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憧れの人
強すぎた憧れ
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「私を人間にしてくれたのは妻です。彼女が私に愛を教え、優しさを教えてくれ、私は今こうして生きている。あの人と出会わなければ、ここにはいないでしょう。日比谷たちを崇拝することはやめられなかったが、少なくとも黒い部分を隠しながら生きてこれた」
「……そういった人間が一定数いることは知っています。理解はできませんが、一つの趣味ですから、崇拝するだけなら私がとやかく言うことはありません。
ですが、何が悪かったかというと影山さん。あなたには人にはない不思議な強い力を持っていることです」
はっと彼は顔を上げる。私たちの顔を順番に眺め、数歩後退した。何かを察したようだった。その顔は、『信じられない、そんな、まさか』そんな声が聞こえてきそうな表情だ。
追い討ちをかけるように、九条さんが言う。
「分かりますか。麗香すら力負けする、あなたが用意した物はことごとく効かない、あなたの除霊の特徴を知っている。
それは『あなた』しかありえないんですよ」
影山さんは小さく首を振る。何度も何度も振り、信じられないとばかりに言った。
「待ってください……私は確かに人には言えない、黒い部分を持っている自覚はあります。けれどだからと言って」
「言いましたね、必要なのは自覚だと。
あなた、奥様を一ヶ月半前に亡くされていますよね」
影山さんがびくっと反応する。
何度か彼自身から聞いた奥さんのこと。彼は愛妻家で、とても愛しているようだった。
優しい笑顔で、亡くなったことを悲しみ嘆いていたのを私は見ている。
……きっとその奥さんが、
一番大事なキーだった。
「光さんに言っていたそうですね、あなたは昔やりたいこともあったが、奥さんのために諦めたのだと。
本当は思い続けていたのですね、日比谷のようになりたい、彼のようなことをしてみたい。だが、奥さんを裏切ることはできないから、心の中でこっそり尊敬するだけにしていた。オフ会参加も、奥様は知らないのかもしれませんね。
最悪な偶然で、奥様と日比谷は同時期に亡くなった。悲しみと憧れの感情で、あなたの心は不安定になったでしょう。長年隠し続けてきた狂気が溢れ出した。それを止める奥様という存在も無くなってしまったから」
彼は何も言わなかった。どこか一点をぼうっと眺めているだけで、返事も返ってこない。
影山さんが奥さんを心の底から大事に思っていた、それは紛れもない真実だと思う。
その存在があるから、自分の中にある狂気に蓋を出来たのだ。奥さんさえいてくれれば、日比谷の死も、これほど大きな影響にならなかっただろう。
「……私が……日比谷になりたいと思っていた思いが……自分を飛ばしていたというのですか」
力無い声がした。九条さんは躊躇いなく頷く。
「先ほど言いました、光さんがみたのは日比谷の逮捕当時の顔だと。生前の最も輝いていた頃の姿になっている、とも取れますが、私はこう考えたんです。
あの日比谷は、今の日比谷の姿を知らないのではないかと、ね」
影山さんはゆっくり手の平を見つめる。信じられない、という顔だった。
「……そういった人間が一定数いることは知っています。理解はできませんが、一つの趣味ですから、崇拝するだけなら私がとやかく言うことはありません。
ですが、何が悪かったかというと影山さん。あなたには人にはない不思議な強い力を持っていることです」
はっと彼は顔を上げる。私たちの顔を順番に眺め、数歩後退した。何かを察したようだった。その顔は、『信じられない、そんな、まさか』そんな声が聞こえてきそうな表情だ。
追い討ちをかけるように、九条さんが言う。
「分かりますか。麗香すら力負けする、あなたが用意した物はことごとく効かない、あなたの除霊の特徴を知っている。
それは『あなた』しかありえないんですよ」
影山さんは小さく首を振る。何度も何度も振り、信じられないとばかりに言った。
「待ってください……私は確かに人には言えない、黒い部分を持っている自覚はあります。けれどだからと言って」
「言いましたね、必要なのは自覚だと。
あなた、奥様を一ヶ月半前に亡くされていますよね」
影山さんがびくっと反応する。
何度か彼自身から聞いた奥さんのこと。彼は愛妻家で、とても愛しているようだった。
優しい笑顔で、亡くなったことを悲しみ嘆いていたのを私は見ている。
……きっとその奥さんが、
一番大事なキーだった。
「光さんに言っていたそうですね、あなたは昔やりたいこともあったが、奥さんのために諦めたのだと。
本当は思い続けていたのですね、日比谷のようになりたい、彼のようなことをしてみたい。だが、奥さんを裏切ることはできないから、心の中でこっそり尊敬するだけにしていた。オフ会参加も、奥様は知らないのかもしれませんね。
最悪な偶然で、奥様と日比谷は同時期に亡くなった。悲しみと憧れの感情で、あなたの心は不安定になったでしょう。長年隠し続けてきた狂気が溢れ出した。それを止める奥様という存在も無くなってしまったから」
彼は何も言わなかった。どこか一点をぼうっと眺めているだけで、返事も返ってこない。
影山さんが奥さんを心の底から大事に思っていた、それは紛れもない真実だと思う。
その存在があるから、自分の中にある狂気に蓋を出来たのだ。奥さんさえいてくれれば、日比谷の死も、これほど大きな影響にならなかっただろう。
「……私が……日比谷になりたいと思っていた思いが……自分を飛ばしていたというのですか」
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「先ほど言いました、光さんがみたのは日比谷の逮捕当時の顔だと。生前の最も輝いていた頃の姿になっている、とも取れますが、私はこう考えたんです。
あの日比谷は、今の日比谷の姿を知らないのではないかと、ね」
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