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待ち合わせ
会えない二人
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九条さんが記事に目を通しながら言った。
「轢かれた女性は大坪明穂さん(34)……。子供は小学三年生、ですか」
「ええ、明穂さんは即死だったみたいです。お子さんは意識不明の重体、って記されてますが、駄菓子屋の人に聞きました。その後亡くなったみたいですね、名前は大坪真琴ちゃんだそうです」
「まこと!」
驚きで声を上げたのは、私ではなく信也だった。つい声に反応して振り返る。昨晩、私たちからまことの名前を聞いていたので驚いたのかもしれない。
信也は信じられない、という表情でこちらを見ている。何かを察したように聡美が小声で言った。
「実は昨日の段階で名前を知ってたのかもよ、そういう演出も簡単にできるよ」
これまたこちらの怒りを買うような発言をしてくる妹に声を上げようとしたが、九条さんが私の手首を掴んで止めた。相手にしなくていい、ということだろうか。
私はもやもやしながらもそれに従った。聡美のことは無視し、伊藤さんの話の先を促す。
「悲しい事件ですね。それで、その後公園はなくなりこのマンションが建ったということですか?」
「そういうこと。九条さんから昨日の話も聞いて、ビンゴじゃないかと思ってさ、何かが揺れるような衝撃って、やっぱり車が衝突した時の感覚が表れてるんじゃない? 明穂さんか、真琴ちゃんか分からないけど」
「そうだ、女性の霊は体の損傷が激しかった。やっぱり交通事故によるものじゃないでしょうか。それに、さっき出会った時もまことという名前に反応していて」
「さっき?」
九条さんが不思議そうに首を傾げる。そういえばまだエレベーターでの体験を話していなかったことを思い出し、私はかいつまんで説明した。九条さんは納得したように頷く。
「我々が聞いた悲鳴と傷だらけの霊は同一人物と見て間違いないですね。そして、大坪明穂さんでしょう」
「九条さん、もしかして高橋さんが見た子供の霊も……」
「まだ我々は会えてませんが、年齢的に見て真琴さんと見るのがスムーズですね」
「となれば、明穂さんが探してるのは真琴ちゃんってことになりますよね?」
「でしょうね」
明穂さんが悲しげに誰かを探している姿を思い出す。真琴という名前に強く反応していた。目の前で自分の子供が殺されたんだ、そんなの成仏できっこない。
ずっと黙っていた聡美が不思議そうに声を出した。
「でも十三年も前の事件でしょ? 待ち合わせしてた親子がお互いを探すって言ったって、同じマンション内なのになんで会えないの? 変じゃん」
聡美の疑問はこればりは気持ちがわかる。普通に考えればそういう疑問は浮かんでくるものだ。九条さんもすぐに答えた。
「生きていない者たちに普通は通用しません。彼らにも波長が合ったり合わなかったりすることもある。ここでは調べきれていない何か他の理由がある場合も。ですが明穂さんが真琴さんを探して彷徨っているのは事実です。その望みを叶えてあげねば浄霊になりません」
「会わせてあげるってことですか? どうするんですー?」
聡美が尋ねる。九条さんは腕を組んで考え込んだ。霊と霊を引き合わせる、って今までやったことなかったかもしれない。
彼はしばらく考えた後答えた。
「本人たちに話しかける他ないですね。真琴さんの方にはまだ会えていませんし、とにかく出会えるまで光さんと散策を続けます」
まあ、それしか私も思いうかばないなあと思う。一度真琴ちゃんの方にも会ってみたい、接触できるまで頑張ろう。
決まりだと言わんばかりに九条さんは信也と聡美に向かって言った。
「では、休息を挟みつつマンションを回ります。どうぞお二人は自由になさっててください、進展があれば報告します」
それを聞いて伊藤さんはパソコンを一旦閉じた。とりあえず控室に行こうと移動する。ちらりと背後を見ると、聡美が真顔でこちらをじっとみていた。何か声をかけようか迷ったが、とりあえずそのままリビングを出る。
寝室に戻ったところで、三人床に座り込んだ。私は即座に謝罪する。
「あの、妹が失礼なことばかり言ってすみません」
「まあまあ、光ちゃんが謝ることじゃないよ。はいご飯食べよー。九条さん、パソコン持ってきたし僕もここで情報収集していいですか? 危険な霊じゃなさそうだし。なんならお守り置いてきてエサでもいいですよ僕」
コンビニ袋を漁りながら伊藤さんがいう。普段、彼は事務所で情報収集を行い、来客がきた時には対応できるよう待機している。伊藤さんがここにいるということは事務所は閉めているということだ。
だが、霊を引き寄せやすい彼の体質を使うこともある。でも伊藤さんはエサ役は基本嫌がることが多い。そりゃ霊をあえて引き寄せるだなんて誰でも嫌だと思う。だからこそ、彼からの提案は意外だった。
もしかして、信也や聡美のことで私を心配し、早く解決できるよう提案してくれたんだろうか。
九条さんは少し考え、答えた。
「まあ、ここで待機でもいいですよ別に。久々にエサになってもらいましょうか、思えば相手は子供の霊ですから、私と光さんは子供に逃げられやすいですし」
「私と九条さん一緒にしないでくださいよ」
「失礼しました、伊藤さんほど子供に好かれないので。階段で感じた気を見るに真琴さんの方も危険な存在ではなさそうですからね。もう少し休憩を挟んでから行きましょう。朝方まで歩き回っていたので」
そういうと彼は伊藤さんから受け取ったペットボトルの水を飲み込んだ。床に並べられたいろんな商品を眺める。パンにおにぎり、お弁当やデザートまでたっぷりだ。
「光ちゃん好きなの食べてね!」
「すみません、ありがとうございます」
一つおにぎりを手にする。おにぎりの封を開けて一口頬張った。海苔の割れる音が大きく響く。
九条さんはポッキーを食べつつ言った。
「さて、さっき突かれたところは一理ある疑問でしたね。十三年の間、二人ともそれなりに近くに存在しているのにお互いを認識できない理由。明穂さんの方は子供を探して彷徨っている感じですし、なぜ真琴さんを探し出せないのか……波長の問題なのか……」
九条さんの独り言のような声を聞きながら、私も心で同意した。
多分、真琴ちゃんだってお母さんに会いたいはず。
なぜ二人は、こんなに長い時間会えないんだろう?
「轢かれた女性は大坪明穂さん(34)……。子供は小学三年生、ですか」
「ええ、明穂さんは即死だったみたいです。お子さんは意識不明の重体、って記されてますが、駄菓子屋の人に聞きました。その後亡くなったみたいですね、名前は大坪真琴ちゃんだそうです」
「まこと!」
驚きで声を上げたのは、私ではなく信也だった。つい声に反応して振り返る。昨晩、私たちからまことの名前を聞いていたので驚いたのかもしれない。
信也は信じられない、という表情でこちらを見ている。何かを察したように聡美が小声で言った。
「実は昨日の段階で名前を知ってたのかもよ、そういう演出も簡単にできるよ」
これまたこちらの怒りを買うような発言をしてくる妹に声を上げようとしたが、九条さんが私の手首を掴んで止めた。相手にしなくていい、ということだろうか。
私はもやもやしながらもそれに従った。聡美のことは無視し、伊藤さんの話の先を促す。
「悲しい事件ですね。それで、その後公園はなくなりこのマンションが建ったということですか?」
「そういうこと。九条さんから昨日の話も聞いて、ビンゴじゃないかと思ってさ、何かが揺れるような衝撃って、やっぱり車が衝突した時の感覚が表れてるんじゃない? 明穂さんか、真琴ちゃんか分からないけど」
「そうだ、女性の霊は体の損傷が激しかった。やっぱり交通事故によるものじゃないでしょうか。それに、さっき出会った時もまことという名前に反応していて」
「さっき?」
九条さんが不思議そうに首を傾げる。そういえばまだエレベーターでの体験を話していなかったことを思い出し、私はかいつまんで説明した。九条さんは納得したように頷く。
「我々が聞いた悲鳴と傷だらけの霊は同一人物と見て間違いないですね。そして、大坪明穂さんでしょう」
「九条さん、もしかして高橋さんが見た子供の霊も……」
「まだ我々は会えてませんが、年齢的に見て真琴さんと見るのがスムーズですね」
「となれば、明穂さんが探してるのは真琴ちゃんってことになりますよね?」
「でしょうね」
明穂さんが悲しげに誰かを探している姿を思い出す。真琴という名前に強く反応していた。目の前で自分の子供が殺されたんだ、そんなの成仏できっこない。
ずっと黙っていた聡美が不思議そうに声を出した。
「でも十三年も前の事件でしょ? 待ち合わせしてた親子がお互いを探すって言ったって、同じマンション内なのになんで会えないの? 変じゃん」
聡美の疑問はこればりは気持ちがわかる。普通に考えればそういう疑問は浮かんでくるものだ。九条さんもすぐに答えた。
「生きていない者たちに普通は通用しません。彼らにも波長が合ったり合わなかったりすることもある。ここでは調べきれていない何か他の理由がある場合も。ですが明穂さんが真琴さんを探して彷徨っているのは事実です。その望みを叶えてあげねば浄霊になりません」
「会わせてあげるってことですか? どうするんですー?」
聡美が尋ねる。九条さんは腕を組んで考え込んだ。霊と霊を引き合わせる、って今までやったことなかったかもしれない。
彼はしばらく考えた後答えた。
「本人たちに話しかける他ないですね。真琴さんの方にはまだ会えていませんし、とにかく出会えるまで光さんと散策を続けます」
まあ、それしか私も思いうかばないなあと思う。一度真琴ちゃんの方にも会ってみたい、接触できるまで頑張ろう。
決まりだと言わんばかりに九条さんは信也と聡美に向かって言った。
「では、休息を挟みつつマンションを回ります。どうぞお二人は自由になさっててください、進展があれば報告します」
それを聞いて伊藤さんはパソコンを一旦閉じた。とりあえず控室に行こうと移動する。ちらりと背後を見ると、聡美が真顔でこちらをじっとみていた。何か声をかけようか迷ったが、とりあえずそのままリビングを出る。
寝室に戻ったところで、三人床に座り込んだ。私は即座に謝罪する。
「あの、妹が失礼なことばかり言ってすみません」
「まあまあ、光ちゃんが謝ることじゃないよ。はいご飯食べよー。九条さん、パソコン持ってきたし僕もここで情報収集していいですか? 危険な霊じゃなさそうだし。なんならお守り置いてきてエサでもいいですよ僕」
コンビニ袋を漁りながら伊藤さんがいう。普段、彼は事務所で情報収集を行い、来客がきた時には対応できるよう待機している。伊藤さんがここにいるということは事務所は閉めているということだ。
だが、霊を引き寄せやすい彼の体質を使うこともある。でも伊藤さんはエサ役は基本嫌がることが多い。そりゃ霊をあえて引き寄せるだなんて誰でも嫌だと思う。だからこそ、彼からの提案は意外だった。
もしかして、信也や聡美のことで私を心配し、早く解決できるよう提案してくれたんだろうか。
九条さんは少し考え、答えた。
「まあ、ここで待機でもいいですよ別に。久々にエサになってもらいましょうか、思えば相手は子供の霊ですから、私と光さんは子供に逃げられやすいですし」
「私と九条さん一緒にしないでくださいよ」
「失礼しました、伊藤さんほど子供に好かれないので。階段で感じた気を見るに真琴さんの方も危険な存在ではなさそうですからね。もう少し休憩を挟んでから行きましょう。朝方まで歩き回っていたので」
そういうと彼は伊藤さんから受け取ったペットボトルの水を飲み込んだ。床に並べられたいろんな商品を眺める。パンにおにぎり、お弁当やデザートまでたっぷりだ。
「光ちゃん好きなの食べてね!」
「すみません、ありがとうございます」
一つおにぎりを手にする。おにぎりの封を開けて一口頬張った。海苔の割れる音が大きく響く。
九条さんはポッキーを食べつつ言った。
「さて、さっき突かれたところは一理ある疑問でしたね。十三年の間、二人ともそれなりに近くに存在しているのにお互いを認識できない理由。明穂さんの方は子供を探して彷徨っている感じですし、なぜ真琴さんを探し出せないのか……波長の問題なのか……」
九条さんの独り言のような声を聞きながら、私も心で同意した。
多分、真琴ちゃんだってお母さんに会いたいはず。
なぜ二人は、こんなに長い時間会えないんだろう?
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