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憧れの人
取り戻した日常
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そうだ。相手は今まで出会ったことないほどの変人だ。主食はポッキーだしドライヤーも炊飯器も持ってないし、いつも寝てるし天然だし。残念すぎるイケメン。
でも、そんなの全部知った上で好きになったのだ。苦労するからやめておけ、と何度も自分に言い聞かせたのに、言うことを聞かなかったのはこの私。
今更何を言ってるんだろう。
「九条さんがそんな弱音を吐くなんて意外でした」
笑っていると、彼もふっと力を抜いて微笑んだ。
「あなたのそういうところ、やっぱり凄くいいと思います」
嬉しそうに言った九条さんの顔を見て、笑っていた余裕は再び吹っ飛んでいく。心臓が誰かに握りしめられたように痛い。
何度も諦めようとして、でも出来なかった。絶対報われないだろうって思ってたから。
だからまさか、こんなことになるなんて想像もしていなかった。諦めずに片想いしていてよかったと、心の底から思える。
感慨深く思っていると、ふと九条さんの手が伸びる。それだけで、自分の体が跳ねた。
ゆっくり動く綺麗な指がこちらに迫る。スローモーションのように見えた。憧れてならなかったその手が、私の頬に触れ———
ストン、と力が抜けた。お尻が冷たい床についている。痛みなどは特に感じず、ただ呆然としながら見上げた。九条さんもぽかんとしている。
「……あ、えっと……
腰が抜けたみたいです」
素直にそう言った。
だって、こんな展開私は追いつけない。多分もう体も心も限界なのだ。ついに立っていられなくなり、電池がなくなったおもちゃのように突然停止しましたとさ。
少し沈黙が流れたかと思うと、突然九条さんが吹き出した。そして珍しくも、大きく笑っている。
笑われた。そりゃそうだ、だってムードのかけらもない。普通こういうのって、いい感じのラブシーンで締めたりするもんなのに、腰ぬけるって。
顔を赤くしている私に、九条さんがしゃがみ込む。そして、未だに笑いながら言った。
「あなたって、本当に面白い人ですよね」
そう言った彼の笑顔があんまりにも可愛くて、ずるかった。そんな顔が見れたなら、腰抜けたダサい姿を見られてもまあいっか、って思えるほどに。
私も釣られて笑い出す。二つの笑い声が、部屋に響いていた。
それから仕事はしばらく休んだ。私だけではなく、九条さんや伊藤さんも同じように休んだらしい。
そりゃ夜もあまり眠ることなく緊張感を持って動いていたのだ、休息も必要。
私も帰宅し、お風呂に入った後は死んだように眠った。人生の中で新記録を生み出すほどの長い睡眠で、起きた後は目がパンパンに腫れていた。
それから食べたいものを食べ、見たいテレビを見、聞きたい音楽を聴き、リラックスして過ごした。普通の生活がこれほど幸せだとは。もっと感謝して毎日を過ごそう、と改めて思う。
麗香さんからラインが届き、影山さんと共に入院したこと、二人とももうすぐに退院できそうだということも聞いた。影山さんはかなり塞ぎ込んでいるそうだが、麗香さんがそばにいるなら大丈夫だと思う。時間はかかるだろうが、また除霊師として活躍してほしい。
休みの間、特に九条さんと会うことはなかった。流石の私もあんな事件があった後で、すぐに恋愛モードに入れるわけもない。お互い落ち着いてから、ようやくスタートするのかな、という感じだ。
ただ、仕事が始まる前日、彼から一通ラインがきた。今までほとんどくることがなかったので、飛び跳ねて確認した。
『またお弁当、作ってもらえますか』
実は夢オチだったらどうしよう、と密かに悩んでいた自分は、そのメッセージを読んで、夢じゃなかったんだと思えた。
嬉しさと、どこか感慨深い感情も相まって、少しだけ涙して返信した。
でも、そんなの全部知った上で好きになったのだ。苦労するからやめておけ、と何度も自分に言い聞かせたのに、言うことを聞かなかったのはこの私。
今更何を言ってるんだろう。
「九条さんがそんな弱音を吐くなんて意外でした」
笑っていると、彼もふっと力を抜いて微笑んだ。
「あなたのそういうところ、やっぱり凄くいいと思います」
嬉しそうに言った九条さんの顔を見て、笑っていた余裕は再び吹っ飛んでいく。心臓が誰かに握りしめられたように痛い。
何度も諦めようとして、でも出来なかった。絶対報われないだろうって思ってたから。
だからまさか、こんなことになるなんて想像もしていなかった。諦めずに片想いしていてよかったと、心の底から思える。
感慨深く思っていると、ふと九条さんの手が伸びる。それだけで、自分の体が跳ねた。
ゆっくり動く綺麗な指がこちらに迫る。スローモーションのように見えた。憧れてならなかったその手が、私の頬に触れ———
ストン、と力が抜けた。お尻が冷たい床についている。痛みなどは特に感じず、ただ呆然としながら見上げた。九条さんもぽかんとしている。
「……あ、えっと……
腰が抜けたみたいです」
素直にそう言った。
だって、こんな展開私は追いつけない。多分もう体も心も限界なのだ。ついに立っていられなくなり、電池がなくなったおもちゃのように突然停止しましたとさ。
少し沈黙が流れたかと思うと、突然九条さんが吹き出した。そして珍しくも、大きく笑っている。
笑われた。そりゃそうだ、だってムードのかけらもない。普通こういうのって、いい感じのラブシーンで締めたりするもんなのに、腰ぬけるって。
顔を赤くしている私に、九条さんがしゃがみ込む。そして、未だに笑いながら言った。
「あなたって、本当に面白い人ですよね」
そう言った彼の笑顔があんまりにも可愛くて、ずるかった。そんな顔が見れたなら、腰抜けたダサい姿を見られてもまあいっか、って思えるほどに。
私も釣られて笑い出す。二つの笑い声が、部屋に響いていた。
それから仕事はしばらく休んだ。私だけではなく、九条さんや伊藤さんも同じように休んだらしい。
そりゃ夜もあまり眠ることなく緊張感を持って動いていたのだ、休息も必要。
私も帰宅し、お風呂に入った後は死んだように眠った。人生の中で新記録を生み出すほどの長い睡眠で、起きた後は目がパンパンに腫れていた。
それから食べたいものを食べ、見たいテレビを見、聞きたい音楽を聴き、リラックスして過ごした。普通の生活がこれほど幸せだとは。もっと感謝して毎日を過ごそう、と改めて思う。
麗香さんからラインが届き、影山さんと共に入院したこと、二人とももうすぐに退院できそうだということも聞いた。影山さんはかなり塞ぎ込んでいるそうだが、麗香さんがそばにいるなら大丈夫だと思う。時間はかかるだろうが、また除霊師として活躍してほしい。
休みの間、特に九条さんと会うことはなかった。流石の私もあんな事件があった後で、すぐに恋愛モードに入れるわけもない。お互い落ち着いてから、ようやくスタートするのかな、という感じだ。
ただ、仕事が始まる前日、彼から一通ラインがきた。今までほとんどくることがなかったので、飛び跳ねて確認した。
『またお弁当、作ってもらえますか』
実は夢オチだったらどうしよう、と密かに悩んでいた自分は、そのメッセージを読んで、夢じゃなかったんだと思えた。
嬉しさと、どこか感慨深い感情も相まって、少しだけ涙して返信した。
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