403 / 449
九条尚久と憑かれやすい青年
あなたものすごいですね
しおりを挟む
男は目の前に腰かけた。そして正面からじっと伊藤を見てくるのだが、やたりどこか目が合っていない気がするのかなぜなのか。人の目を見るのが苦手なタイプだろうか。
「ええっと、頂きます」
さりげなくペットボトルが未開封なのを確かめ、とりあえず伊藤はお茶を一口飲んでみた。ポッキーは特にいらなかった。
少し時間が流れても、まるで話が始まりそうにないので、伊藤から切り出すことにする。
「初めまして、僕、伊藤陽太と言います」
「初めまして、九条尚久といいます」
「九条さん、やっぱりこちらの責任者の方ですね」
「はい、まあ責任者と言いますか、私しかいないんですけどね」
「そ、そうなんですか」
そんな会話をしつつも、やはり九条とは目が合わない。彼は伊藤の肩らへんをじいっと見つめているだけだ。
「あの、それで九条さん。今回ネットで調べまして、ここに」
「あなたものすごいですね」
「へ?」
突然の発言にぽかん、としてしまう。
「私、ここまで背負ってる人、あまり見たことありません。レアですよ、レア」
「はい? 背負ってる、ですか?」
「肩重くないんですか? そんなに引き連れて……」
無表情で九条は言う。伊藤ははっとし、慌てて自分の肩を見た。だが無論、彼には何も見えない。
「ぼぼ、僕なんか憑いてます!?」
「はいそれはもう」
「実は昔から体調を崩しやすくて。熱出すとか、頭痛がするとか、不眠だとかですけどね。ある日霊が憑いてるって指摘されて初めてお祓いしてみたんです。そしたらすっごく楽になりまして! ただ、問題なのか繰り返す、ということなんです。それで、こちらは再発がないってことを聞いて伺ったんですけども」
「ああ……」
九条は小さくそう呟いた後、ゆっくり眉間に皺を寄せた。伊藤は不思議に思いながらも、話を続ける。
「祓ってくれたお寺の住職さんが言ってました。除霊とは霊を引き離す、みたいなことだから、すごく気に入られれば帰ってくるかもしれないって。それで繰り返しているのかなと思ったんですけど。ここはどうして再発しないんですか?」
「私に除霊はできません」
九条はさらりとそんなことを言ったので、伊藤は目を真ん丸にした。
「え!? じゃ、じゃあどうするんですか!?」
「霊の姿も見えますが、基本的には黒いシルエットのように見えます。なんとなく性別、年齢も分かるかなという程度。それに除霊する能力は全くありません。ああいったものは結局生まれ持った才能ですのでね。私は霊と会話するのを得意としてます」
淡々と抑揚なく喋る九条に、伊藤はごくりと唾を飲み込んだ。黒いシルエットすら見たことがない伊藤にとって、九条の話は別世界の物のように感じる。
「その霊がこの世に漂う理由を聞きだし、可能ならばその原因を解決します。そうすることで霊を浄霊させます」
「浄霊?」
「まあ簡単に言えば、しがらみなどを浄化させて成仏させる、もしくは無害な霊にさせることです」
それを聞き、感嘆の声を漏らした。なるほど、それで再発しないというわけか。強制的にどうこうするのではなく、霊が思い残したことを聞いてあげて満足させそ、その霊自体を浄化させる。そんなやり方もあるのだと伊藤は一人納得する。
だが九条本人は、浮かない顔で伊藤を見ていた。
そして突然、こんなことを言いだす。
「あなた何してるんです?」
「へ? 何って、話を」
「そこにいて何がしたんですか? ああ、そちらのあなたも。そんな必死にしがみついても、楽にはなれませんよ」
伊藤はびくっと体を反応させた。僕にじゃない、僕の後ろに向かって話掛けている?
「ええっと、頂きます」
さりげなくペットボトルが未開封なのを確かめ、とりあえず伊藤はお茶を一口飲んでみた。ポッキーは特にいらなかった。
少し時間が流れても、まるで話が始まりそうにないので、伊藤から切り出すことにする。
「初めまして、僕、伊藤陽太と言います」
「初めまして、九条尚久といいます」
「九条さん、やっぱりこちらの責任者の方ですね」
「はい、まあ責任者と言いますか、私しかいないんですけどね」
「そ、そうなんですか」
そんな会話をしつつも、やはり九条とは目が合わない。彼は伊藤の肩らへんをじいっと見つめているだけだ。
「あの、それで九条さん。今回ネットで調べまして、ここに」
「あなたものすごいですね」
「へ?」
突然の発言にぽかん、としてしまう。
「私、ここまで背負ってる人、あまり見たことありません。レアですよ、レア」
「はい? 背負ってる、ですか?」
「肩重くないんですか? そんなに引き連れて……」
無表情で九条は言う。伊藤ははっとし、慌てて自分の肩を見た。だが無論、彼には何も見えない。
「ぼぼ、僕なんか憑いてます!?」
「はいそれはもう」
「実は昔から体調を崩しやすくて。熱出すとか、頭痛がするとか、不眠だとかですけどね。ある日霊が憑いてるって指摘されて初めてお祓いしてみたんです。そしたらすっごく楽になりまして! ただ、問題なのか繰り返す、ということなんです。それで、こちらは再発がないってことを聞いて伺ったんですけども」
「ああ……」
九条は小さくそう呟いた後、ゆっくり眉間に皺を寄せた。伊藤は不思議に思いながらも、話を続ける。
「祓ってくれたお寺の住職さんが言ってました。除霊とは霊を引き離す、みたいなことだから、すごく気に入られれば帰ってくるかもしれないって。それで繰り返しているのかなと思ったんですけど。ここはどうして再発しないんですか?」
「私に除霊はできません」
九条はさらりとそんなことを言ったので、伊藤は目を真ん丸にした。
「え!? じゃ、じゃあどうするんですか!?」
「霊の姿も見えますが、基本的には黒いシルエットのように見えます。なんとなく性別、年齢も分かるかなという程度。それに除霊する能力は全くありません。ああいったものは結局生まれ持った才能ですのでね。私は霊と会話するのを得意としてます」
淡々と抑揚なく喋る九条に、伊藤はごくりと唾を飲み込んだ。黒いシルエットすら見たことがない伊藤にとって、九条の話は別世界の物のように感じる。
「その霊がこの世に漂う理由を聞きだし、可能ならばその原因を解決します。そうすることで霊を浄霊させます」
「浄霊?」
「まあ簡単に言えば、しがらみなどを浄化させて成仏させる、もしくは無害な霊にさせることです」
それを聞き、感嘆の声を漏らした。なるほど、それで再発しないというわけか。強制的にどうこうするのではなく、霊が思い残したことを聞いてあげて満足させそ、その霊自体を浄化させる。そんなやり方もあるのだと伊藤は一人納得する。
だが九条本人は、浮かない顔で伊藤を見ていた。
そして突然、こんなことを言いだす。
「あなた何してるんです?」
「へ? 何って、話を」
「そこにいて何がしたんですか? ああ、そちらのあなたも。そんな必死にしがみついても、楽にはなれませんよ」
伊藤はびくっと体を反応させた。僕にじゃない、僕の後ろに向かって話掛けている?
43
お気に入りに追加
545
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。