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憧れの人
夜中の二時に
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ブツブツと影山さんが考える。それでも答えは出ないようで、渋い顔をしながら続けた。
「思えばあの相手はどうも変だ。顔が見えないのもそうですが、あれと会うと、こちらの気が抜かれるようにどっと力がなくなる、そんな感覚になるんです。準備したお守りも札も何も効かない、こんなことは初めてだ」
「影山さんが知らなくても、相手は勝手にあなたを知っている場合も」
九条さんの発言に、影山さんがハッとする。だがすぐに頭を抱えた。
「もしそうなら、一体なぜ……そして誰なんだ」
その答えがここで出ることはなかった。伊藤さんがポツリと言う。
「影山さんもだけど、朝比奈さんだってあんな目に遭ったのは、もしかして朝比奈さんのことも知ってるとか?」
誰も言葉を出せなかった。それぞれ黙り込み、混乱するだけ。
腕のある麗香さんも影山さんも翻弄されるような相手。強いだけではなく、こちらを知っている人だとしたら。だから二人とも上手く除霊できないんだろうか。
考え込んだ影山さんが言った。
「あんな相手は初めてなんです、ですが、先ほど黒島さんから出そうとした時……説明し難い感覚に包まれました。もしかしてどこかで会ったことがあるような、そんな感覚。でも、記憶にないし忘れるわけもない。気のせいなのかなんなのか……」
結局そのまま沈黙が流れるだけで、そこに注文した料理たちの宅配が届いた。私たちは一旦手をとめ、気分を変えるようにそれぞれ温かな食事を取った。休憩している時ぐらいは、穏やかな時間にしようと、口に出さなくても分かり合えているようだった。
数ある全国の踏切から、たった一箇所を探し出すのは容易ではなかった。
時間も遅くなれば、私は休まねばならない。早く調査を進めたいという焦りと、でも休憩しなくては自分が弱るだけだという気持ちに揺らぐ。もちろん九条さんたちは休めと言うので、仕方なしに一人仮眠室に入った。
昨晩と同じようにベッドに入るが、影山さんがそばにいると言うのは昨晩より安心感がある。今日入られた時も追い出してくれたし、何かあってもきっと大丈夫だ。……きっと、だけど。
固いベッドに体を任せると、一気に眠気がやってきた。朝からいろんなことが続いて、自分でも気づかないうちに疲労が溜まっていたのだ。瞼がすぐに重くなる。
白い仕切りの向こうからは、小声だけどみんなの声が聞こえてきて安心した。私は一瞬で眠りについたのだ。
が、やはり心のどこかで恐怖心があるのか。頻繁に目が覚めることになる。目が覚めてはまた眠り、目が覚めるを繰り返す。だが、変な夢を見たりすることは一切なかった。
次に目が覚めた時、時刻は夜中の二時だった。また覚醒してしまった、とうんざりする。
(水でも飲もうかな)
冷蔵庫はすぐそばにある。喉が渇いたのでそうしよう、と上半身を起こしたところで、両手の現状を思い出した。これでは冷蔵庫の中の水なんて飲めっこない。
仕方ない、事務所の方には、伊藤さんがストローを指してくれたお茶がまだ残ってたはずだ。それを少し飲もうかな。
そう思い床に足を下ろした。ここで、昨日の夜のことを思い出して緊張度が高まる。また様子が変だったらどうしよう、と。
恐る恐る忍足でカーテンに近づいた。少しでも変なところがあったら、何も見ずにベッドに戻ろう。そう思いながら。
「思えばあの相手はどうも変だ。顔が見えないのもそうですが、あれと会うと、こちらの気が抜かれるようにどっと力がなくなる、そんな感覚になるんです。準備したお守りも札も何も効かない、こんなことは初めてだ」
「影山さんが知らなくても、相手は勝手にあなたを知っている場合も」
九条さんの発言に、影山さんがハッとする。だがすぐに頭を抱えた。
「もしそうなら、一体なぜ……そして誰なんだ」
その答えがここで出ることはなかった。伊藤さんがポツリと言う。
「影山さんもだけど、朝比奈さんだってあんな目に遭ったのは、もしかして朝比奈さんのことも知ってるとか?」
誰も言葉を出せなかった。それぞれ黙り込み、混乱するだけ。
腕のある麗香さんも影山さんも翻弄されるような相手。強いだけではなく、こちらを知っている人だとしたら。だから二人とも上手く除霊できないんだろうか。
考え込んだ影山さんが言った。
「あんな相手は初めてなんです、ですが、先ほど黒島さんから出そうとした時……説明し難い感覚に包まれました。もしかしてどこかで会ったことがあるような、そんな感覚。でも、記憶にないし忘れるわけもない。気のせいなのかなんなのか……」
結局そのまま沈黙が流れるだけで、そこに注文した料理たちの宅配が届いた。私たちは一旦手をとめ、気分を変えるようにそれぞれ温かな食事を取った。休憩している時ぐらいは、穏やかな時間にしようと、口に出さなくても分かり合えているようだった。
数ある全国の踏切から、たった一箇所を探し出すのは容易ではなかった。
時間も遅くなれば、私は休まねばならない。早く調査を進めたいという焦りと、でも休憩しなくては自分が弱るだけだという気持ちに揺らぐ。もちろん九条さんたちは休めと言うので、仕方なしに一人仮眠室に入った。
昨晩と同じようにベッドに入るが、影山さんがそばにいると言うのは昨晩より安心感がある。今日入られた時も追い出してくれたし、何かあってもきっと大丈夫だ。……きっと、だけど。
固いベッドに体を任せると、一気に眠気がやってきた。朝からいろんなことが続いて、自分でも気づかないうちに疲労が溜まっていたのだ。瞼がすぐに重くなる。
白い仕切りの向こうからは、小声だけどみんなの声が聞こえてきて安心した。私は一瞬で眠りについたのだ。
が、やはり心のどこかで恐怖心があるのか。頻繁に目が覚めることになる。目が覚めてはまた眠り、目が覚めるを繰り返す。だが、変な夢を見たりすることは一切なかった。
次に目が覚めた時、時刻は夜中の二時だった。また覚醒してしまった、とうんざりする。
(水でも飲もうかな)
冷蔵庫はすぐそばにある。喉が渇いたのでそうしよう、と上半身を起こしたところで、両手の現状を思い出した。これでは冷蔵庫の中の水なんて飲めっこない。
仕方ない、事務所の方には、伊藤さんがストローを指してくれたお茶がまだ残ってたはずだ。それを少し飲もうかな。
そう思い床に足を下ろした。ここで、昨日の夜のことを思い出して緊張度が高まる。また様子が変だったらどうしよう、と。
恐る恐る忍足でカーテンに近づいた。少しでも変なところがあったら、何も見ずにベッドに戻ろう。そう思いながら。
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