなくていいよ。そうだ、うちの家政婦できてる人に、夕方あたりこっちにも来てもらうように言っておくよ。料理はその人に任せればいい。夕飯はそうしていこう」
「え、でも……」
「無理に働こうとしなくていいよ。咲良ちゃんは別に家にいるだけでいいから」
柔らかな声で言ったその言葉に、私はただ打ちひしがれた。
それはつまり、妻としてなんて何も動かなくていい。ただお飾りとしてそこにいればいい。
そういう、こと。
パンを持っている手が震える。わかっていたんだ、書類上だけ夫婦になったけど、私たちはまるで他人だってこと。家族になんてなれるはずがない。
「咲良ちゃんは自由にしてていいんだよ。やりたいことをやればいい。まだ若いんだし、友達と遊んだり買い物をしたり習い事をしたり。何でもしていいから」
「……はい」
「カードを渡しておくから好きなものは何でも買い揃えておいで。新生活で必要なものだってあるだろうから」
そう言って蒼一さんはカードをテーブルの上に置いた。私はそれをただぼんやりと眺め、もう喉を通りそうにないパンを持ったまま固まった。
「僕は今日残業があるから、帰り遅くなると思うから」
「……はい」
「先寝ててね」
そういうと、いつのまにか食べ終わっていた蒼一さんは食器をキッチンまで運んでその場から立ち去った。私はまだほとんど残っている食材を見つめながら虚しさに溺れる。
美味しい食事、好きな人と向かい合う朝。状況的には最高に幸せなのに、心の中には侘しさしか残らないよ。
これじゃ夫婦じゃなくて、同居人みたい。
お姉ちゃんのことが好きな蒼一さんが、すぐに他の女と夫婦になる方が難しいとは思う。それは彼の誠実さを物語っているとも言える。
でもそれでも……それにしても……
「じゃあ咲良ちゃん。僕行ってくるから、ゆっくりしててね」
「あ! は、はいいってらっしゃい!」
蒼一さんは軽く手を振ると、そのまま玄関へと向かっていった。追いかけて玄関まで送ろうかと一瞬思ったが、きっと彼は断るだろうなと思ってやめた。
遠くで鍵を施錠する音が聞こえる。ああ、出ていったんだな、とぼんやり思った。
もう冷めた食事たちを、私は一人食べた。先に寝てていいってことは、夕飯も一緒には食べないんだろう。
「……寂しい、なあ……」
自分の小声が、小さく響いた。
私が尋ねると、彼は少しだけ眉を下げた。サラダを食べながらいう。
「無理しなくていいよ。そうだ、うちの家政婦できてる人に、夕方あたりこっちにも来てもらうように言っておくよ。料理はその人に任せればいい。夕飯はそうしていこう」
「え、でも……」
「無理に働こうとしなくていいよ。咲良ちゃんは別に家にいるだけでいいから」
柔らかな声で言ったその言葉に、私はただ打ちひしがれた。
それはつまり、妻としてなんて何も動かなくていい。ただお飾りとしてそこにいればいい。
そういう、こと。
パンを持っている手が震える。わかっていたんだ、書類上だけ夫婦になったけど、私たちはまるで他人だってこと。家族になんてなれるはずがない。
「咲良ちゃんは自由にしてていいんだよ。やりたいことをやればいい。まだ若いんだし、友達と遊んだり買い物をしたり習い事をしたり。何でもしていいから」
「……はい」
「カードを渡しておくから好きなものは何でも買い揃えておいで。新生活で必要なものだってあるだろうから」
そう言って蒼一さんはカードをテーブルの上に置いた。私はそれをただぼんやりと眺め、もう喉を通りそうにないパンを持ったまま固まった。
「僕は今日残業があるから、帰り遅くなると思うから」
「……はい」
「先寝ててね」
そういうと、いつのまにか食べ終わっていた蒼一さんは食器をキッチンまで運んでその場から立ち去った。私はまだほとんど残っている食材を見つめながら虚しさに溺れる。
美味しい食事、好きな人と向かい合う朝。状況的には最高に幸せなのに、心の中には侘しさしか残らないよ。
これじゃ夫婦じゃなくて、同居人みたい。
お姉ちゃんのことが好きな蒼一さんが、すぐに他の女と夫婦になる方が難しいとは思う。それは彼の誠実さを物語っているとも言える。
でもそれでも……それにしても……
「じゃあ咲良ちゃん。僕行ってくるから、ゆっくりしててね」
「あ! は、はいいってらっしゃい!」
蒼一さんは軽く手を振ると、そのまま玄関へと向かっていった。追いかけて玄関まで送ろうかと一瞬思ったが、きっと彼は断るだろうなと思ってやめた。
遠くで鍵を施錠する音が聞こえる。ああ、出ていったんだな、とぼんやり思った。
もう冷めた食事たちを、私は一人食べた。先に寝てていいってことは、夕飯も一緒には食べないんだろう。
「……寂しい、なあ……」
自分の小声が、小さく響いた。
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