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憧れの人
仕切り直し
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九条さんが声を上げた。
「影山さん、どう考えても今現役の方で一番実力があるのはあなたです。あなたに無理では他の人間ではお手上げであることは間違いない」
「分かっています。諦めるつもりはありません。ですが正攻法はうまく行かないことが判明してしまった。……もう少し相手を知らねばならない。何もわからないままでは、到底敵う相手ではない」
そう言って影山さんはゆっくり後ろを振り返った。全員の視線が同じ方に集まる。
祭壇の上にある丸い鏡。彼が最も重要なものだと言ったそれには、真ん中にヒビが入っていた。
その場で私は休ませて貰いながら、影山さんは傷の手当てをすることもなくすぐに動いた。
まずは再度警察に電話をし、これまでに亡くなった人の情報を早く渡せと粘った。どうやらどんどん上の立場の人へ電話へと変わっていき、時間を掛けたものの最後にはやっと許可が降りた。すぐに情報が送られてくるだろうと彼は言った。
九条さんも言っていたが、この霊が一体どこから発生したものか調べ、相手を知ろうということだ。知り合いから知り合いへ渡り歩くなら、一番初めの被害者はどこであれを拾ってきたのか。何か分かれば、除霊の手助けになるかもしれない、というわけだ。
そして次に、影山さんが考えた末持ち出した予防策は、相手を跳ね除けるというものではない。もはや物理的な予防策だった。
私の手の先を布でぐるぐる巻きにしたのだ。首を締め出しては、男二人の力を合わせてもまるでいうことを聞かない。だったら絞めないように手先を塞いでしまえ、というわけだ。まさかこんなことになるとは思ってもおらず、私は戸惑いで一杯になった。これ食事は確実にとれないよね。着替えも無理じゃない? って、トイレ!!
九条さんはトイレの間でも外すのは危ないと頑なだったが、まさかそこだけはどうしようもない。そこで、トイレに行くときは布を外す代わりに、首にオイルを塗っておくことで解決された。滑って絞められないだろう、ということだ。
まさかトイレすら簡単に行けない状況になるとは思ってもおらず、ことの重大さを思い知る。いや、それもそうだ。麗香さんに続き影山さんまで除霊に失敗したなんて、伊藤さんに言わせればこの業界がひっくり返るぐらい驚きの情報なんだそう。
とりあえずその場しのぎだが、やれることはやろうということ。影山さんの提案にみんなで頷いた。
伊藤さんと九条さんは警察から届く情報を調べること、影山さんは壊されてしまった鏡の代わりになるものをすぐに入手するという役割を分担し、私たちは一度マンションから立ち去ることになった。効果があるのかもわからないが、と影山さんは事務所に置くお札などをさらに分けてくれた。
三人で玄関に向かう。私は自由の効かなくなった手でなんとか靴を履くと、影山さんを振り返った。
「お邪魔しました」
「私の力不足ですぐに解決できなくて申し訳ない。もう少し時間をください」
「はい。あの、腕の怪我、ちゃんと病院行った方がいいと思います。化膿したら大変だし……行ってくださいね」
私がそういうと、影山さんは驚いたように目を丸くした。そしてすぐに笑う。
「あなたは優しすぎますね。その優しさは霊をも引き寄せることがある。自分のことだけ考えていればいいのですよ」
「は、はあ……」
「鏡の入手さえすれば、私もまたそちらの事務所に伺います。共に情報を集めて相手を調べましょう」
鋭い眼差しでそう言った彼に頷く。黙っていた九条さんと伊藤さんも声をだした。
「私は祓えません。その代わり情報を調べることに徹します」
「僕なんて視ることもできませんけど、死ぬ気で情報集めます。みんなで頑張りましょう」
私を励ますように言ってくれた。そしてそのまま、高層マンションを後にしたのである。
「影山さん、どう考えても今現役の方で一番実力があるのはあなたです。あなたに無理では他の人間ではお手上げであることは間違いない」
「分かっています。諦めるつもりはありません。ですが正攻法はうまく行かないことが判明してしまった。……もう少し相手を知らねばならない。何もわからないままでは、到底敵う相手ではない」
そう言って影山さんはゆっくり後ろを振り返った。全員の視線が同じ方に集まる。
祭壇の上にある丸い鏡。彼が最も重要なものだと言ったそれには、真ん中にヒビが入っていた。
その場で私は休ませて貰いながら、影山さんは傷の手当てをすることもなくすぐに動いた。
まずは再度警察に電話をし、これまでに亡くなった人の情報を早く渡せと粘った。どうやらどんどん上の立場の人へ電話へと変わっていき、時間を掛けたものの最後にはやっと許可が降りた。すぐに情報が送られてくるだろうと彼は言った。
九条さんも言っていたが、この霊が一体どこから発生したものか調べ、相手を知ろうということだ。知り合いから知り合いへ渡り歩くなら、一番初めの被害者はどこであれを拾ってきたのか。何か分かれば、除霊の手助けになるかもしれない、というわけだ。
そして次に、影山さんが考えた末持ち出した予防策は、相手を跳ね除けるというものではない。もはや物理的な予防策だった。
私の手の先を布でぐるぐる巻きにしたのだ。首を締め出しては、男二人の力を合わせてもまるでいうことを聞かない。だったら絞めないように手先を塞いでしまえ、というわけだ。まさかこんなことになるとは思ってもおらず、私は戸惑いで一杯になった。これ食事は確実にとれないよね。着替えも無理じゃない? って、トイレ!!
九条さんはトイレの間でも外すのは危ないと頑なだったが、まさかそこだけはどうしようもない。そこで、トイレに行くときは布を外す代わりに、首にオイルを塗っておくことで解決された。滑って絞められないだろう、ということだ。
まさかトイレすら簡単に行けない状況になるとは思ってもおらず、ことの重大さを思い知る。いや、それもそうだ。麗香さんに続き影山さんまで除霊に失敗したなんて、伊藤さんに言わせればこの業界がひっくり返るぐらい驚きの情報なんだそう。
とりあえずその場しのぎだが、やれることはやろうということ。影山さんの提案にみんなで頷いた。
伊藤さんと九条さんは警察から届く情報を調べること、影山さんは壊されてしまった鏡の代わりになるものをすぐに入手するという役割を分担し、私たちは一度マンションから立ち去ることになった。効果があるのかもわからないが、と影山さんは事務所に置くお札などをさらに分けてくれた。
三人で玄関に向かう。私は自由の効かなくなった手でなんとか靴を履くと、影山さんを振り返った。
「お邪魔しました」
「私の力不足ですぐに解決できなくて申し訳ない。もう少し時間をください」
「はい。あの、腕の怪我、ちゃんと病院行った方がいいと思います。化膿したら大変だし……行ってくださいね」
私がそういうと、影山さんは驚いたように目を丸くした。そしてすぐに笑う。
「あなたは優しすぎますね。その優しさは霊をも引き寄せることがある。自分のことだけ考えていればいいのですよ」
「は、はあ……」
「鏡の入手さえすれば、私もまたそちらの事務所に伺います。共に情報を集めて相手を調べましょう」
鋭い眼差しでそう言った彼に頷く。黙っていた九条さんと伊藤さんも声をだした。
「私は祓えません。その代わり情報を調べることに徹します」
「僕なんて視ることもできませんけど、死ぬ気で情報集めます。みんなで頑張りましょう」
私を励ますように言ってくれた。そしてそのまま、高層マンションを後にしたのである。
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