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家族の一員
明日へ持ち越し
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九条さんはそれを聞いてちらりとスマホをみた。時刻は二十時過ぎ。彼は眉を顰めた。私は代弁して言う。
「流石にこんな時間じゃ病院は入れませんね……面会時間も終わってるし」
「仕方ありませんね……明日朝イチで病院まで伺うことにしましょうか。人形についての謎を聞かねばなりません、光さんもう一晩の我慢です」
「はい」
私は気合を入れて返事をした。まだ解決とまではいかないだろうけど、きっと上浦さんは人形について何か知っているはずだ、そうでなければわざわざ偽名を使って事務所に来てあれを置き去りになんてしない。
伊藤さんがポケットからスマホを取り出して九条さんに言う。
「住職が入院してる病院はわかったので情報送っておきますね」
「ありがとうございます」
「なぜ入院しているのかとか、そこまでは調べきれていないので、今夜調べられるだけ頑張ってみようと思います」
「よろしくお願いします」
「あ、僕も泊まっていっていいですか? 雑魚寝でいいんで。もう通勤する時間も勿体無いかなって」
「いいですよご自由に」
伊藤さんは頷くと、まだ帰ってきたばかりだと言うのにカバンからパソコンを取り出して早速調べ物をし始める。私は立ち上がり、冷蔵庫から飲み物を取り出し伊藤さんに差し出した。それに気づいた彼はニコリと笑ってくれる。
「ありがとう」
「こちらこそです、私のために色々調べてくださって……ちゃんと休んでください」
「僕のセリフだよ。光ちゃんこそしっかり休んでね」
そう言う伊藤さんの目はやっぱり少し赤くなっていて、目の下にはうっすらクマすら見える気がした。
胸を痛ませながら、とりあえず自分にできることをしようと彼のためにインスタントの食事を温めにキッチンへ立った。
その後三人で簡単な食事を済ませ、伊藤さんは部屋の隅でパソコンに齧り付き、九条さんもモニターを見たり何かを考え込んだりしていた。
そんな二人の後ろで何もすることがない私は、ソファに座ったまま困っていた。伊藤さんも九条さんも口を揃えて「あなたはゆっくりして自分のことを考えて」と言うのみで仕事は何もない。
ちらりと目の前のテーブルに置かれた人形を見てみると、彼女は私たちをどこか楽しげに見ていた。とりあえずあと一晩はここで過ごさなくてはならない。私は気合を入れた。
かと言ってやることもないので、気を紛らわせるためにスマホを取り出した。そこで、そうだこの前テレビで見た心霊番組をもう一度見よう、と思い出す。
法閣寺の住職が少しだけ出ていた。恐らく病に倒れる前に収録したものなんだろう。番組全体がヤラセっぽかったので、軽く見流したくらいでしっかり見ていないのだ。
検索して探してみる。便利な世の中になったものだ、見逃したテレビだってすぐに見れる。テレビの前で座り齧り付いてみることをしなくてもよくなった。例の心霊番組も、少し見てみただけですぐに見つけることができた。私は早速再生してみる。
二時間ほどの番組はありがちな心霊スポットに芸能人が行ってみたり、心霊写真や映像、曰く付き人形の紹介などがある。確か後半らへんで少しだけお寺が出ていたはず。
早送りしながら見ていると、やはりあのお寺が映っている場面を見つけた。仕事をしている九条さんたちを気遣ってイヤホンをカバンから取り出す。それをはめてスマホをしっかり手に持った。
番組の流れはこうだ。曰くのある人形を供養しているお寺に行き、その中で一つ紹介してもらう、というもの。スタジオにいるゲストたちが神妙な面持ちで見ているのがワイプに映っている。
人形の供養を受けている寺として、法閣寺が紹介される。曰くのある人形がいくつも保管されており、人前に出してはならないものも眠っている……とまあ、これまたありがちな紹介である。
昨日行ったあのお寺が映り込んだ。そしてすぐに画面が切り替わり、私は入ることのなかった本堂に移動する。現れたのは先ほど写真で見た住職だった。
写真よりずっと厳かに見えた。プライベートと別の仕事の顔、ということだろうか。彼は手に一つの人形を持ってカメラの前に座り、スタッフに説明を始める。それはある人が持ち込んだ人形で、亡くなった祖父が大事にしていた人形なのだが、受け継いだ孫が髪が伸びていることに気づいた、というエピソードだった。
彼が持つ人形をじっと見てみたが、偽物だろうなと私は感じた。うちにいるあの子と比べると平和な人形だ。まあ、本当にヤバいものをテレビで全国に流すわけがないか。
私はそう思いながらじっと住職の声に耳を傾ける。落ち着いた低い声とテンポで、とても聞き取りやすかった。目の前に置いた人形をじっと見つめながら話す。この人が、みんな口を揃えて力がすごい、と言っていた住職さんか……。
『人形は魂を宿します。物に宿ることもありますが、圧倒的に人形に宿ることの方が多い。それは人形というものがこの世に生まれてから変わりないことです。
私は幾千もの人形を見てきました。そして分かったのです。大事なのは人形一つ一つに誠意を持って接すること。声をしっかり聞き、物ではなく一人の人間として扱ってあげるのです。彼らを尊重することが何より大事なのです』
しっとりとした口調でそう話す彼をじっと見つめる。へえ、結構優しい感じの人なんだな。見たイメージとはちょっと違った。年齢にしろ経験にしろ、私よりずっといろんなものを見てきているんだろう。
カメラに向かって説明を続ける住職を見ながら、今入院している病が早く良くなってほしいな、と思った。実力のある人なんだから、この人を待っている人たちがたくさんいるだろうに。
映像をぼんやり眺めながらそう思っていると、聞いていた音声に乱れが生じたのに気がつく。住職の声が途切れ途切れになっている。
イヤホンの接触が悪いのだろうかと思い一旦付け直してみるが変わらなかった。映像自体の問題だろうか。
「流石にこんな時間じゃ病院は入れませんね……面会時間も終わってるし」
「仕方ありませんね……明日朝イチで病院まで伺うことにしましょうか。人形についての謎を聞かねばなりません、光さんもう一晩の我慢です」
「はい」
私は気合を入れて返事をした。まだ解決とまではいかないだろうけど、きっと上浦さんは人形について何か知っているはずだ、そうでなければわざわざ偽名を使って事務所に来てあれを置き去りになんてしない。
伊藤さんがポケットからスマホを取り出して九条さんに言う。
「住職が入院してる病院はわかったので情報送っておきますね」
「ありがとうございます」
「なぜ入院しているのかとか、そこまでは調べきれていないので、今夜調べられるだけ頑張ってみようと思います」
「よろしくお願いします」
「あ、僕も泊まっていっていいですか? 雑魚寝でいいんで。もう通勤する時間も勿体無いかなって」
「いいですよご自由に」
伊藤さんは頷くと、まだ帰ってきたばかりだと言うのにカバンからパソコンを取り出して早速調べ物をし始める。私は立ち上がり、冷蔵庫から飲み物を取り出し伊藤さんに差し出した。それに気づいた彼はニコリと笑ってくれる。
「ありがとう」
「こちらこそです、私のために色々調べてくださって……ちゃんと休んでください」
「僕のセリフだよ。光ちゃんこそしっかり休んでね」
そう言う伊藤さんの目はやっぱり少し赤くなっていて、目の下にはうっすらクマすら見える気がした。
胸を痛ませながら、とりあえず自分にできることをしようと彼のためにインスタントの食事を温めにキッチンへ立った。
その後三人で簡単な食事を済ませ、伊藤さんは部屋の隅でパソコンに齧り付き、九条さんもモニターを見たり何かを考え込んだりしていた。
そんな二人の後ろで何もすることがない私は、ソファに座ったまま困っていた。伊藤さんも九条さんも口を揃えて「あなたはゆっくりして自分のことを考えて」と言うのみで仕事は何もない。
ちらりと目の前のテーブルに置かれた人形を見てみると、彼女は私たちをどこか楽しげに見ていた。とりあえずあと一晩はここで過ごさなくてはならない。私は気合を入れた。
かと言ってやることもないので、気を紛らわせるためにスマホを取り出した。そこで、そうだこの前テレビで見た心霊番組をもう一度見よう、と思い出す。
法閣寺の住職が少しだけ出ていた。恐らく病に倒れる前に収録したものなんだろう。番組全体がヤラセっぽかったので、軽く見流したくらいでしっかり見ていないのだ。
検索して探してみる。便利な世の中になったものだ、見逃したテレビだってすぐに見れる。テレビの前で座り齧り付いてみることをしなくてもよくなった。例の心霊番組も、少し見てみただけですぐに見つけることができた。私は早速再生してみる。
二時間ほどの番組はありがちな心霊スポットに芸能人が行ってみたり、心霊写真や映像、曰く付き人形の紹介などがある。確か後半らへんで少しだけお寺が出ていたはず。
早送りしながら見ていると、やはりあのお寺が映っている場面を見つけた。仕事をしている九条さんたちを気遣ってイヤホンをカバンから取り出す。それをはめてスマホをしっかり手に持った。
番組の流れはこうだ。曰くのある人形を供養しているお寺に行き、その中で一つ紹介してもらう、というもの。スタジオにいるゲストたちが神妙な面持ちで見ているのがワイプに映っている。
人形の供養を受けている寺として、法閣寺が紹介される。曰くのある人形がいくつも保管されており、人前に出してはならないものも眠っている……とまあ、これまたありがちな紹介である。
昨日行ったあのお寺が映り込んだ。そしてすぐに画面が切り替わり、私は入ることのなかった本堂に移動する。現れたのは先ほど写真で見た住職だった。
写真よりずっと厳かに見えた。プライベートと別の仕事の顔、ということだろうか。彼は手に一つの人形を持ってカメラの前に座り、スタッフに説明を始める。それはある人が持ち込んだ人形で、亡くなった祖父が大事にしていた人形なのだが、受け継いだ孫が髪が伸びていることに気づいた、というエピソードだった。
彼が持つ人形をじっと見てみたが、偽物だろうなと私は感じた。うちにいるあの子と比べると平和な人形だ。まあ、本当にヤバいものをテレビで全国に流すわけがないか。
私はそう思いながらじっと住職の声に耳を傾ける。落ち着いた低い声とテンポで、とても聞き取りやすかった。目の前に置いた人形をじっと見つめながら話す。この人が、みんな口を揃えて力がすごい、と言っていた住職さんか……。
『人形は魂を宿します。物に宿ることもありますが、圧倒的に人形に宿ることの方が多い。それは人形というものがこの世に生まれてから変わりないことです。
私は幾千もの人形を見てきました。そして分かったのです。大事なのは人形一つ一つに誠意を持って接すること。声をしっかり聞き、物ではなく一人の人間として扱ってあげるのです。彼らを尊重することが何より大事なのです』
しっとりとした口調でそう話す彼をじっと見つめる。へえ、結構優しい感じの人なんだな。見たイメージとはちょっと違った。年齢にしろ経験にしろ、私よりずっといろんなものを見てきているんだろう。
カメラに向かって説明を続ける住職を見ながら、今入院している病が早く良くなってほしいな、と思った。実力のある人なんだから、この人を待っている人たちがたくさんいるだろうに。
映像をぼんやり眺めながらそう思っていると、聞いていた音声に乱れが生じたのに気がつく。住職の声が途切れ途切れになっている。
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