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憧れの人
影山さん
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すぐに反応したのは伊藤さんだ。
「朝比奈さんが!? 一体何があったんです?」
「除霊に失敗したと思われます」
「あの朝比奈さんがですか!?」
伊藤さんの声がひっくり返る。私も信じられない言葉に声すら漏れなかった。
麗香さんは若いけど有能な除霊師で、有名な人だと九条さんたちは言っていた。実際その力を目の当たりにしたことがあるし、間違いない。その代わり、私たちよりずっと強い霊の依頼ばかりくるらしいが。
そんな麗香さんが除霊に失敗した? 信じらない。
「意識不明だそうです。なので大人数の面会は許されていません、伊藤さんは申し訳ないですが待っててもらえますか」
「そ、それはしょうがないですけど……」
「私もまだ詳細を聞けていないんです。影山さんから連絡をもらってすぐに来て欲しいと言われただけで」
「ああ、影山さんですか……」
二人のそんな会話を聞きながら、聞き慣れない名前に少し疑問を持ったが、聞いている場合じゃなかった。私はようやく声を振り絞る。
「わかりました、すぐに行きましょう!」
「とりあえず車へ。中でまた話します」
急いで飛び出す私たちを、伊藤さんが心配そうに見送った。私は一度だけ振り返り、行ってきますとなんとか声をかけ、急ぎ足で九条さんの背中を追いかけた。
いつもの車に乗り込むとすぐに発進させた。まだ冷え切った車内はシートも冷たくぶるっと震えがくる。でも、この震えは寒さじゃなくて恐ろしさからなのかも、と思った。
あの麗香さんが除霊に失敗して入院だなんて。今どうなってるんだろう、まさかそんな危ない状態だなんてことはないよね?
祈るように両手を握る私に、普段より低い九条さんの声がした。
「除霊は100%成功するものではありません」
「……はい」
「あの麗香でも、今まで失敗したことはありました。ですが、失敗を重ねて最終的には除霊は成功させてきました。入院するほど痛手を負ったのは初めてかもしれません」
「容体はどうなんですか? 意識がないって……」
「一命は取り留めていますし、そこそこ安定しているようです。が、意識だけは戻らない。時間が経てば戻るのか、それとも何か目には見えない物のせいなのか……」
ぞくっと寒気がする。もし麗香さんが除霊できなかった霊のせいだとしたら、これから麗香さんはどうなるんだろう。万が一、なんてことがあれば……
泣きそうになっている私に、九条さんは励ますように言った。
「先ほど言った影山さん、という方ですが、麗香よりさらに古くからこの世界では有名な除霊師です」
「え? 凄腕ってことですか!」
「はい。麗香は元々除霊方法は自己流ですが、それでも一応基本なことを学ぶために、一流の人の元で勉強していた時期があります」
「あ、聞いたことあるかも……」
確か一緒に銭湯に行った時だ。昔先輩について現場を回ったことがある、と言っていたような。私は顔を上げて九条さんにいう。
「それが、その影山さんという方なんですか!」
九条さんが頷く。
「麗香と今でも親しくしている人です。この業界ではあまりに有名な方です。その人が私に連絡してきてくれました」
「じゃあ、もし麗香さんが霊のせいで意識が戻らなかったとしても、その影山さんという人がなんとかしてくれますよね?」
「恐らく」
「朝比奈さんが!? 一体何があったんです?」
「除霊に失敗したと思われます」
「あの朝比奈さんがですか!?」
伊藤さんの声がひっくり返る。私も信じられない言葉に声すら漏れなかった。
麗香さんは若いけど有能な除霊師で、有名な人だと九条さんたちは言っていた。実際その力を目の当たりにしたことがあるし、間違いない。その代わり、私たちよりずっと強い霊の依頼ばかりくるらしいが。
そんな麗香さんが除霊に失敗した? 信じらない。
「意識不明だそうです。なので大人数の面会は許されていません、伊藤さんは申し訳ないですが待っててもらえますか」
「そ、それはしょうがないですけど……」
「私もまだ詳細を聞けていないんです。影山さんから連絡をもらってすぐに来て欲しいと言われただけで」
「ああ、影山さんですか……」
二人のそんな会話を聞きながら、聞き慣れない名前に少し疑問を持ったが、聞いている場合じゃなかった。私はようやく声を振り絞る。
「わかりました、すぐに行きましょう!」
「とりあえず車へ。中でまた話します」
急いで飛び出す私たちを、伊藤さんが心配そうに見送った。私は一度だけ振り返り、行ってきますとなんとか声をかけ、急ぎ足で九条さんの背中を追いかけた。
いつもの車に乗り込むとすぐに発進させた。まだ冷え切った車内はシートも冷たくぶるっと震えがくる。でも、この震えは寒さじゃなくて恐ろしさからなのかも、と思った。
あの麗香さんが除霊に失敗して入院だなんて。今どうなってるんだろう、まさかそんな危ない状態だなんてことはないよね?
祈るように両手を握る私に、普段より低い九条さんの声がした。
「除霊は100%成功するものではありません」
「……はい」
「あの麗香でも、今まで失敗したことはありました。ですが、失敗を重ねて最終的には除霊は成功させてきました。入院するほど痛手を負ったのは初めてかもしれません」
「容体はどうなんですか? 意識がないって……」
「一命は取り留めていますし、そこそこ安定しているようです。が、意識だけは戻らない。時間が経てば戻るのか、それとも何か目には見えない物のせいなのか……」
ぞくっと寒気がする。もし麗香さんが除霊できなかった霊のせいだとしたら、これから麗香さんはどうなるんだろう。万が一、なんてことがあれば……
泣きそうになっている私に、九条さんは励ますように言った。
「先ほど言った影山さん、という方ですが、麗香よりさらに古くからこの世界では有名な除霊師です」
「え? 凄腕ってことですか!」
「はい。麗香は元々除霊方法は自己流ですが、それでも一応基本なことを学ぶために、一流の人の元で勉強していた時期があります」
「あ、聞いたことあるかも……」
確か一緒に銭湯に行った時だ。昔先輩について現場を回ったことがある、と言っていたような。私は顔を上げて九条さんにいう。
「それが、その影山さんという方なんですか!」
九条さんが頷く。
「麗香と今でも親しくしている人です。この業界ではあまりに有名な方です。その人が私に連絡してきてくれました」
「じゃあ、もし麗香さんが霊のせいで意識が戻らなかったとしても、その影山さんという人がなんとかしてくれますよね?」
「恐らく」
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