296 / 449
待ち合わせ
役割分担
しおりを挟む
意外すぎる提案に、九条さんと伊藤さんと顔を見合わせた。ずっと私たちの仕事に半信半疑だった信也が、本当に信じるようになったのは有難いことだ。
それに彼の言うことは一理ある。実際ここに住んでいるという証明はないよりあったほうがいい。私は頷いた。
「伊藤さん、いいかもしれません。信也は元々、人と距離を縮めるのが上手いタイプですよ」
職場でもみんなの中心的存在だった彼は、リーダーシップも取れるし人懐っこい。伊藤さんほどのレベルではないが、私よりもずっと適任だと思えた。
伊藤さんは少し考えた後、わかった、と返事をした。
「じゃあ原さんにもお願いします! とりあえず一旦、学校の教頭先生にもう一回会いに行って連絡先を入手するところからだけどいいですか?」
「付き合います」
「じゃ、僕と原さんはそっち係ってことで!」
二人はバタバタと支度を整え始める。残る三人はそれを眺めながら、もう一つの問題にぶつかっていた。
聡美が言う。
「で……子供の方は?」
それだ。そっちの方が困るんだ。頭を抱えずにはいられない。
まこと……じゃなかった、飛鳥ちゃんがこの世に留まっている理由は恐らく『恐怖』だ。母親との約束を破ったらまた暴力を振るわれるかもしれない、という恐怖が彼女を縛っている。無論、本物の母親なんかに会わせるわけにはいかない。もしかして、自分が死んだことにすら気づいていないのかも。
その恐怖を取り払ってあげなければ、きっと眠ることはできない。
私は九条さんを見上げた。
「九条さんが教えてあげるぐらいしか、できることはないんじゃないですか。もうあなたは死んでるから、親に虐められることもないし、眠っていいんだよって」
彼はゆっくり眉を顰める。
「やはりそうなりますね。会話は可能なようですし、もう一度話してみるぐらいしか思いつきません。が……」
「が?」
「虐待を受けていた子供の心とは、想像以上に脆く深刻です。子にとって親は絶対的な存在ですし、第三者が何を言っても囚われた心は、そう簡単に解放できるものではないと思うんです」
それはその通りだ、と思う。
心に受けた傷は計り知れない。あんな暴力を受けて恐怖に飼われてしまったあの子を、説得なんてできるんだろうか。どうにかして、もう怖いものはないんだと教えてあげたいんだけれど……。
九条さんは困ったように息を吐く。
「残念ながら私は伊藤さんのように子供に好かれるタイプでもありませんし」
「で、でも少し前の人形のときとか! 子供相手だったけどちゃんと聞いてくれてましたよ!」
「あの子は元々この世に未練などなかったようですからね。今回とはまるで違います」
ううん、以前は後ずさりされたこともあったもんなあ……九条さん能面だから怖いんだよきっと。無駄に顔綺麗だから人形みたいだし。
ちらりと聡美を見ると、どこか察したような顔で九条さんをみていた。顔には書いてある。『あーこれはね、子供には懐かれないタイプだね、わかる』。
私たちはそれからもずっと考え込んだが、他にいい案が見つかるわけもなく、やっぱり九条さんの説得にかかっているという不安な結論しか出なかった。
翌日の夕方。
私と九条さん、そして聡美はどう飛鳥ちゃんに話しかけようか考え、実行してみようと階段を行ったり来たりしたが、飛鳥ちゃんに会うことはなかった。もしかして伊藤さんが近くにいないとダメなんだろうか。
階段周辺をうろうろしすぎて今度こそ通報されるかもしれない、という恐怖心と戦いながら三人で動くも、悲しい気だけを感じ姿は見えない。これはやはり伊藤さんの存在が必要かもしれないと結論づけた。
そして仕方なく信也の部屋で待機していた。何を話すこともなく、みんなでポッキーを齧ったりしていただけだ。
そして日が赤くなってきた頃、驚くことに、伊藤さんと信也がある人を部屋に連れてきた。
もちろん、本物のまことちゃんだった。
それに彼の言うことは一理ある。実際ここに住んでいるという証明はないよりあったほうがいい。私は頷いた。
「伊藤さん、いいかもしれません。信也は元々、人と距離を縮めるのが上手いタイプですよ」
職場でもみんなの中心的存在だった彼は、リーダーシップも取れるし人懐っこい。伊藤さんほどのレベルではないが、私よりもずっと適任だと思えた。
伊藤さんは少し考えた後、わかった、と返事をした。
「じゃあ原さんにもお願いします! とりあえず一旦、学校の教頭先生にもう一回会いに行って連絡先を入手するところからだけどいいですか?」
「付き合います」
「じゃ、僕と原さんはそっち係ってことで!」
二人はバタバタと支度を整え始める。残る三人はそれを眺めながら、もう一つの問題にぶつかっていた。
聡美が言う。
「で……子供の方は?」
それだ。そっちの方が困るんだ。頭を抱えずにはいられない。
まこと……じゃなかった、飛鳥ちゃんがこの世に留まっている理由は恐らく『恐怖』だ。母親との約束を破ったらまた暴力を振るわれるかもしれない、という恐怖が彼女を縛っている。無論、本物の母親なんかに会わせるわけにはいかない。もしかして、自分が死んだことにすら気づいていないのかも。
その恐怖を取り払ってあげなければ、きっと眠ることはできない。
私は九条さんを見上げた。
「九条さんが教えてあげるぐらいしか、できることはないんじゃないですか。もうあなたは死んでるから、親に虐められることもないし、眠っていいんだよって」
彼はゆっくり眉を顰める。
「やはりそうなりますね。会話は可能なようですし、もう一度話してみるぐらいしか思いつきません。が……」
「が?」
「虐待を受けていた子供の心とは、想像以上に脆く深刻です。子にとって親は絶対的な存在ですし、第三者が何を言っても囚われた心は、そう簡単に解放できるものではないと思うんです」
それはその通りだ、と思う。
心に受けた傷は計り知れない。あんな暴力を受けて恐怖に飼われてしまったあの子を、説得なんてできるんだろうか。どうにかして、もう怖いものはないんだと教えてあげたいんだけれど……。
九条さんは困ったように息を吐く。
「残念ながら私は伊藤さんのように子供に好かれるタイプでもありませんし」
「で、でも少し前の人形のときとか! 子供相手だったけどちゃんと聞いてくれてましたよ!」
「あの子は元々この世に未練などなかったようですからね。今回とはまるで違います」
ううん、以前は後ずさりされたこともあったもんなあ……九条さん能面だから怖いんだよきっと。無駄に顔綺麗だから人形みたいだし。
ちらりと聡美を見ると、どこか察したような顔で九条さんをみていた。顔には書いてある。『あーこれはね、子供には懐かれないタイプだね、わかる』。
私たちはそれからもずっと考え込んだが、他にいい案が見つかるわけもなく、やっぱり九条さんの説得にかかっているという不安な結論しか出なかった。
翌日の夕方。
私と九条さん、そして聡美はどう飛鳥ちゃんに話しかけようか考え、実行してみようと階段を行ったり来たりしたが、飛鳥ちゃんに会うことはなかった。もしかして伊藤さんが近くにいないとダメなんだろうか。
階段周辺をうろうろしすぎて今度こそ通報されるかもしれない、という恐怖心と戦いながら三人で動くも、悲しい気だけを感じ姿は見えない。これはやはり伊藤さんの存在が必要かもしれないと結論づけた。
そして仕方なく信也の部屋で待機していた。何を話すこともなく、みんなでポッキーを齧ったりしていただけだ。
そして日が赤くなってきた頃、驚くことに、伊藤さんと信也がある人を部屋に連れてきた。
もちろん、本物のまことちゃんだった。
27
お気に入りに追加
543
あなたにおすすめの小説
『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を起こす~転校生渉の怪異事変~
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
みえる彼らと浄化係
橘しづき
ホラー
井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。
そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。
驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。
そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。



久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。