視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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憧れの人

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 九条さんがすぐに動いていくれた。そして、聞こえてきた声を聞いて安心感に包まれる。

「おはようございます。随分早く来てしまいました、よろしかったですか」

 柔らかな物腰で言ってきたのは影山さんだ。私はすぐにカーテンから顔を出す。私を見て、彼はほっとしたように表情を和らげた。

「黒島さん。おはようございます。昨日は怖い目にあいましたね……怪我はどうですか」

「おはようございます。伊藤さんが手当してくれましたし大丈夫です。小さな傷ですから」

「よかった。
 除霊の準備ができたので私と一緒に移動しましょう。九条さん、黒島さんをお借りします」

 影山さんが言った。私は頷いてすぐに出ようとしたが、九条さんが止めた。

「待ってください、私も行きます」

 さらには、伊藤さんも続く。

「僕も行きますよ! うちのスタッフの大事な除霊です。見守る権利はあります。僕は何もできませんけどね」

 そう言ってくれた二人に、影山さんは特に反対しなかった。ゆっくりと頷き、微笑む。

「分かりました。大丈夫ですよ皆さんで行きましょう。私の有している場所へ」

 その言葉を合図に、私たちはバタバタと準備をした。せっかく準備した朝食はラップをかけて置いておき、カバンを持つ。伊藤さんや九条さんも続き、(多分九条さんは準備するものはない)全員で並ぶ。

 揃った私たちは事務所を出た。九条さんの事務所にはしっかり鍵を掛けおやすみにし、影山さんについてビルを後にした。

 影山さんが運転してきてくれた車に乗り込む。なんの変哲もない黒いワゴン車だ。運転席には影山さんが、助手席には私が座った。中も特に変わりのない普通の車内だった。

 掃除の行き届いた清潔な車で、なんだか影山さんの人柄がよく分かるなと感じる。

 四人を乗せた車は発進し、目的地までスムーズに運んでくれた。例えば除霊を邪魔しようとする霊が邪魔して、タイヤがパンクするとか、事故を起こすとか、そういったことは一切ない。

「黒島さん、お時間がかかって申し訳なかったです。今回は麗香もあんな風になった相手ですから、念入りに準備を行いました」

「いえ、ありがとうございます」

 ハンドルをしっかり握った影山さんが言う。しかし準備とは一体どんなことをしていたのだろうか。そう疑問に感じた私に気づいたように、彼は言う。

「そうですね、一般的に除霊と聞いて思い浮かぶような光景ですよ。麗香はあまり必要としない変わったタイプでした。私は王道のタイプと言いますか、まさしく除霊、という方法をとる人間です」

 なるほど、麗香さんは確かに色々変わっていた。だって塩水が入った香水瓶にブランドのコンパクトミラー。除霊するのにお経を唱えたりもしなかった。自己流だって言ってたなあ。

 思い出すと手のひらの傷が痛む気がした。ピシッと走った痛みを隠すように手を重ねる。伊藤さんが手当てしてくれたガーゼは剥がれかかっている。

 そのまま明るい話題など出るはずもなく、無言のドライブが続いた。時間にして十五分、二十分くらいだろうか。ある場所に来て、影山さんは車を駐車場へ入れた。そこが意外な場所で、私はつい窓の外を見つめる。

 普通のマンションだ。高層マンション。

 なかなかの高級そうな場所だ。一般的に除霊しに行きますと聞いてここを思い浮かべるだろうか。いや、でももしかして。

「ここって影山さんのお宅なんですか?」

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