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憧れの人
言いかけた言葉
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私は困り果てて苦笑した。その瞳から逃れつつ、なんとか冷静を保つよう自分に言い聞かせた。
「はは、そうですかね、そうだといいな」
「一年前に言ったの忘れたんですか、あなたは綺麗だし十分いい女だと」
さらに追い討ちをかけてくるこの男を、思いっきり殴ってやりたかった。
フラれた相手に褒められるなんて、虚しい以外何者でもない。
そんな風に言う癖に、私を恋愛対象に見ていなかったのは誰だと問い詰めたかった。
本当この人は女心も何もわかっちゃいない。
でも、それを承知で告白した自分が一番悪い。
泣くのを堪え、おどけてお礼を言うので精一杯だった。話題が途切れてまた沈黙が流れた。
テレビが映っていてよかったと思う、それを眺めることで平然を装いやすかったから。
あなたが隣に座っているだけで、体の半身が熱い。
「……光さんは」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
言いかけた言葉を彼は飲み込んだ。私は追求せずまた前をみた。
少しして伊藤さんが帰宅した。一気に事務所が明るくなる。
声を顰めつつも、楽しそうな笑顔でビニール袋を掲げた。
「ただいま戻りましたー! いっぱい買ってきたから食べましょ」
伊藤さんが帰ってきたことでホッとする。なんとなく、九条さんと二人きりはもう辛いと思った。
伊藤さんは私たちの前にあるテーブルに色々なものを並べていく。
「伊藤さん、ありがとうございます」
「全然いいの。何話してたの二人で?」
「え? えーと……九条さんが女になったらどんな感じなのかを」
「嘘でしょ何がどうなってそんな話してんの」
呆れたように伊藤さんが言う。私はさっきまでの複雑な気持ちを飛ばすように、笑って言った。
「あ! でもモテるのは九条さんより絶対伊藤さんですね、伊藤さん女の子になったらえげつなくモテると思いますよ!」
「それ全然嬉しくないんだけど……男にモテるってさあ」
「そうですか? 褒めてるんですけど……あ、もちろん今も女の子にモテると思いますけど」
「ええ? モテないよー別に」
彼は笑いながらどんどん買ってきたものを出す。食事はもちろん、飲み物やおやつまでラインナップは豊富だ。
九条さんはポッキーに手を伸ばして、すぐにひっこめた。
「トイレに行ってきます。先に食べててください」
「はーい」
そう言って席を立ったのを、見送ることなく机の上だけを見ていた。一人で気まずくなって馬鹿みたいだな、と反省している。
九条さんがいなくなり伊藤さんと二人になったところで、彼はトーンを変えずに聞いてきた。
「で? 本当は何話してたの?」
サラリと言ったので驚いて顔を上げる。伊藤さんは優しく微笑んで私を見ていた。私が落ち込んでいるのがバレてしまっているようだった。
つい笑ってしまう。
「伊藤さんってなんでそんなに人間観察力凄いんですか」
「凄いかな?」
「凄いですよ。もう、笑っちゃうぐらい」
「笑うぐらい余裕があるならいいね」
しばしそのまま笑い声を出した。それと同時に、昨晩の会話が蘇ってくる。
なぜあんなことを言ったのか本人に聞いてみたかったけれど、そんなわけにもいかない。第一あれば私が盗み聞きしただけなのだ。
「はは、そうですかね、そうだといいな」
「一年前に言ったの忘れたんですか、あなたは綺麗だし十分いい女だと」
さらに追い討ちをかけてくるこの男を、思いっきり殴ってやりたかった。
フラれた相手に褒められるなんて、虚しい以外何者でもない。
そんな風に言う癖に、私を恋愛対象に見ていなかったのは誰だと問い詰めたかった。
本当この人は女心も何もわかっちゃいない。
でも、それを承知で告白した自分が一番悪い。
泣くのを堪え、おどけてお礼を言うので精一杯だった。話題が途切れてまた沈黙が流れた。
テレビが映っていてよかったと思う、それを眺めることで平然を装いやすかったから。
あなたが隣に座っているだけで、体の半身が熱い。
「……光さんは」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
言いかけた言葉を彼は飲み込んだ。私は追求せずまた前をみた。
少しして伊藤さんが帰宅した。一気に事務所が明るくなる。
声を顰めつつも、楽しそうな笑顔でビニール袋を掲げた。
「ただいま戻りましたー! いっぱい買ってきたから食べましょ」
伊藤さんが帰ってきたことでホッとする。なんとなく、九条さんと二人きりはもう辛いと思った。
伊藤さんは私たちの前にあるテーブルに色々なものを並べていく。
「伊藤さん、ありがとうございます」
「全然いいの。何話してたの二人で?」
「え? えーと……九条さんが女になったらどんな感じなのかを」
「嘘でしょ何がどうなってそんな話してんの」
呆れたように伊藤さんが言う。私はさっきまでの複雑な気持ちを飛ばすように、笑って言った。
「あ! でもモテるのは九条さんより絶対伊藤さんですね、伊藤さん女の子になったらえげつなくモテると思いますよ!」
「それ全然嬉しくないんだけど……男にモテるってさあ」
「そうですか? 褒めてるんですけど……あ、もちろん今も女の子にモテると思いますけど」
「ええ? モテないよー別に」
彼は笑いながらどんどん買ってきたものを出す。食事はもちろん、飲み物やおやつまでラインナップは豊富だ。
九条さんはポッキーに手を伸ばして、すぐにひっこめた。
「トイレに行ってきます。先に食べててください」
「はーい」
そう言って席を立ったのを、見送ることなく机の上だけを見ていた。一人で気まずくなって馬鹿みたいだな、と反省している。
九条さんがいなくなり伊藤さんと二人になったところで、彼はトーンを変えずに聞いてきた。
「で? 本当は何話してたの?」
サラリと言ったので驚いて顔を上げる。伊藤さんは優しく微笑んで私を見ていた。私が落ち込んでいるのがバレてしまっているようだった。
つい笑ってしまう。
「伊藤さんってなんでそんなに人間観察力凄いんですか」
「凄いかな?」
「凄いですよ。もう、笑っちゃうぐらい」
「笑うぐらい余裕があるならいいね」
しばしそのまま笑い声を出した。それと同時に、昨晩の会話が蘇ってくる。
なぜあんなことを言ったのか本人に聞いてみたかったけれど、そんなわけにもいかない。第一あれば私が盗み聞きしただけなのだ。
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