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憧れの人
ナイナイ
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彼女は考えるようにいう。
「ま、落ち込むのはしょうがないけど、さっさと新しい恋にも目を向けるのが一番よ。次はもっとマトモな人間好きになった方がいいわね」
「まともな人間って」
「まあナオ以外の人間は大概マトモだけど」
「前、街コンなるものに一人で参加したんですよ。撃沈したんです、自慢話ばかりだったり妙に距離が近かったり……九条さんは生活力とかは皆無だけど、そういうことは一切ないから、結局九条さんの株が上がって終わっただけでした」
はあとため息をつく。少しレモンの香りがする水を一口飲み、あの時の惨敗ぶりを思い出して悲しくなった。お金払って疲れただけのイベント、私には向いてないんだろう。元々コミュニケーション能力が高いわけでもない。
なぜか麗香さんは笑った。
「まあ、運が悪かったんじゃない? ちゃんとした人も絶対いるはずだから」
「まあ、そうでしょうけど」
「じゃあ私の友達誰か聞いてあげる」
「ほんとですか!?」
「でもその前に、あなた近くに超優良物件あるじゃない」
そう言われてはて、と首を傾げる。そしてすぐに思いつく、以前も麗香さんとそういう話をしたなと思い出したのだ。私は恐れ多くて首を強く振った。
「伊藤さんですか!? あの人は物件っていうかもう神様じゃないですか!」
「あなた何言ってるの?」
呆れて聞かれるけど、だって私はそう思ってる。伊藤さんってもう手が届かない太陽っていうか、そういう感じなのだ。気さくで話しやすいけど、でもすごい人すぎて、憧れが勝っている。
麗香さんは不思議そうにいった。
「だって気遣いもできるし性格もいいし顔も結構いいし、なんで彼が対象から外れてるの?」
「な、なんて言いますか、芸能人みたいな感覚なんですよ、憧れが強くて、付き合うとか考えたことないっていうか。いやそもそも私なんて釣り合わないんですけど!」
「そう? そんなの相手に聞いてみなきゃわからないじゃない。なんでか長く彼女もいないみたいだし、狙うなら今のうちかもよー」
面白そうにいう麗香さん、多分楽しんでる。なぜか恥ずかしくなった私は俯いて食事をした。か細い声でボソボソという。
「ていうか、あっちがダメだからこっち、なんて、失礼じゃないですか……」
「恋愛なんてそんなもんよ。別に狙えなんて言ってるわけじゃなくて、視野を広げてみればって言ってるだけ。いくらいい人でも恋愛対象に見えないこともよくあるしね。ま、私も誰かいい人いないか探しておいてあげる」
麗香さんはそう言って食事を続けた。私は言われた言葉を頭の中で繰り返す。
そりゃ、視野を広げた時に一番近くにいるのは伊藤さんだ。でも、九条さんとは違った意味で伊藤さんと付き合うなんて想像できない。それに、万が一伊藤さんを好きになって振られたら立ち直れなくないか? 一緒に働く人二人ともに振られるってヤバすぎる。
うん、やっぱりナイナイ!
私はそう結論づけて、とにかくパスタを頬張った。
「ま、落ち込むのはしょうがないけど、さっさと新しい恋にも目を向けるのが一番よ。次はもっとマトモな人間好きになった方がいいわね」
「まともな人間って」
「まあナオ以外の人間は大概マトモだけど」
「前、街コンなるものに一人で参加したんですよ。撃沈したんです、自慢話ばかりだったり妙に距離が近かったり……九条さんは生活力とかは皆無だけど、そういうことは一切ないから、結局九条さんの株が上がって終わっただけでした」
はあとため息をつく。少しレモンの香りがする水を一口飲み、あの時の惨敗ぶりを思い出して悲しくなった。お金払って疲れただけのイベント、私には向いてないんだろう。元々コミュニケーション能力が高いわけでもない。
なぜか麗香さんは笑った。
「まあ、運が悪かったんじゃない? ちゃんとした人も絶対いるはずだから」
「まあ、そうでしょうけど」
「じゃあ私の友達誰か聞いてあげる」
「ほんとですか!?」
「でもその前に、あなた近くに超優良物件あるじゃない」
そう言われてはて、と首を傾げる。そしてすぐに思いつく、以前も麗香さんとそういう話をしたなと思い出したのだ。私は恐れ多くて首を強く振った。
「伊藤さんですか!? あの人は物件っていうかもう神様じゃないですか!」
「あなた何言ってるの?」
呆れて聞かれるけど、だって私はそう思ってる。伊藤さんってもう手が届かない太陽っていうか、そういう感じなのだ。気さくで話しやすいけど、でもすごい人すぎて、憧れが勝っている。
麗香さんは不思議そうにいった。
「だって気遣いもできるし性格もいいし顔も結構いいし、なんで彼が対象から外れてるの?」
「な、なんて言いますか、芸能人みたいな感覚なんですよ、憧れが強くて、付き合うとか考えたことないっていうか。いやそもそも私なんて釣り合わないんですけど!」
「そう? そんなの相手に聞いてみなきゃわからないじゃない。なんでか長く彼女もいないみたいだし、狙うなら今のうちかもよー」
面白そうにいう麗香さん、多分楽しんでる。なぜか恥ずかしくなった私は俯いて食事をした。か細い声でボソボソという。
「ていうか、あっちがダメだからこっち、なんて、失礼じゃないですか……」
「恋愛なんてそんなもんよ。別に狙えなんて言ってるわけじゃなくて、視野を広げてみればって言ってるだけ。いくらいい人でも恋愛対象に見えないこともよくあるしね。ま、私も誰かいい人いないか探しておいてあげる」
麗香さんはそう言って食事を続けた。私は言われた言葉を頭の中で繰り返す。
そりゃ、視野を広げた時に一番近くにいるのは伊藤さんだ。でも、九条さんとは違った意味で伊藤さんと付き合うなんて想像できない。それに、万が一伊藤さんを好きになって振られたら立ち直れなくないか? 一緒に働く人二人ともに振られるってヤバすぎる。
うん、やっぱりナイナイ!
私はそう結論づけて、とにかくパスタを頬張った。
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