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憧れの人
雑談へたくそか?
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沈黙が、気まずい。
初めてそう感じた。九条さんと二人きりなんていつものことなのに。調査中は寝泊まりまで一緒にすることがほとんどで、慣れっこのはずだ。それなのに、今はとてつもなく逃げ出したくなる。
いやいや、すぐ向こうに影山さんもいるんだから。うんうん。
そう言い聞かせて内容がちっとも頭に入ってこないテレビを見続ける。それ以外を視界に入れないようにした。
突然、すぐ隣のソファが沈み込む感覚に気づいた。驚きで隣を見てみると、九条さんが座っていたので心臓が暴れ出した。
すぐにテレビに視線を戻す。落ち着け、フラれた時、これまで通りに接してくださいって言ったのは自分だ。普通でいなきゃ。
「面白いですか、これ」
九条さんはテレビを見ながらそんなことを尋ねた。
「……まあ、よくある情報番組ですよ。明るい感じの」
「そうですか」
「…………」
「…………」
「…………」
だから、雑談下手くそか??
ため息が漏れそうになるのを堪える。
別に気を遣ってくれなくていいのに。普段通りマイペースでいてくれればいい。私が勝手に好きになったんだから。
動くことができない指先をぎゅっと強く握った。なるべくいつものテンションで言う。
「でもよかったです、あの男が誰なのか分かって! あとはもう影山さんにかけるしかないですね。向こうの正体もわかれば、除霊の進め方もちがってきますよね」
「ええ、きっと」
「伊藤さんと九条さんにもたくさん協力してもらって、感謝してます。影山さんも……私一人じゃ無理だったし」
「感謝されるようなことは何もしていません。私も、伊藤さんも、やりたかったからやっただけ。あなたに死んでもらいたくないから」
強い言葉に、つい横を見た。九条さんが真っ直ぐこちらを見ている。囚われたように、動けなくなった。
小さく微笑んで見せる。
「大丈夫です、私はきっと運がいい方ですから。九条さんに誘ってもらって、死ぬのを考え直せた」
「あれはあなたの」
「みんなのおかげです。九条さんも伊藤さんも麗香さんも、私が今毎日楽しいなって思えてるのは、みんなのおかげ。私を理解してそばにいてくれる人にこんなに出会えたのは、最高に幸運です。
だから大丈夫です。負けないですよ、いざとなれば両腕切り落として生きてやるって思ってるんです、強いでしょ?」
九条さんに笑ってみせると、彼も少しだけ口角を上げた。
「強すぎますね」
「あは、でしょう? 怖いけど昔の私とは違うんです。きっと相手も引くぐらい強く心を持ってます」
「そのまま日比谷がドン引いてあなたから離れればいいのに」
「どんな除霊のしかた」
「分かりました、そうなれば私も体を張ってあなたを守りたいので、性転換することにします。女になって日比谷を寄せ付けるんです」
「どんな引き寄せかた!!」
私は吹き出して笑ってしまう。ゲラゲラとお腹を抱えて笑う私を、九条さんも笑って見ていた。声が大きくなってしまい、影山さんの存在を思い出して慌てて口を閉じる。それでもまだ笑いが漏れてしまう。
「ふふ、流石に元々男性の体じゃ日比谷は寄ってこないんじゃないですか?」
「やはりですか、いい案かと思ったんですけど」
「体張りすぎですね。あ、でも……九条さんが女の人になったら絶対私より綺麗だな……」
想像してみる。うん、間違いなく最高の女性が出来上がるぞ。
だってこの人、顔だけはつくりものみたいに綺麗だもん。化粧とかしたら絶対女優も真っ青の美人になる。私は完敗する。
九条さんは眉を顰めて言った。
「そうですか? 自分の女装姿なんて吐きそうですけど」
「ええ? 絶対綺麗ですよ、モテモテだと思います。隣にいたら私霞んじゃう」
「いいえ」
九条さんがじっと私をみる。長い睫毛を揺らし、こちらを見つめながら言った。
「あなたの方が絶対に綺麗です」
またこの人は、相手が誰だかわかって言ってるんだろうか?
振った女だぞ。キッパリそんな風に見てないって言い切った女相手に、綺麗だとか言わないでほしい。お世辞だろうがなんだろうが、今はまだ言うべきじゃない。
初めてそう感じた。九条さんと二人きりなんていつものことなのに。調査中は寝泊まりまで一緒にすることがほとんどで、慣れっこのはずだ。それなのに、今はとてつもなく逃げ出したくなる。
いやいや、すぐ向こうに影山さんもいるんだから。うんうん。
そう言い聞かせて内容がちっとも頭に入ってこないテレビを見続ける。それ以外を視界に入れないようにした。
突然、すぐ隣のソファが沈み込む感覚に気づいた。驚きで隣を見てみると、九条さんが座っていたので心臓が暴れ出した。
すぐにテレビに視線を戻す。落ち着け、フラれた時、これまで通りに接してくださいって言ったのは自分だ。普通でいなきゃ。
「面白いですか、これ」
九条さんはテレビを見ながらそんなことを尋ねた。
「……まあ、よくある情報番組ですよ。明るい感じの」
「そうですか」
「…………」
「…………」
「…………」
だから、雑談下手くそか??
ため息が漏れそうになるのを堪える。
別に気を遣ってくれなくていいのに。普段通りマイペースでいてくれればいい。私が勝手に好きになったんだから。
動くことができない指先をぎゅっと強く握った。なるべくいつものテンションで言う。
「でもよかったです、あの男が誰なのか分かって! あとはもう影山さんにかけるしかないですね。向こうの正体もわかれば、除霊の進め方もちがってきますよね」
「ええ、きっと」
「伊藤さんと九条さんにもたくさん協力してもらって、感謝してます。影山さんも……私一人じゃ無理だったし」
「感謝されるようなことは何もしていません。私も、伊藤さんも、やりたかったからやっただけ。あなたに死んでもらいたくないから」
強い言葉に、つい横を見た。九条さんが真っ直ぐこちらを見ている。囚われたように、動けなくなった。
小さく微笑んで見せる。
「大丈夫です、私はきっと運がいい方ですから。九条さんに誘ってもらって、死ぬのを考え直せた」
「あれはあなたの」
「みんなのおかげです。九条さんも伊藤さんも麗香さんも、私が今毎日楽しいなって思えてるのは、みんなのおかげ。私を理解してそばにいてくれる人にこんなに出会えたのは、最高に幸運です。
だから大丈夫です。負けないですよ、いざとなれば両腕切り落として生きてやるって思ってるんです、強いでしょ?」
九条さんに笑ってみせると、彼も少しだけ口角を上げた。
「強すぎますね」
「あは、でしょう? 怖いけど昔の私とは違うんです。きっと相手も引くぐらい強く心を持ってます」
「そのまま日比谷がドン引いてあなたから離れればいいのに」
「どんな除霊のしかた」
「分かりました、そうなれば私も体を張ってあなたを守りたいので、性転換することにします。女になって日比谷を寄せ付けるんです」
「どんな引き寄せかた!!」
私は吹き出して笑ってしまう。ゲラゲラとお腹を抱えて笑う私を、九条さんも笑って見ていた。声が大きくなってしまい、影山さんの存在を思い出して慌てて口を閉じる。それでもまだ笑いが漏れてしまう。
「ふふ、流石に元々男性の体じゃ日比谷は寄ってこないんじゃないですか?」
「やはりですか、いい案かと思ったんですけど」
「体張りすぎですね。あ、でも……九条さんが女の人になったら絶対私より綺麗だな……」
想像してみる。うん、間違いなく最高の女性が出来上がるぞ。
だってこの人、顔だけはつくりものみたいに綺麗だもん。化粧とかしたら絶対女優も真っ青の美人になる。私は完敗する。
九条さんは眉を顰めて言った。
「そうですか? 自分の女装姿なんて吐きそうですけど」
「ええ? 絶対綺麗ですよ、モテモテだと思います。隣にいたら私霞んじゃう」
「いいえ」
九条さんがじっと私をみる。長い睫毛を揺らし、こちらを見つめながら言った。
「あなたの方が絶対に綺麗です」
またこの人は、相手が誰だかわかって言ってるんだろうか?
振った女だぞ。キッパリそんな風に見てないって言い切った女相手に、綺麗だとか言わないでほしい。お世辞だろうがなんだろうが、今はまだ言うべきじゃない。
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