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憧れの人
友達
しおりを挟むその後ゆっくりデザートまで堪能した私たちは、ようやくお店をでた。寒さが堪える冬の中、二人で駅に向かって歩く。美味しい料理とケーキに満足し、私はこんな良い場所を教えてくれた麗香さんに感謝した。
「美味しかったですね。おしゃれだし、気に入りました。突然呼び出したのにありがとうございます」
「ああ、別にいいのよ。私結構暇してることも多いから。一個の案件が重いから、仕事はあまり立て続けに入れたくないの」
「あ、そっか。私たちとは違って手強い相手ばかりですもんね」
「今来てる依頼も話に聞く限り面白そうよ。腕が鳴るわ、実物に会えるのが楽しみ」
そう言ってニヤリと笑う。その余裕っぷりと強さに素直に感心した。私は今だに怯えてたり怖がったりしてるけど、さすが麗香さんは違う。きっと恐ろしい相手ばかりなのに楽しむ余裕があるなんてすごい。私もいつかこれくらいになりたいと思う。
今日は楽しかった、と微笑んだ。まず誰かとこんな可愛い場所でランチにくることもだし、麗香さんとゆっくり話せたのもよかった。恋バナ、というやつを誰かと話した経験が少ないため、貴重だった。
しばらく歩いて駅に辿り着き、私は最後にもう一度お礼を言った。麗香さんのおかげで随分スッキリした。
「本当、突然の呼び出しにありがとうございました! おかげで楽しかったし気が楽になりました!」
頭を下げると、彼女は栗毛色の髪を揺らして少しだけ眉を顰めた。そしてやや不機嫌そうにいう。
「突然呼び出すなんて別に全然いいんだけど。それより他に納得いかないところがある」
「え!? 何か粗相でも!?」
「あなた友達がいないって散々嘆いてたけど、失恋した後誘われた私の立場は何ってことよ。別に予定さえ合えばいつでも付き合ってあげるから、その他人行儀やめなさい」
そう言われて固まる。
つまりそれは、ええと、『私は友達じゃないのか』っていう解釈でいいの……?
まさかそんなことを言われると思っておらず目を見開いてしまった。なぜか麗香さんは少しだけ恥ずかしそうにプイッと横を向き、私の返事すら聞かず手を振ってホームへと歩き出す。
「あ、ありがとう!」
必死にそれだけ言った。麗香さんは一度だけ振り返って、笑った。
その後ろ姿が見えなくなったところで、胸が熱くなってることに気がつく。それを隠すようにマフラーに顔を埋めて歩き出した。頬が勝手ににやけてくる。
失恋は悲しかったけど、やっぱり私あそこで働けてよかった。良い人にいっぱり巡り会えたもんな。まさかタイプがまるで違うあんな女友達ができるなんて、思ってなかった。
また誘ってもいいのかな。
(しかし友達ってどれくらいの頻度で誘っていいんだろう? ラインって用なくてもしていいのかな? あまり頻度高いとうざがられそう……でも麗香さん正直にうざいって言ってくれそう……)
にやけると同時に、人付き合いに慣れていない自分はそんなくだらないことに悩んだ。そんな時間が、失恋して痛んでいた心を忘れさせてくれる。
私は朝よりだいぶ軽い足取りで帰路についた。
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