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憧れの人
首
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影山さんはゆっくりと頭を下げる。背後から九条さんの声がした。
「影山さん。ご無沙汰しております、九条です」
「九条さん、お久しぶりですね。あなたが黒島さんですか? 噂には聞いております」
「あ、はい、黒島光です!」
そう答えつつ、噂とは一体何だろうと気になった。私なんて、力があるわけでもないよくいる女なのだが。
そう思っていると、心の声が聞こえたように影山さんが微笑んだ。
「この業界は、昔に比べてどんどん人手が減ってきています。特に若い女性が入ってくるのは珍しいので。麗香から聞いていたんですよ」
「そうだったんですか……」
私は再び麗香さんの顔を見る。穏やかな顔色で、本当に寝ているだけのよう。でも、首元だけが異質でおかしい。
九条さんがすかさず言った。
「影山さん、麗香の容体はどうです」
「今は血圧等も落ち着いていますし、命には別状はないだろうと医者からは言われております」
「この首は? 人間、思い切り首を絞めれば痕が残るのは普通です。が、この痕はあまりにクッキリ残りすぎではないですか? 不自然です」
私も何度か頷いた。というのも、自分自身首を絞められた経験がある。あの時は紐だったが、それとはだいぶ違うように見えるのだ。
皮膚に赤みが出ている、というより、『赤』が皮膚に付着しているかのような……。
影山さんが視線を落とす。
「……ええ、霊障だと思います。
この手形の持ち主は、麗香です」
「え?」
「今回彼女が受けた依頼はこれです。
『自分で首を絞めて自殺する人間が相次いでいる事件』」
「自分で、首を……?」
唖然として声が漏れた。そこではっとし、横たわる麗香さんの手元を見た。
両手とも、ベッドの柵に固定されている。その姿を見てゾッとした、もしかして、首を絞めるのを予防するために?
私の視線に気がついたように、影山さんは言う。
「意識がない中でも、麗香の手は突然自分の首を締め付けようとする。そこでこうしてもらいました。
ですが、今はおそらく外しても大丈夫だとは思います。念のため、ですね」
「大丈夫とは?」
「この部屋に私が結界を張っておいたからです」
その言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。つまり、麗香さんに怖いものが近寄れないということ。だから容体も安定しているのかもしれない。
私は隣の九条さんに尋ねる。
「自分で首を絞めて死ぬなんて、できるんでしょうか?」
九条さんは首を振る。自身の首元を触りながら答えた。
「まず不可能だと思います。道具など使わないと、素手では途中脳に酸素が回らないことで意識を失ってしまいます。それ以上締め続けることができなくなるので、結局は死まで至れないかと」
麗香さんの方を見る。彼女にクッキリ残っているのは手の痕。素手で握ったことは間違いない。
影山さんが言った。
「普通ならそうです。ですがここ最近、それで亡くなる方が続いていた。どう考えても普通ではないということで、こちらに連絡が来たのです」
私は九条さんを見上げる。こちらの心の声を察したように、彼は小声で言った。
「影山さんや麗香ほどの立場だと、科学的には解決できない例が回ってくることもあるんです。相手は警察のかなり上の方から」
「すごい……」
そんなことって本当にあるんだ。漫画だけの世界かと思ってた。
「影山さん。ご無沙汰しております、九条です」
「九条さん、お久しぶりですね。あなたが黒島さんですか? 噂には聞いております」
「あ、はい、黒島光です!」
そう答えつつ、噂とは一体何だろうと気になった。私なんて、力があるわけでもないよくいる女なのだが。
そう思っていると、心の声が聞こえたように影山さんが微笑んだ。
「この業界は、昔に比べてどんどん人手が減ってきています。特に若い女性が入ってくるのは珍しいので。麗香から聞いていたんですよ」
「そうだったんですか……」
私は再び麗香さんの顔を見る。穏やかな顔色で、本当に寝ているだけのよう。でも、首元だけが異質でおかしい。
九条さんがすかさず言った。
「影山さん、麗香の容体はどうです」
「今は血圧等も落ち着いていますし、命には別状はないだろうと医者からは言われております」
「この首は? 人間、思い切り首を絞めれば痕が残るのは普通です。が、この痕はあまりにクッキリ残りすぎではないですか? 不自然です」
私も何度か頷いた。というのも、自分自身首を絞められた経験がある。あの時は紐だったが、それとはだいぶ違うように見えるのだ。
皮膚に赤みが出ている、というより、『赤』が皮膚に付着しているかのような……。
影山さんが視線を落とす。
「……ええ、霊障だと思います。
この手形の持ち主は、麗香です」
「え?」
「今回彼女が受けた依頼はこれです。
『自分で首を絞めて自殺する人間が相次いでいる事件』」
「自分で、首を……?」
唖然として声が漏れた。そこではっとし、横たわる麗香さんの手元を見た。
両手とも、ベッドの柵に固定されている。その姿を見てゾッとした、もしかして、首を絞めるのを予防するために?
私の視線に気がついたように、影山さんは言う。
「意識がない中でも、麗香の手は突然自分の首を締め付けようとする。そこでこうしてもらいました。
ですが、今はおそらく外しても大丈夫だとは思います。念のため、ですね」
「大丈夫とは?」
「この部屋に私が結界を張っておいたからです」
その言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。つまり、麗香さんに怖いものが近寄れないということ。だから容体も安定しているのかもしれない。
私は隣の九条さんに尋ねる。
「自分で首を絞めて死ぬなんて、できるんでしょうか?」
九条さんは首を振る。自身の首元を触りながら答えた。
「まず不可能だと思います。道具など使わないと、素手では途中脳に酸素が回らないことで意識を失ってしまいます。それ以上締め続けることができなくなるので、結局は死まで至れないかと」
麗香さんの方を見る。彼女にクッキリ残っているのは手の痕。素手で握ったことは間違いない。
影山さんが言った。
「普通ならそうです。ですがここ最近、それで亡くなる方が続いていた。どう考えても普通ではないということで、こちらに連絡が来たのです」
私は九条さんを見上げる。こちらの心の声を察したように、彼は小声で言った。
「影山さんや麗香ほどの立場だと、科学的には解決できない例が回ってくることもあるんです。相手は警察のかなり上の方から」
「すごい……」
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