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待ち合わせ

悲しい嘘

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「言おうと思って言えなかった。臆病だったのは俺も一緒。
 それで、光もそういうのが視える、って聞いて……」

「私もそういう宗教にハマってると思ったの?」

 信也が頷いた。

 愕然とする。そんな背景があったなら、どうして言ってくれなかったの。

「なんで黙ってたの? 言ってくれれば」

「言えなかった。宗教にハマってる人間には何を言っても耳を貸さないどころか、こっちに不信感を増してしまうのは母親の件で知ってたから」

「…………」

「どうしていいか分からなくて、距離を置いて。考えながら人に相談したりもして」

 相談、という言葉に反応したのは九条さんだ。私が聞きたくても聞けなかったことをズバリ言った。

「一体どんな話し方をしたのです。光さんを退職に追い込むイジメが発生するほどなんて」

 信也が顔を上げた。驚愕の表情で私を見、小さく首を振る。

「い、イジメ?」

 やはり信也は気づいていなかったらしい。私は視線を逸らした。

「だから仕事も辞めたのか? 俺は、仲のいい友達二人に、結婚も考えてたけど宗教にハマってるかも、どうしようって言って……まさか、そんなことになるなんて」

「信也は人気者だったから」

 小さな声で言った。多分、彼に思いを寄せていた女子もいたのかも。どこかで話を聞いて、私に怒りを覚えて嫌がらせをしたのかもしれない。辛い日を思い出しながら言った。

「大事な連絡事項を伝えられなかったり、書類を隠されたり、まともに仕事をこなせなくなったの。気まずかったし、そのまま辞めた」

 信也は唇を震わせた。床の一点を見つめて、か細い声で囁いた。

「知らなかった……突然いなくなって、そのあと色々考えた後、やっぱりもう一度話そうと思って連絡したけど連絡つかないし、アパートも引き払ってて……まさか、そんなことになってるなんて」

「話そうと思った?」

「結婚について、やっぱりちゃんと話さなきゃと思って。それまで逃げてたから」

 そこに引っかかって首を傾げたのは私と九条さんだ。不思議に思いそのまま告げた。

「結婚について、って。話すことなんてあったの? 連絡を拒否してたのはそっちだし、聡美と付き合ったんでしょう」

 距離を置こう、と言われたまま、初めに連絡を拒否したのは信也の方だ。その後、聡美から二人が付き合い出したという写真つきメールをもらって……。

 ギョッとしたのは信也の方だ。彼は慌てたように言う。

「連絡拒否ってたのはごめん、しばらくはどうしても一人で考えたくてそうしてた。でも、聡美と付き合ったってなに? 光と三人で会った後、聡美とは街でバッタリ会ったよ。家族に視える、っていう人がいる共通点で仲良くはなったけど、付き合ってはない」

「 ! 」

 私たちの視線が聡美に集まった。ずっとダンマリだった彼女は、俯いて泣きそうな顔をしている。私はただ唖然として声すら出ない。

 付き合ってなかった? そういえば、信也からはそんな話を直接聞いたわけではないし、元恋人というのに随分仲がいいなと思っていた。円満な別れ方をしたんだろうな、と思っていたのだが。

 嘘だったの?

 信也は何がなんだか分からない、というように言った。

「聡美とは仲いい友達だよ、俺の家族のことも知ってるし、聡美の家庭のことも聞いた。他も普通に気が合う友達として付き合ってきたけど……」

 あの日、聡美から来たメールを見て頭が真っ白になったのを思い出す。

 聡美と信也のツーショット写真だった。
 
『やっほー!
 お姉ちゃん別れちゃったんだね?
 やっぱり幽霊が視えるとか言うのは無理だったんだね~この機会にそう言う事言って注目集めようとするの辞めた方がいいと思うよ!
 それと後で恨まれても嫌だから先に知らせとくね。言っとくけどとってないよ、向こうからなんだからね!』

 それがきっと張り詰めていた何かを切らせた。私はもう生きることに疲れ、すぐに全てを捨ててアパートを引き払った。

 その後、信也が探していることなんてまるで知らなかった。

 驚きで声すら失っている私の代わりに、厳しい声を出したのは九条さんだ。

「聡美さん。あなた光さんにメールしたのでは? 原さんとの写真付きで、向こうから言い寄られて付き合っているという風の」

 信也も驚きで隣の聡美を見る。顔も目も真っ赤にした聡美は、膝の上にある手で強く拳を作っていた。そして少しして、声を震わせながら小さく言う。

「ごめんなさい」

「……嘘だったの?」

「嘘。信也とバッタリ再会した時、今はお姉ちゃんと距離を置いてるって聞いた。私、いい機会だから反省すればいいと思ったの。お化けが視えるとか、そういうこと言って注目されようとする癖、直すべきだって。こんな嘘、きっとすぐバレるだろうしって軽い気持ちで……」

 全身が脱力する。大きくため息をついて目を閉じた。

 嘘だったなんて。嘘だったなんて。

 あんな……私を苦しめたことが。

 九条さんに見つけてもらえなかったら、死んでいたというのに。

 目からじんわりと涙が出てきた。怒りなのか、悲しみなのかよくわからない。感情がぐちゃぐちゃだ。

「どうして? どうしてそんなことしたの?」

 昔から聡美には敵意を持たれているのはわかっていた。幼い頃はそれなりに仲はよかったけれど、いつしか私を蔑みばかにするような視線で見るようになった。

 両親が離婚した後も、母と三人で食事をすることはあったが、私とはほとんど会話してくれなかったのだ。なぜ私をそこまで憎んでいたのか。
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