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憧れの人
影山さんと麗香さん
しおりを挟む朝が来て、ベッドから降りた。昨晩見たことは脳裏から追い出し、しゃんと背筋を伸ばす。今は余計なことを考えている余裕はない。とにかく、この事態をなんとかするのが先だ。
仮眠室から出てみると、パソコンの前に座っているのは影山さんだった。その向こうに、ソファにそれぞれ九条さんと伊藤さんが死んだように眠っている。
影山さんは私を見ると、ほっと表情を緩めて挨拶をした。
「おはようございます、眠れましたか」
「おはようございます。はい、そこそこ眠れました」
「変な夢は見ていないですね?」
「はい、大丈夫です」
影山さんは頷いて、再びパソコンに視線を落とす。が、すぐに思い出したように立ち上がった。
「飲み物でも取ってきましょう。その手ではね」
「あ……すみません! お水を頂けますか」
影山さんは冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、伊藤さんがしてくれたようにストローをさしてくれた。それを受け取り、喉が渇いていたので一気に飲む。
影山さんは再度パソコン前に腰掛け、じっと画面を見つめている。彼の近くにある椅子に腰掛けた。
ちらりとその顔を見る。何だか初めて会った時よりやつれているような気がする。顔色もよくないし、何だかげっそりしてるような?
除霊などもしてくれたし、ああいった行為はやっぱり体力や気力を使うんだろうか。
「あ、影山さんも、奥にある飲み物や食べ物はなんでも好きに使ってくださいね」
「ええ、ありがとうございます」
「何だか顔色が悪いような……やっぱり除霊とか、昨日みたいに入られた後追い出すので疲れがきたんでしょうか。眠れましたか?」
「まあ、それも多少はあるかもしれません。ですが、それが原因ではないですよ。昨日言いましたが、妻を亡くしてあまり経っていないんです。それで一気に痩せましてね。眠りも浅いのです」
そう話す影山さんに、余計なことを聞いてしまったと俯く。そんな私を気遣うように、彼は話題を逸らした。
「恥ずかしいですが、私はあまりパソコンに詳しくなくてですね。でも、少しでも役立てるようにと借りているところです」
「あ、ありがとうございます」
「あなたがお礼を言うんですか? こんな目に遭わせたのは私なんですから、やって当然なんです。黒島さんにどんな暴言を吐かれても仕方ないと思ってるんですよ」
彼は苦笑いする。私はゆっくり首を振った。
「そんな。麗香さんを助けたいって気持ちからですし、責めるつもりはありません。付き合いも長いですよね?」
「ええ、彼女が本格的にこの世界に足を踏み入れる前、共に何件か回りましてね。あの子のパワーには驚かされたものです。その後も、妻も含めて家族ぐるみで仲良くしてました。うちには子供がいなくてですね、特に妻があの子を気に入っていましたね」
麗香さんには家族がいない、という九条さんの言葉を思い出す。もしかして、本物じゃなくても家族のような間柄だったのかもしれない。
懐かしむように目を細めて続けた。
「もちろん始めからうまくいくことばかりではなくて、麗香も何度も挫折は味わっています。ですが、コツを覚えれば一気に自信もつき、素晴らしい人になりました」
「麗香さんの力、凄いですもんね。私は祓うなんて能力ちっともないから……羨ましくもあります」
ふと、影山さんが視線を上げる。その目と合い、優しい瞳の色に包まれる。
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