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九条尚久と憑かれやすい青年
撮影開始
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「部屋内を撮影しても?」
「撮影ですか?」
きょとんとして尋ねると、九条は頷いた。
「霊は高性能なカメラに映ることも多いんです。なので私は、調査中は可能な限りその場所を撮影することにしています。勿論調査が終われば消去しますし、それでも伊藤さんが嫌ならやりませんが」
「いえ、別に構わないです。そういうやり方なんだ、って感心してただけで」
「じゃあ早速やりましょう。手伝ってもらえますか」
九条はサラリとそう言ったので伊藤も反射的に頷いたものの、依頼主を平然と使うそのやり方はいかがなものか、と呆れた。別にいいけどさ、手伝うけどさ。
二人は一度九条の車へと戻った。車のトランクには、カメラやモニターなどがぎっしり積んであり、それを男二人で部屋まで運び入れた。一つ一つが重量があり、伊藤は息を乱しながら必死になって体を動かす。
ようやくすべての機材を部屋に入れ、九条はカメラを部屋に設置し始める。地べたに座り込み、何やらコードをいじりながら言う。伊藤は並んだ機材たちを見渡しため息をついた。
「凄いですねー! 想像以上に本格的です」
「必ず映るというわけでもないですがね。相手の力が強いとこちらのカメラが故障したりもしますし……」
「ホラー映画でよくある展開ですねえ」
「言いましたが私は基本シルエットしか見えません。ですが、こうしてカメラに映った物はさすがに認識できます。あなたもそうだと思いますよ、テレビ番組の心霊映像に映る霊は見えるでしょう?」
「えっ。ああいうのってヤラセじゃないんですか?」
伊藤の中では、ああいったものは基本故意に作られたもので、九条のような『本物』から見れば鼻で笑ってしまうような代物かと思っていたのだが、九条は首を横に振る。
「本物もあります。まあ、九割以上は偽物ですがね」
「そうだったんですか……本物もあるんですか……」
伊藤はそう呟きながら少し寒気を覚えた。今まで、そういう類の番組は人並みに見てきたが、基本的には友人と盛り上がるために見ていた、ということがほとんどだ。それも、本物とは信じていなかった。
でも、今まで見てきた中にも本物があったのかと思うと……今更、恐怖が襲ってくる。
「これからは軽率に見るのやめます……」
「ほとんどは視聴者を喜ばせるために作られたものですから、面白いですよ。ちゃんとプロが選定しているので、見ただけで呪われる、なんて物はありませんしね。あ、そのコードください」
「そういうものですか……どうぞ。あ、これはこっちにつなげればいいんですか?」
「お願いします」
自然と会話が途切れ、伊藤は分かる範囲でコードを繋げていく。二人は黙々と作業をし、部屋中が映るように設置を完了させる。一気に部屋中が狭くなり、伊藤は普段の自分の部屋の変わりように変な気持ちになった。
九条は立ったままぐるりと部屋を見て回り、満足げに頷いた。
「あとは相手が動くのを待ちましょう。可能なら私、泊っていってもいいですか?」
「えっ!? ま、まあ別にいいですけど……明日休みだし。でも大変ですねえ、いつもこんな風に泊まり込みで仕事するんですか?」
「基本的には。じゃあ、伊藤さんは普段通り過ごしてもらっていいですよ。私のことはお気になさらず」
九条はそう言って床に座り込んでしまう。そうは言われても、初対面の人間が同室にいるのに、普段通りくつろげるわけがない。伊藤は頭を掻いた。
そこで、まだ客に何も出していないことを思いだし、キッチンへ立って戸棚を覗いた。
「九条さん、コーヒーと紅茶どっちがいいですか?」
「どちらもあまり好きではないので、水で」
(ほんとマイペースな人だな……)
伊藤は冷蔵庫からミネラルウォーターを出しグラスに注ぎ、九条の近くのテーブルに置いた。九条は小さく頭を下げる。
「ありがとうございます」
「いえいえ。気付くのが遅くてすみません」
「撮影ですか?」
きょとんとして尋ねると、九条は頷いた。
「霊は高性能なカメラに映ることも多いんです。なので私は、調査中は可能な限りその場所を撮影することにしています。勿論調査が終われば消去しますし、それでも伊藤さんが嫌ならやりませんが」
「いえ、別に構わないです。そういうやり方なんだ、って感心してただけで」
「じゃあ早速やりましょう。手伝ってもらえますか」
九条はサラリとそう言ったので伊藤も反射的に頷いたものの、依頼主を平然と使うそのやり方はいかがなものか、と呆れた。別にいいけどさ、手伝うけどさ。
二人は一度九条の車へと戻った。車のトランクには、カメラやモニターなどがぎっしり積んであり、それを男二人で部屋まで運び入れた。一つ一つが重量があり、伊藤は息を乱しながら必死になって体を動かす。
ようやくすべての機材を部屋に入れ、九条はカメラを部屋に設置し始める。地べたに座り込み、何やらコードをいじりながら言う。伊藤は並んだ機材たちを見渡しため息をついた。
「凄いですねー! 想像以上に本格的です」
「必ず映るというわけでもないですがね。相手の力が強いとこちらのカメラが故障したりもしますし……」
「ホラー映画でよくある展開ですねえ」
「言いましたが私は基本シルエットしか見えません。ですが、こうしてカメラに映った物はさすがに認識できます。あなたもそうだと思いますよ、テレビ番組の心霊映像に映る霊は見えるでしょう?」
「えっ。ああいうのってヤラセじゃないんですか?」
伊藤の中では、ああいったものは基本故意に作られたもので、九条のような『本物』から見れば鼻で笑ってしまうような代物かと思っていたのだが、九条は首を横に振る。
「本物もあります。まあ、九割以上は偽物ですがね」
「そうだったんですか……本物もあるんですか……」
伊藤はそう呟きながら少し寒気を覚えた。今まで、そういう類の番組は人並みに見てきたが、基本的には友人と盛り上がるために見ていた、ということがほとんどだ。それも、本物とは信じていなかった。
でも、今まで見てきた中にも本物があったのかと思うと……今更、恐怖が襲ってくる。
「これからは軽率に見るのやめます……」
「ほとんどは視聴者を喜ばせるために作られたものですから、面白いですよ。ちゃんとプロが選定しているので、見ただけで呪われる、なんて物はありませんしね。あ、そのコードください」
「そういうものですか……どうぞ。あ、これはこっちにつなげればいいんですか?」
「お願いします」
自然と会話が途切れ、伊藤は分かる範囲でコードを繋げていく。二人は黙々と作業をし、部屋中が映るように設置を完了させる。一気に部屋中が狭くなり、伊藤は普段の自分の部屋の変わりように変な気持ちになった。
九条は立ったままぐるりと部屋を見て回り、満足げに頷いた。
「あとは相手が動くのを待ちましょう。可能なら私、泊っていってもいいですか?」
「えっ!? ま、まあ別にいいですけど……明日休みだし。でも大変ですねえ、いつもこんな風に泊まり込みで仕事するんですか?」
「基本的には。じゃあ、伊藤さんは普段通り過ごしてもらっていいですよ。私のことはお気になさらず」
九条はそう言って床に座り込んでしまう。そうは言われても、初対面の人間が同室にいるのに、普段通りくつろげるわけがない。伊藤は頭を掻いた。
そこで、まだ客に何も出していないことを思いだし、キッチンへ立って戸棚を覗いた。
「九条さん、コーヒーと紅茶どっちがいいですか?」
「どちらもあまり好きではないので、水で」
(ほんとマイペースな人だな……)
伊藤は冷蔵庫からミネラルウォーターを出しグラスに注ぎ、九条の近くのテーブルに置いた。九条は小さく頭を下げる。
「ありがとうございます」
「いえいえ。気付くのが遅くてすみません」
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