視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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憧れの人

これが目的

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 九条さんの質問に、影山さんが顔を上げる。その表情を見てどきりとした。

 言葉に言い表せられない顔だった。苦しそうな、それでいて決意したような。

 九条さんも影山さんの様子に疑問を感じたのか、眉を顰める。

「影山さん?」

「結界は、張っていないんです。いえ正しくは、あなた方が来るまでは張っていた」

 突然、予想だにしていない言葉が耳に入ってきて止まった。私たち二人は、ただ目の前の影山さんを見つめるしかない。

 彼は九条さんではなく私を見た。真っ直ぐに。

「黒島さん。申し訳ない」

「……え?」

「今回の依頼の共通点。
 若い女性であることと、その前に憑かれた者と知り合いであること。

 『踏切の音を聞く』という体験をしている者です」




「なん……ですって?」

 声を出したのは九条さんの方だった。私は唖然として動くこともできない。

 二十代の女……そして、憑かれた人と知り合い……踏切の音を聞く……?

 それってつまり、

 私が憑かれてしまったということ??

 混乱する私の横で、大きな声を上げたのは九条さんだ。

「なぜ結界を張らなかったのです! あなたの力があれば、一時的にでも近寄らせないようにできたはず。いや、そもそも、条件に合う彼女を連れてこいだなんて無謀にも程があります!」

 珍しく焦って言う九条さんに対して、影山さんは落ち着いていた。目を逸らすことなく、静かな声で答える。

「麗香に憑いたままだったら、彼女はどんどん生命の危機に脅かされる。
 麗香がこんな姿になってしまった相手の除霊を、こんな病室でしろと言うのですか。病で戦う病人たちがいる環境で? 普通の除霊とはワケが違うんです。一体どんな弊害が出るか分かりません」

 影山さんのゆっくりとした話を聞いて、ようやく悟る。多分九条さんも同じように察したのだろう、言葉を失い絶句した。

 つまり、この人は……
 
 わざと私に憑かせようとしたのだ。

 あえて結界を張らず、条件に合う私を呼び、麗香さんの近くにいかせた。麗香さんに憑いてる何かを、彼女から引き離すために。

 突如隣の九条さんが立ち上がり、テーブルに乗り出した。そして、向かいに座る影山さんの胸ぐらを強く掴み声を荒げた。

「そうと分かっていれば、彼女をここに連れてきたりしなかった!!」

 それでも影山さんは全く動じなかった。眉間に深くシワを寄せて、しっかり九条さんを見つめ返す。

「自分でも最低な選択をしたと思っています。それでも、それしか思いつかなかった。事情を話せばきっとここには来てもらえない。そう思ったから、全て伏せてお呼びしました」

 そうか、そういうことなのか。私は真っ白な頭の中で冷静に納得した。

 麗香さんの身の回りの買い物なんかじゃなくて、それが目的だったのだ。そしてまんまと、私は憑かれてしまった。

 私は小さな声で隣の九条さんに言う。

「九条さん……落ち着いてください」

「しかし」

「私は大丈夫です」
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