視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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憧れの人

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 私の質問に彼は頷いた。

 まさかのご自宅で除霊とは。予想外のことに驚いた。

 そのまま私たちは車を降り、近くにあるエントランスに入った。かなり広く、今まで見た中で一番いいマンションだと思う。

 エレベーターで押されたボタンは最上階だ。その事実にまた驚かされる。こんな凄い高層マンションの最上階だなんて、さすが麗香さんの先輩だ。多分依頼料も凄いんだろうなあ。危険を犯して除霊するのだから、それは当然でもあると思っている。

 少し時間をかけてたどり着いた最上階で、私たちはエレベーターから降りた。ドキドキしてるのは、今から除霊があると言うこともだけど、こんな凄いマンションに足を踏み入れたことなんてないからだ。

 そのままついに家に招かれる。私のアパートのうん倍ありそうな玄関と廊下を抜けていく。部屋の数も凄い、何部屋あるんだろう。

 一番奥の扉が開かれた。初めに見えたのは景色を一望できる大きな窓ガラス。想像以上に広々としたリビングだが、普通の景色とは違った。

 ソファやダイニングテーブルは、邪魔だと言わんばかりに一番壁際に寄せられていた。それ以外も物がなく、開放感がすごい。

 だが一角、異質なところがあった。
 
 窓ガラスの前に置かれていたのは祭壇だった。だが大変シンプルなもので、真っ白な布が引かれたものの上にあるのは丸い鏡だけだった。それが逆に威圧感を感じさせる。私が今まで想像していた祭壇とは見た目も随分違う。

 そしてもう一つ、全身が映るほどの大きな姿見も、部屋の中央に置いてあった。

「麗香はこう言うものは使わなかったでしょう」

 ぼうっと見ている私に影山さんが言った。

「そ、そうですね。でも、この光景も正直思ったものとだいぶ違います」

「そうでしたか」

「えっと、あの丸い鏡は……?」

 何となく指を指すのが躊躇われたので、手先で示してみた。年季が入っていそうな鏡だ、見ているだけで心がバクバクしてくるような、不思議なオーラを感じる。

「あれが最も重要なものです。下等な霊には必要ないんです、相手が強いものにだけ使用します。
 私が準備に時間が掛かるのは、部屋を整えることではなくて、あの鏡に一日掛けて自分の祈りを込め続けるからです」

「大切なものなんですね……」

 影山さんはそっと祭壇の前に座り込み、鏡に自分の顔を写した。丁寧にお辞儀をし、決意したように頷く。

「麗香がああなったということは、簡単な相手ではないことが安易に分かる。私はまだお目にかかってないが、どんな姿か拝見したい」

 低い声が広い部屋に響く。ごくりと唾を飲み込んだ。くるりと影山さんが振り返る。

「すみません、普段はもう少し寛げるものもあるんですがね、今回は片付けてしまって。飲み物も出せず」

 私は部屋の隅にあるテーブルたちを見た。小さく首を振る。

「いいえ、ありがとうございます。お一人で暮らされてるんですか?」

「はい、今は。最愛の妻を少し前に亡くしたんです」

 目を細めて優しくそう言った影山さんは、とても悲しそうに見えた。大事な人を失ってしまった喪失感が、彼をまだ襲っているようだ。

 慌てて頭を下げる。

「すみません、余計なことを」

「いいえ。妻とはここで穏やかに暮らしていました。だからこそ、私は難しい除霊はここでやるんです。ここが一番自分の力を出せる気がして」

 そういうと影山さんが立ち上がる。何かリモコンを操作し、大きな窓にカーテンを引いた。光が入らず一気に薄暗くなる。自動のカーテンみたいだ。

「黒島さんはこちらに。九条さん、伊藤さん、あなた方は黒島さんの後ろにでも」

 部屋の中央を指さされた。

 いよいよだ、と気を引き締める。

 私は言われた通り部屋の中央に正座して座った。九条さんたちも私のすぐ後ろに座り込む。と、斜め左前はあの全身鏡が設置されていた。情けないぐらい不安がっている自分の顔が映り込む。

「光ちゃん、大丈夫だよ」

 そんな私に、後ろから声が掛かる。鏡に、柔らかな笑顔の伊藤さんが映った。振り返って微笑み返す。

「ありがとうございます」

 彼の隣には、九条さんもいる。珍しく九条さんも必死に口角を上げて私を見た。もしかして、リラックスさせようとしてるんだろうか?


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