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待ち合わせ

結局みんなで

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 九条さんが厳しい声で言う。

「相手は繊細です。先ほどのように接触中に邪魔されては解決できるものもできなくなります。それにあなた方は視る能力はないのだから、一緒にきても無駄ですよ」

「今度は大人しくしてますって! 離れたところから見学です。そりゃ私も信也も視えないですけど? 依頼してるんですよ、一体どうやって調査をしているのか観察する権利はあります」

 そう言われば、九条さんも黙るしかない。だが、普通の依頼人なら九条さんもこんなに渋らなかったと思う。なんせ、あの二人だから難色を示しているのだ。

 はあと息を吐き頭を掻く。ちらりを私を見たので小さく頷いて見せた。しょうがない、あとで何か難癖つけられるより、その目で見てもらった方がいい。

「わかりました、その代わり決して邪魔はしないでください」

「やったー信也、いこ!」

 信也はどこか申しわけなさそうにしていた。聡美は素直に嬉しそうにしている。しかし、元々付き合っていたのにこんなに仲いいなんて、円満な別れ方をしたんだろうなあと想像する。私は無理だもんな、少し話すので精一杯。

 仕方なしに三人で部屋を出て一階に降りていく。ゾロゾロと中々の人数だ、はたから見ればこれから宅飲みでもするのかと微笑ましく見えるだろう。残念ながら私たちが向き合うのは酒ではなく霊だ。

 昼間よりさらにひんやりと冷え切った階段は、当然ながら誰もおらず薄暗い。私たちの足音がやたら響いては反響し耳に返ってくる。伊藤さんを先頭に、無言で降り続けた。

 ようやく一階に到着したとき、九条さんは聡美たちに少し離れて観察するように言った。二人は素直に頷き、踊り場の隅の方にしゃがみ込む。私と九条さんも同じように、伊藤さんとは距離を置いて待機した。

 伊藤さんは寒さにぶるっと震えながら、毛布を肩にかけ、昼間のようにイヤホンをした。冷え切っているであろう白い壁にもたれかかる。

 ぐっと寒さは厳しくなっている。昼間の経験を活かしてホッカイロを持ってきたので、ポケットから取り出して手で揉んだ。私と九条さんの背後には、聡美たちが座っている。

 ちらりと背後を見てみると、持参したであろうブランケットを仲良く二人で膝にかけていた。本当に別れたのか? と疑問に思うほど。

 肩を寄せ合って座るその姿は、不思議と胸を痛ませた。信也に未練なんてもうないけれど、それでも複雑な思いになってしまう。少し前まで、あの場所には私がいたんだなあなんて思ってしまうのだ。

 前を向いてみないようにする。気を紛らわせるようにカイロを無駄に揉んだ。温かな温もりが伝わってくる。

 ぼんやりと考えた。あの日、信也と街を歩いている時、聡美に会わなかったら結婚できていたんだろうか、と。そんなことを今までも考えなかったわけじゃない。

 でもすぐに首を振った。もし万が一できていたとしても、結局この力はいつかバレていた。そしたら上手くいかなかっただろう、むしろ結婚する前にわかってよかったかもしれないな、なんて。

 隠してたのがいけなかった。付き合ってる間に早く言っておけばよかったんだ。すぐに話してたら、そのまま別れて無駄な二年を過ごさなくてよかったのかもしれない。怯えていた自分が悪い。信也からすれば、もっと早く言えよって恨んでいたかも。

 手先が冷えて痛かった。カイロを両手で包み込む。一個じゃ足りなかった、もっとたくさん持って来ればよかった。夜だから昼間より冷え込むことはわかっていたはずなのに。想像以上に、寒い。

 伊藤さんの背中を見つめるも、今は特に異変はない。聡美たちがいることで、まことちゃんが出てきにくかったらどうしようか。少し様子見をして無理そうなら、九条さんが何か言ってくれるはず。

 けほっと喉から咳が漏れた。手で口を覆いながら、もしかして風邪をひいてしまったのか、と思う。一つ出ると次に咳が繰り返し出てくる。

 なんだ、何かがおかしい。自分の体が自分ではないように。

「光さん?」

 九条さんが私の方をみた。返事をしようとしたが、なんだか息苦しくてうまく返せなかった。同時に、ずっと寒いと思っていた場所がなお極寒に感じ、全身が震え出す。歯と歯がカチカチ音を立ててぶつかった。

 私は両手で必死に体をさする。そんな様子に気づいた九条さんが目を丸くした。

「光さん!」

 大きな声に気づいたのか伊藤さんも振り返る。私をみて瞬時にこちらに駆け寄ってきた。背後にいた聡美がなんだなんだ、とばかりにこちらに声を掛ける。

「え、どーしたの?」

「さ、む、い……」
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