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九条尚久と憑かれやすい青年
家へ
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「まずは情報を整理しましょう」
九条は新たにポッキーを取り出しかじりつくとそう切り出した。かなり好物なのだろう、ごみ箱の中身を見ても安易に分かる。だが九条の表情筋は固いのか、さっきからあまり動かず、美味しそうには見えない。
伊藤は言われた首が気になりさすりながら答える。無論、彼の指には何も触れないのだが。
「ええと、何から?」
「あなたについて教えてください、伊藤陽太さん。簡単でいいので自己紹介と、これまでの経緯を」
「はい、会社勤めをしています、二十五歳です。言ったように昔から体調を崩しやすいタイプでした。でも今までそれほど悩んでなかったのが実際のところです。慣れていた、という方が正しいかもしれません。今回は、肩が重いのにプラスして、首に感じる圧迫感を何とかしたくて来ました」
年齢を言った際、九条の手が一旦止まった。さっき自分が言った『二十歳にもならないぐらい』と表現したのを、しまったと思ったのかもしれない。
だが特に何も発することなく黙っていたので伊藤は続ける。
「えーと? 苦しさを感じ始めたのはいつ頃だったかなあ、違和感を感じだしたのは一、二か月前だった気がします。それがどんどんこう、息苦しさを覚えてきて」
「その同時期に何か変わったことはありませんでしたか」
「変わったこと? 何かあったっけ」
腕を組んで考え込む。人間は案外、自分の生活の流れを記憶していない。特に社会人ともなれば、忙しさに追われる毎日で必死になるため、いつ頃に何があったか、など中々思い出せない。
考える伊藤に、九条は言う。
「あなたほど憑かれやすいタイプの人間なら、歩いているだけで色々背負ってしまいますけどね。ですが、その首の件は通りすがり、というわけではない気がします。多分結構強いものですよ、お札を持っていたとしても防げなかったかも」
「そんなにやばいものなんですか?」
「のような気がする、というだけです。例えば心霊スポットでバカ騒ぎしただとか、曰くのある何かを手に入れたとか、新たに引っ越ししただとか」
伊藤は友人も多く色々遊びには出るが、心霊スポットで騒ぐほど愚かなことはしないし、何かを収集する癖もない。だが一つ心辺りがあり、あっ、と声を上げた。彼は丁度一か月前、一人暮らしを始めたばかりだったのだ。
「そうだった、今のマンションに引っ越してきたんでした!」
すっと九条の目が細くなる。
「場所はどちらですか」
「A町です」
「築年数は」
「確か五年でした」
「部屋にいて何か感じることはないのですか、気分が悪いとか、聞こえるとか」
「まったく」
「それが原因かどうかまだわかりませんね……見に行きましょう」
九条がすっと立ち上がったのに驚いた。まさかこれから自分の部屋へ行くということか? 予定にないことなのでやや戸惑ったが、同性でもあるし、見られてまずいものでもない。伊藤は素直に従った。
「分かりました。でも事故物件とかじゃなかったですよ? 家賃も他と同じ」
「知っていますか? 死因によっては前住民が亡くなっていたとしても告知義務はありませんし、あったとしても三年間を過ぎると義務ではなくなるんですよ」
「え!? そうなんですか? 死因によってとは?」
「例えば病死だとか、そう言った事件性がないものは告知されません。まあ、腐敗しまくってた、などの状態だったらまた別ですが」
「じゃあもしかして前の住民が遺体で発見された、ということも」
「なくはないです」
賃貸の恐ろしさがここにある、と伊藤は思った。前の住民は今の自分の部屋で、一体何をしてどう過ごしていたのか。それを全く知ることができない。今までは気にしたこともなかったけれど、こう話を聞いてしまうと気になってくる。
「では、行ってみましょう。車出します」
「あ、ありがとうございます!」
九条は新たにポッキーを取り出しかじりつくとそう切り出した。かなり好物なのだろう、ごみ箱の中身を見ても安易に分かる。だが九条の表情筋は固いのか、さっきからあまり動かず、美味しそうには見えない。
伊藤は言われた首が気になりさすりながら答える。無論、彼の指には何も触れないのだが。
「ええと、何から?」
「あなたについて教えてください、伊藤陽太さん。簡単でいいので自己紹介と、これまでの経緯を」
「はい、会社勤めをしています、二十五歳です。言ったように昔から体調を崩しやすいタイプでした。でも今までそれほど悩んでなかったのが実際のところです。慣れていた、という方が正しいかもしれません。今回は、肩が重いのにプラスして、首に感じる圧迫感を何とかしたくて来ました」
年齢を言った際、九条の手が一旦止まった。さっき自分が言った『二十歳にもならないぐらい』と表現したのを、しまったと思ったのかもしれない。
だが特に何も発することなく黙っていたので伊藤は続ける。
「えーと? 苦しさを感じ始めたのはいつ頃だったかなあ、違和感を感じだしたのは一、二か月前だった気がします。それがどんどんこう、息苦しさを覚えてきて」
「その同時期に何か変わったことはありませんでしたか」
「変わったこと? 何かあったっけ」
腕を組んで考え込む。人間は案外、自分の生活の流れを記憶していない。特に社会人ともなれば、忙しさに追われる毎日で必死になるため、いつ頃に何があったか、など中々思い出せない。
考える伊藤に、九条は言う。
「あなたほど憑かれやすいタイプの人間なら、歩いているだけで色々背負ってしまいますけどね。ですが、その首の件は通りすがり、というわけではない気がします。多分結構強いものですよ、お札を持っていたとしても防げなかったかも」
「そんなにやばいものなんですか?」
「のような気がする、というだけです。例えば心霊スポットでバカ騒ぎしただとか、曰くのある何かを手に入れたとか、新たに引っ越ししただとか」
伊藤は友人も多く色々遊びには出るが、心霊スポットで騒ぐほど愚かなことはしないし、何かを収集する癖もない。だが一つ心辺りがあり、あっ、と声を上げた。彼は丁度一か月前、一人暮らしを始めたばかりだったのだ。
「そうだった、今のマンションに引っ越してきたんでした!」
すっと九条の目が細くなる。
「場所はどちらですか」
「A町です」
「築年数は」
「確か五年でした」
「部屋にいて何か感じることはないのですか、気分が悪いとか、聞こえるとか」
「まったく」
「それが原因かどうかまだわかりませんね……見に行きましょう」
九条がすっと立ち上がったのに驚いた。まさかこれから自分の部屋へ行くということか? 予定にないことなのでやや戸惑ったが、同性でもあるし、見られてまずいものでもない。伊藤は素直に従った。
「分かりました。でも事故物件とかじゃなかったですよ? 家賃も他と同じ」
「知っていますか? 死因によっては前住民が亡くなっていたとしても告知義務はありませんし、あったとしても三年間を過ぎると義務ではなくなるんですよ」
「え!? そうなんですか? 死因によってとは?」
「例えば病死だとか、そう言った事件性がないものは告知されません。まあ、腐敗しまくってた、などの状態だったらまた別ですが」
「じゃあもしかして前の住民が遺体で発見された、ということも」
「なくはないです」
賃貸の恐ろしさがここにある、と伊藤は思った。前の住民は今の自分の部屋で、一体何をしてどう過ごしていたのか。それを全く知ることができない。今までは気にしたこともなかったけれど、こう話を聞いてしまうと気になってくる。
「では、行ってみましょう。車出します」
「あ、ありがとうございます!」
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