349 / 449
憧れの人
決意
しおりを挟む
電話を始める九条さんを遠目で眺めながら、ぼんやりと考える。
今朝見たあの姿を思い出す。細身の男性、薄汚れた格好。顔だちはまるでわからない。あの恐ろしさはどこからやってくるんだろう。攻撃的で冷たいオーラ。
ゆっくりと窓の外を眺めた。冬は暗くなるのが早い。時刻はそんなに遅くないのに、もう空は青を失っていた。その色がやけに自分の中の不安と寂しさを煽ってくる。
それでもなぜか、外の景色をもっと見たくなった。私は九条さんの声を背中に聞きながら、立ち上がり窓ガラスに近づく。情けない自分の顔が映り込んだ。
もし、このまま除霊出来なかったら。
そんなことが頭をよぎる。そしてすぐに気を引き締めた。
私は絶対に死ぬわけにはいかないと思った。それは、病院で弱々しく後悔していた九条さんの顔を思い出したからだ。
私に何かあれば彼は絶対に自分をひどく責める。ああ見えて責任感が強い人だ、自分のせいで私が死んでしまったのだと思うだろう。
いや九条さんだけじゃない。麗香さんだって、伊藤さんだって。みんなが落ち込むところなんて想像もしたくない。
強く思った。絶対に負けたりしない。最悪、この腕なんて切り落としてしまえばいい。そうでもして、私は生きてやると思った。
一年前は自分で命を絶とうとしていたくせに、今は真逆のことを思っている。人生どうなるか分からない。
窓には決意を固くした自分の顔が映っていた。皮肉なものだけれど、そんな自分の表情が今までより好きだなんて思えて少しだけ笑ってしまった。
なんとなく両手を上げて、まん丸になっている自分の手の先を映してみた。これじゃあ絞められないね、ところでお風呂に入りたい。
そんなことをしている時、ふとガラスに映る自分の顔に違和感を覚えた。右目だけが自分の意思とは別に、黒目部分が左右に揺れているのだ。震えながら右、左、右、左。視界は特に動いている感じはしないのに、なんだろう。
(疲れからかな……)
そっと自分の右目を触る。すると触れた瞬間、さらに違和感が増えた。
目の周辺が内出血をするように、じわじわと黒くなっていくのだ。
痛みも何も伴わない、でも皮膚の色が染まっていく。その不気味な様子にすぐに叫び声を上げた。
「九条さん! 九条さん、何かおかしいです!」
「どうしました」
彼はすぐに反応してくれた。背中で声がする。自分は殴られたように真っ黒になった肌から目を逸らせず、見つめたまま立ち尽くした。
「光さん?」
「み、右目が……黒いんです、あれ」
「どれですか」
そう言って、彼が私の顔を横から覗き込んだ。
九条さんの顔が真っ黒だった。
今朝見たあの姿を思い出す。細身の男性、薄汚れた格好。顔だちはまるでわからない。あの恐ろしさはどこからやってくるんだろう。攻撃的で冷たいオーラ。
ゆっくりと窓の外を眺めた。冬は暗くなるのが早い。時刻はそんなに遅くないのに、もう空は青を失っていた。その色がやけに自分の中の不安と寂しさを煽ってくる。
それでもなぜか、外の景色をもっと見たくなった。私は九条さんの声を背中に聞きながら、立ち上がり窓ガラスに近づく。情けない自分の顔が映り込んだ。
もし、このまま除霊出来なかったら。
そんなことが頭をよぎる。そしてすぐに気を引き締めた。
私は絶対に死ぬわけにはいかないと思った。それは、病院で弱々しく後悔していた九条さんの顔を思い出したからだ。
私に何かあれば彼は絶対に自分をひどく責める。ああ見えて責任感が強い人だ、自分のせいで私が死んでしまったのだと思うだろう。
いや九条さんだけじゃない。麗香さんだって、伊藤さんだって。みんなが落ち込むところなんて想像もしたくない。
強く思った。絶対に負けたりしない。最悪、この腕なんて切り落としてしまえばいい。そうでもして、私は生きてやると思った。
一年前は自分で命を絶とうとしていたくせに、今は真逆のことを思っている。人生どうなるか分からない。
窓には決意を固くした自分の顔が映っていた。皮肉なものだけれど、そんな自分の表情が今までより好きだなんて思えて少しだけ笑ってしまった。
なんとなく両手を上げて、まん丸になっている自分の手の先を映してみた。これじゃあ絞められないね、ところでお風呂に入りたい。
そんなことをしている時、ふとガラスに映る自分の顔に違和感を覚えた。右目だけが自分の意思とは別に、黒目部分が左右に揺れているのだ。震えながら右、左、右、左。視界は特に動いている感じはしないのに、なんだろう。
(疲れからかな……)
そっと自分の右目を触る。すると触れた瞬間、さらに違和感が増えた。
目の周辺が内出血をするように、じわじわと黒くなっていくのだ。
痛みも何も伴わない、でも皮膚の色が染まっていく。その不気味な様子にすぐに叫び声を上げた。
「九条さん! 九条さん、何かおかしいです!」
「どうしました」
彼はすぐに反応してくれた。背中で声がする。自分は殴られたように真っ黒になった肌から目を逸らせず、見つめたまま立ち尽くした。
「光さん?」
「み、右目が……黒いんです、あれ」
「どれですか」
そう言って、彼が私の顔を横から覗き込んだ。
九条さんの顔が真っ黒だった。
27
お気に入りに追加
533
あなたにおすすめの小説
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
みえる彼らと浄化係
橘しづき
ホラー
井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。
そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。
驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。
そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で楽しめる短めの意味が分かると怖い話をたくさん作って投稿しているよ。
ヒントや補足的な役割として解説も用意しているけど、自分で想像しながら読むのがおすすめだよ。
中にはホラー寄りのものとクイズ寄りのものがあるから、お好みのお話を探してね。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
禁踏区
nami
ホラー
月隠村を取り囲む山には絶対に足を踏み入れてはいけない場所があるらしい。
そこには巨大な屋敷があり、そこに入ると決して生きて帰ることはできないという……
隠された道の先に聳える巨大な廃屋。
そこで様々な怪異に遭遇する凛達。
しかし、本当の恐怖は廃屋から脱出した後に待ち受けていた──
都市伝説と呪いの田舎ホラー
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。