366 / 449
憧れの人
雑談へたくそか?
しおりを挟む
沈黙が、気まずい。
初めてそう感じた。九条さんと二人きりなんていつものことなのに。調査中は寝泊まりまで一緒にすることがほとんどで、慣れっこのはずだ。それなのに、今はとてつもなく逃げ出したくなる。
いやいや、すぐ向こうに影山さんもいるんだから。うんうん。
そう言い聞かせて内容がちっとも頭に入ってこないテレビを見続ける。それ以外を視界に入れないようにした。
突然、すぐ隣のソファが沈み込む感覚に気づいた。驚きで隣を見てみると、九条さんが座っていたので心臓が暴れ出した。
すぐにテレビに視線を戻す。落ち着け、フラれた時、これまで通りに接してくださいって言ったのは自分だ。普通でいなきゃ。
「面白いですか、これ」
九条さんはテレビを見ながらそんなことを尋ねた。
「……まあ、よくある情報番組ですよ。明るい感じの」
「そうですか」
「…………」
「…………」
「…………」
だから、雑談下手くそか??
ため息が漏れそうになるのを堪える。
別に気を遣ってくれなくていいのに。普段通りマイペースでいてくれればいい。私が勝手に好きになったんだから。
動くことができない指先をぎゅっと強く握った。なるべくいつものテンションで言う。
「でもよかったです、あの男が誰なのか分かって! あとはもう影山さんにかけるしかないですね。向こうの正体もわかれば、除霊の進め方もちがってきますよね」
「ええ、きっと」
「伊藤さんと九条さんにもたくさん協力してもらって、感謝してます。影山さんも……私一人じゃ無理だったし」
「感謝されるようなことは何もしていません。私も、伊藤さんも、やりたかったからやっただけ。あなたに死んでもらいたくないから」
強い言葉に、つい横を見た。九条さんが真っ直ぐこちらを見ている。囚われたように、動けなくなった。
小さく微笑んで見せる。
「大丈夫です、私はきっと運がいい方ですから。九条さんに誘ってもらって、死ぬのを考え直せた」
「あれはあなたの」
「みんなのおかげです。九条さんも伊藤さんも麗香さんも、私が今毎日楽しいなって思えてるのは、みんなのおかげ。私を理解してそばにいてくれる人にこんなに出会えたのは、最高に幸運です。
だから大丈夫です。負けないですよ、いざとなれば両腕切り落として生きてやるって思ってるんです、強いでしょ?」
九条さんに笑ってみせると、彼も少しだけ口角を上げた。
「強すぎますね」
「あは、でしょう? 怖いけど昔の私とは違うんです。きっと相手も引くぐらい強く心を持ってます」
「そのまま日比谷がドン引いてあなたから離れればいいのに」
「どんな除霊のしかた」
「分かりました、そうなれば私も体を張ってあなたを守りたいので、性転換することにします。女になって日比谷を寄せ付けるんです」
「どんな引き寄せかた!!」
私は吹き出して笑ってしまう。ゲラゲラとお腹を抱えて笑う私を、九条さんも笑って見ていた。声が大きくなってしまい、影山さんの存在を思い出して慌てて口を閉じる。それでもまだ笑いが漏れてしまう。
「ふふ、流石に元々男性の体じゃ日比谷は寄ってこないんじゃないですか?」
「やはりですか、いい案かと思ったんですけど」
「体張りすぎですね。あ、でも……九条さんが女の人になったら絶対私より綺麗だな……」
想像してみる。うん、間違いなく最高の女性が出来上がるぞ。
だってこの人、顔だけはつくりものみたいに綺麗だもん。化粧とかしたら絶対女優も真っ青の美人になる。私は完敗する。
九条さんは眉を顰めて言った。
「そうですか? 自分の女装姿なんて吐きそうですけど」
「ええ? 絶対綺麗ですよ、モテモテだと思います。隣にいたら私霞んじゃう」
「いいえ」
九条さんがじっと私をみる。長い睫毛を揺らし、こちらを見つめながら言った。
「あなたの方が絶対に綺麗です」
またこの人は、相手が誰だかわかって言ってるんだろうか?
振った女だぞ。キッパリそんな風に見てないって言い切った女相手に、綺麗だとか言わないでほしい。お世辞だろうがなんだろうが、今はまだ言うべきじゃない。
初めてそう感じた。九条さんと二人きりなんていつものことなのに。調査中は寝泊まりまで一緒にすることがほとんどで、慣れっこのはずだ。それなのに、今はとてつもなく逃げ出したくなる。
いやいや、すぐ向こうに影山さんもいるんだから。うんうん。
そう言い聞かせて内容がちっとも頭に入ってこないテレビを見続ける。それ以外を視界に入れないようにした。
突然、すぐ隣のソファが沈み込む感覚に気づいた。驚きで隣を見てみると、九条さんが座っていたので心臓が暴れ出した。
すぐにテレビに視線を戻す。落ち着け、フラれた時、これまで通りに接してくださいって言ったのは自分だ。普通でいなきゃ。
「面白いですか、これ」
九条さんはテレビを見ながらそんなことを尋ねた。
「……まあ、よくある情報番組ですよ。明るい感じの」
「そうですか」
「…………」
「…………」
「…………」
だから、雑談下手くそか??
ため息が漏れそうになるのを堪える。
別に気を遣ってくれなくていいのに。普段通りマイペースでいてくれればいい。私が勝手に好きになったんだから。
動くことができない指先をぎゅっと強く握った。なるべくいつものテンションで言う。
「でもよかったです、あの男が誰なのか分かって! あとはもう影山さんにかけるしかないですね。向こうの正体もわかれば、除霊の進め方もちがってきますよね」
「ええ、きっと」
「伊藤さんと九条さんにもたくさん協力してもらって、感謝してます。影山さんも……私一人じゃ無理だったし」
「感謝されるようなことは何もしていません。私も、伊藤さんも、やりたかったからやっただけ。あなたに死んでもらいたくないから」
強い言葉に、つい横を見た。九条さんが真っ直ぐこちらを見ている。囚われたように、動けなくなった。
小さく微笑んで見せる。
「大丈夫です、私はきっと運がいい方ですから。九条さんに誘ってもらって、死ぬのを考え直せた」
「あれはあなたの」
「みんなのおかげです。九条さんも伊藤さんも麗香さんも、私が今毎日楽しいなって思えてるのは、みんなのおかげ。私を理解してそばにいてくれる人にこんなに出会えたのは、最高に幸運です。
だから大丈夫です。負けないですよ、いざとなれば両腕切り落として生きてやるって思ってるんです、強いでしょ?」
九条さんに笑ってみせると、彼も少しだけ口角を上げた。
「強すぎますね」
「あは、でしょう? 怖いけど昔の私とは違うんです。きっと相手も引くぐらい強く心を持ってます」
「そのまま日比谷がドン引いてあなたから離れればいいのに」
「どんな除霊のしかた」
「分かりました、そうなれば私も体を張ってあなたを守りたいので、性転換することにします。女になって日比谷を寄せ付けるんです」
「どんな引き寄せかた!!」
私は吹き出して笑ってしまう。ゲラゲラとお腹を抱えて笑う私を、九条さんも笑って見ていた。声が大きくなってしまい、影山さんの存在を思い出して慌てて口を閉じる。それでもまだ笑いが漏れてしまう。
「ふふ、流石に元々男性の体じゃ日比谷は寄ってこないんじゃないですか?」
「やはりですか、いい案かと思ったんですけど」
「体張りすぎですね。あ、でも……九条さんが女の人になったら絶対私より綺麗だな……」
想像してみる。うん、間違いなく最高の女性が出来上がるぞ。
だってこの人、顔だけはつくりものみたいに綺麗だもん。化粧とかしたら絶対女優も真っ青の美人になる。私は完敗する。
九条さんは眉を顰めて言った。
「そうですか? 自分の女装姿なんて吐きそうですけど」
「ええ? 絶対綺麗ですよ、モテモテだと思います。隣にいたら私霞んじゃう」
「いいえ」
九条さんがじっと私をみる。長い睫毛を揺らし、こちらを見つめながら言った。
「あなたの方が絶対に綺麗です」
またこの人は、相手が誰だかわかって言ってるんだろうか?
振った女だぞ。キッパリそんな風に見てないって言い切った女相手に、綺麗だとか言わないでほしい。お世辞だろうがなんだろうが、今はまだ言うべきじゃない。
48
お気に入りに追加
543
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。
化茶ぬき
ホラー
十月十四日
地球へと降り注いだ流星群によって人類は滅亡したかと思われた――
しかし、翌日にベッドから起き上がった戎崎零士の目に映ったのは流星群が落ちたとは思えないいつも通りの光景だった。
だが、それ以外の何もかもが違っていた。
獣のように襲い掛かってくる人間
なぜ自分が生き残ったのか
ゾンビ化した原因はなんなのか
世界がゾンビに侵されることを望んでいた戎崎零士が
世界に起きた原因を探るために動き出す――

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
たまご
蒼河颯人
ホラー
──ひっそりと静かに眺め続けているものとは?──
雨の日も風の日も晴れの日も
どんな日でも
眺め続けているモノがいる
あなたのお家の中にもいるかもしれませんね
表紙画像はかんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html) で作成しました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。