視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
上 下
327 / 449
憧れの人

これが目的

しおりを挟む
 九条さんの質問に、影山さんが顔を上げる。その表情を見てどきりとした。

 言葉に言い表せられない顔だった。苦しそうな、それでいて決意したような。

 九条さんも影山さんの様子に疑問を感じたのか、眉を顰める。

「影山さん?」

「結界は、張っていないんです。いえ正しくは、あなた方が来るまでは張っていた」

 突然、予想だにしていない言葉が耳に入ってきて止まった。私たち二人は、ただ目の前の影山さんを見つめるしかない。

 彼は九条さんではなく私を見た。真っ直ぐに。

「黒島さん。申し訳ない」

「……え?」

「今回の依頼の共通点。
 若い女性であることと、その前に憑かれた者と知り合いであること。

 『踏切の音を聞く』という体験をしている者です」




「なん……ですって?」

 声を出したのは九条さんの方だった。私は唖然として動くこともできない。

 二十代の女……そして、憑かれた人と知り合い……踏切の音を聞く……?

 それってつまり、

 私が憑かれてしまったということ??

 混乱する私の横で、大きな声を上げたのは九条さんだ。

「なぜ結界を張らなかったのです! あなたの力があれば、一時的にでも近寄らせないようにできたはず。いや、そもそも、条件に合う彼女を連れてこいだなんて無謀にも程があります!」

 珍しく焦って言う九条さんに対して、影山さんは落ち着いていた。目を逸らすことなく、静かな声で答える。

「麗香に憑いたままだったら、彼女はどんどん生命の危機に脅かされる。
 麗香がこんな姿になってしまった相手の除霊を、こんな病室でしろと言うのですか。病で戦う病人たちがいる環境で? 普通の除霊とはワケが違うんです。一体どんな弊害が出るか分かりません」

 影山さんのゆっくりとした話を聞いて、ようやく悟る。多分九条さんも同じように察したのだろう、言葉を失い絶句した。

 つまり、この人は……
 
 わざと私に憑かせようとしたのだ。

 あえて結界を張らず、条件に合う私を呼び、麗香さんの近くにいかせた。麗香さんに憑いてる何かを、彼女から引き離すために。

 突如隣の九条さんが立ち上がり、テーブルに乗り出した。そして、向かいに座る影山さんの胸ぐらを強く掴み声を荒げた。

「そうと分かっていれば、彼女をここに連れてきたりしなかった!!」

 それでも影山さんは全く動じなかった。眉間に深くシワを寄せて、しっかり九条さんを見つめ返す。

「自分でも最低な選択をしたと思っています。それでも、それしか思いつかなかった。事情を話せばきっとここには来てもらえない。そう思ったから、全て伏せてお呼びしました」

 そうか、そういうことなのか。私は真っ白な頭の中で冷静に納得した。

 麗香さんの身の回りの買い物なんかじゃなくて、それが目的だったのだ。そしてまんまと、私は憑かれてしまった。

 私は小さな声で隣の九条さんに言う。

「九条さん……落ち着いてください」

「しかし」

「私は大丈夫です」
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

みえる彼らと浄化係

橘しづき
ホラー
 井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。  そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。  驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。 そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

やってはいけない危険な遊びに手を出した少年のお話

山本 淳一
ホラー
あるところに「やってはいけない危険な儀式・遊び」に興味を持った少年がいました。 彼は好奇心のままに多くの儀式や遊びを試し、何が起こるかを検証していました。 その後彼はどのような人生を送っていくのか...... 初投稿の長編小説になります。 登場人物 田中浩一:主人公 田中美恵子:主人公の母 西藤昭人:浩一の高校時代の友人 長岡雄二(ながおか ゆうじ):経営学部3年、オカルト研究会の部長 秋山逢(あきやま あい):人文学部2年、オカルト研究会の副部長 佐藤影夫(さとうかげお)社会学部2年、オカルト研究会の部員 鈴木幽也(すずきゆうや):人文学部1年、オカルト研究会の部員

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。