上 下
322 / 449
憧れの人

呼ばれた理由

しおりを挟む
 同時に、今回の案件がどれほど恐ろしいのか思い知らされた。つまり、すでに何名か亡くなっている。命を脅かすのは間違いない相手ということ……。

 九条さんが続きを聞こうとした時、影山さんが遮った。

「詳細はまた後ほどお伝えします。黒島さんにまずは麗香のことをお願いしたいのですが」

「ああ、そうでしたね」

 九条さんが私の方を向く。はて、私にお願いすることとは?

「光さん、麗香はしばらく入院することは間違いないです。そこで、入院生活に必要なものをあなたに揃えていただきたいのです。同じ女性の方がいいでしょうから」

「え? それは全然いいですけど……私でいいんですか? 家族の方とかは」

「光さん、麗香に家族はいません」

 知らなかった真実に言葉を失った。家族がいない?

 麗香さんからは聞いたことがなかった。そうだったんだ、どんな事情があるかは分からないけど、一人だったんだ麗香さん……。

 自分がここに呼ばれた理由が分かった。祓えるわけでもないし、友達と呼べるのも最近になってからだし、麗香さんの身の回りの世話のために呼ばれたのだ。確かに、男性では分からないことも多いのかも。

「分かりました」

「黒島さん、費用は私がお支払いします。こちらでお願いします。病院の中に売店があるので、とりあえずは必要最低限の買い物はそこで済むかと」

「ありがとうございます、すぐに行ってきます!」

 紙幣を何枚か渡され、私は財布に入れた。

「じゃあ九条さん、私とりあえず行ってきます」

「よろしくお願いします」

 私はちらりと眠る麗香さんを横目で見たあと、病室から出ていった。





 病院には結構広い売店があった。そこまで種類が豊富とは言えないが、それなりに色々なものが売っている。

 足を踏み入れたところで、果たして何が必要なんだろうと今更思う。服……は病衣着てたしね。そうだ、メイクしたまんまだったな麗香さん。メイク落としで取ってあげよう。スキンケア用品やシャンプーとか。

 食事するときにお箸がいるかも、と近くに置いてあった商品に手を伸ばし、ふと止まる。

 大丈夫だよね。意識戻るよね。影山さんだっているんだ、ちゃんと起きてご飯食べて、退院できるんだよね?

 心に影が覆う。

 必死に励ました。麗香さんより大先輩の影山さんがいるんだから大丈夫。早く元気になってもらって、また一緒にカフェに行きたいな。

 泣きそうになったのを必死に堪えて、カゴにものを入れていく。

 また足りないものは私が買いに来ればいい、と素早く買い物だけ終えた。ビニール袋をぶら下げてすぐに病室に戻った。

 てっきり九条さんたちもいるかと思っていたのだが、中に入ってみると麗香さんが横たわっているだけだった。静かな病室はまた涙を誘う。それを誤魔化すように、眠っている麗香さんに声をかけた。

しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

みえる彼らと浄化係

橘しづき
ホラー
 井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。  そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。  驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。 そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

適者生存 ~ゾンビ蔓延る世界で~

7 HIRO 7
ホラー
 ゾンビ病の蔓延により生きる屍が溢れ返った街で、必死に生き抜く主人公たち。同じ環境下にある者達と、時には対立し、時には手を取り合って生存への道を模索していく。極限状態の中、果たして主人公は この世界で生きるに相応しい〝適者〟となれるのだろうか――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。