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待ち合わせ
到着
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いやもう成人している人にちゃん呼びはおかしい、真琴さんだ。不安げにやってきたその女性は、ボブの髪型をして色の白い可愛らしい人だった。真琴さんの隣には同じくらいの年と思われる男性がいた。伊藤さんが私たちにこっそり、『真琴さんの旦那さんです』と説明してくれる。
旦那さんは訝しげに私たちを見ていたので、おそらく真琴さんが心配でついてきたのだとわかった。そしてさらに、ワンピースを着ているが真琴さんの腹部がややふっくらしていることにも気づく。妊娠しているのだ。
旦那さんは厳しい表情で私たちに言った。
「初めまして、真琴の夫です、奥田と言います。妻の付き添いで来ました」
九条さんがすぐに一歩前に出る。
「初めまして九条尚久といいます。今回は突然のお願い、しかも信じ難い内容のお話ですみません。それでも来てくださったことに感謝しています」
「初めに言っておきますが、私はあまり信用していません。でも真琴は行ってみたいと聞かないので私も同席しました」
「ええ、そうでしょう。伊藤から話は聞いていると思います、信じられない話ですが真琴さんのお母様がここに残られているので、それをなんとかしたくてお呼びしました。真琴さんに金銭が絡むことは一切ありませんし、これが解決すればあなた方にもう接触はしません。詐欺や宗教を疑っているでしょうが全く無関係だと言うことは伝えておきます」
先にキッパリ断言した九条さんに、奥田さんは複雑そうな顔をした。隣にいる真琴さんが私たちに言う。
「すみません、夫には止められたんです。でも私、時々夢をみることがあるんです。お母さんが私を必死に探して名前を呼んでる夢です。返事して、ここにいるよって言っても聞こえないみたいで……それがずっと気になってて、今回来ました」
「真琴、あんまり話すな」
奥田さんはやんわり止める。仕方ない、むしろよくここまで来てくれたものだ。普通なら絶対お断りだもんな。どこの頭おかしい団体かと疑われる。
九条さんは頷いて言う。
「明穂さんの出現場所はエレベーターやエントランスが多いです、おそらく人通りが多いので真琴さんを探すのに適してると感じているんでしょう。そちらに向かいます、すぐに会えるとは限らないので時間がかかるかも、とりあえず一緒に来ていただけますか」
「え、そんな人通りが多いところに行くんですか?」
奥田さんが目を丸くして驚く。部屋の中で怪しい儀式などをする光景を想像していたのかもしれない。
「はい、マンションの住民には怪しまれるかもしれませんがね。まあ仕方ないです。伊藤さんはお守りを置いて行ってくれますか」
ケロリとそう言った九条さんはそのままさっさと玄関に向かっていってしまった。私は慌ててブランケットとホッカイロを準備し、真琴さんにこそっと話しかける。
「あの、もしかしてなんですが、お腹に……」
「え、は、はい」
「寒いのは良くないですよね、これ使ってくださいね」
「ありがとうございます!」
にっこり笑う真琴さんは可愛らしい女性でホッとした。そしてその目元は、明穂さんによく似ていると思った。
十三年も時が経っているから、明穂さんもはじめは真琴さんだと気づかないかもしれない。でもきっと、伝わるはずだ。
奥田さんが真琴さんを守るようにピタリと隣についている。その警戒心の強さがむしろ微笑ましくて私は見守った。玄関で靴を履いている二人を見つめていると、伊藤さんが隣に寄ってきて耳打ちした。
「いやーなんとかきてくれてよかったよ」
「さすがです、伊藤さんならきっとって思いましたけど、やっぱりコミュニケーションの鬼ですね」
「鬼って! 今回は原さんもすごくうまく協力してくれたよ。ここに住んでるっていう身分証は結構効き目大きかったし、それに……」
「それに?」
「……いや、光ちゃんもそのうち聞くかもね」
伊藤さんが意味深に振り返る。私も同じように後ろを向くと、聡美と何やら話している信也の姿があった。どこか安心したような、そんな表情に見えた。
大人数でエントランスに集まる。夕方は人々が帰宅してくる時刻ということもあり、時々住民と会った。当然のようにちょっと怪しまれている。ぱっと見は誰かの家に集まって鍋でもするのかと思うが、奥田さんたちの深刻そうな表情はその案を否定させる。
果たしてこんなに人も多い場所で明穂さんが来るのだろうか、と心配になってきた。いや、うちには伊藤さんという強い磁石がある。彼がいればどんな霊も引き寄せてくるはずだ。
とりあえずエントランスに集まった私たちは、どうしていいのかもわからず静まり返った。奥田さんは眉を顰めてしっかり真琴さんの腰を抱いている。なんとも気まずい空気だった。
旦那さんは訝しげに私たちを見ていたので、おそらく真琴さんが心配でついてきたのだとわかった。そしてさらに、ワンピースを着ているが真琴さんの腹部がややふっくらしていることにも気づく。妊娠しているのだ。
旦那さんは厳しい表情で私たちに言った。
「初めまして、真琴の夫です、奥田と言います。妻の付き添いで来ました」
九条さんがすぐに一歩前に出る。
「初めまして九条尚久といいます。今回は突然のお願い、しかも信じ難い内容のお話ですみません。それでも来てくださったことに感謝しています」
「初めに言っておきますが、私はあまり信用していません。でも真琴は行ってみたいと聞かないので私も同席しました」
「ええ、そうでしょう。伊藤から話は聞いていると思います、信じられない話ですが真琴さんのお母様がここに残られているので、それをなんとかしたくてお呼びしました。真琴さんに金銭が絡むことは一切ありませんし、これが解決すればあなた方にもう接触はしません。詐欺や宗教を疑っているでしょうが全く無関係だと言うことは伝えておきます」
先にキッパリ断言した九条さんに、奥田さんは複雑そうな顔をした。隣にいる真琴さんが私たちに言う。
「すみません、夫には止められたんです。でも私、時々夢をみることがあるんです。お母さんが私を必死に探して名前を呼んでる夢です。返事して、ここにいるよって言っても聞こえないみたいで……それがずっと気になってて、今回来ました」
「真琴、あんまり話すな」
奥田さんはやんわり止める。仕方ない、むしろよくここまで来てくれたものだ。普通なら絶対お断りだもんな。どこの頭おかしい団体かと疑われる。
九条さんは頷いて言う。
「明穂さんの出現場所はエレベーターやエントランスが多いです、おそらく人通りが多いので真琴さんを探すのに適してると感じているんでしょう。そちらに向かいます、すぐに会えるとは限らないので時間がかかるかも、とりあえず一緒に来ていただけますか」
「え、そんな人通りが多いところに行くんですか?」
奥田さんが目を丸くして驚く。部屋の中で怪しい儀式などをする光景を想像していたのかもしれない。
「はい、マンションの住民には怪しまれるかもしれませんがね。まあ仕方ないです。伊藤さんはお守りを置いて行ってくれますか」
ケロリとそう言った九条さんはそのままさっさと玄関に向かっていってしまった。私は慌ててブランケットとホッカイロを準備し、真琴さんにこそっと話しかける。
「あの、もしかしてなんですが、お腹に……」
「え、は、はい」
「寒いのは良くないですよね、これ使ってくださいね」
「ありがとうございます!」
にっこり笑う真琴さんは可愛らしい女性でホッとした。そしてその目元は、明穂さんによく似ていると思った。
十三年も時が経っているから、明穂さんもはじめは真琴さんだと気づかないかもしれない。でもきっと、伝わるはずだ。
奥田さんが真琴さんを守るようにピタリと隣についている。その警戒心の強さがむしろ微笑ましくて私は見守った。玄関で靴を履いている二人を見つめていると、伊藤さんが隣に寄ってきて耳打ちした。
「いやーなんとかきてくれてよかったよ」
「さすがです、伊藤さんならきっとって思いましたけど、やっぱりコミュニケーションの鬼ですね」
「鬼って! 今回は原さんもすごくうまく協力してくれたよ。ここに住んでるっていう身分証は結構効き目大きかったし、それに……」
「それに?」
「……いや、光ちゃんもそのうち聞くかもね」
伊藤さんが意味深に振り返る。私も同じように後ろを向くと、聡美と何やら話している信也の姿があった。どこか安心したような、そんな表情に見えた。
大人数でエントランスに集まる。夕方は人々が帰宅してくる時刻ということもあり、時々住民と会った。当然のようにちょっと怪しまれている。ぱっと見は誰かの家に集まって鍋でもするのかと思うが、奥田さんたちの深刻そうな表情はその案を否定させる。
果たしてこんなに人も多い場所で明穂さんが来るのだろうか、と心配になってきた。いや、うちには伊藤さんという強い磁石がある。彼がいればどんな霊も引き寄せてくるはずだ。
とりあえずエントランスに集まった私たちは、どうしていいのかもわからず静まり返った。奥田さんは眉を顰めてしっかり真琴さんの腰を抱いている。なんとも気まずい空気だった。
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