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家族の一員
日常
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「あれー? 光ちゃん?」
聞き覚えのある声が聞こえて顔を上げる。そこにいたのは最高の癒し、伊藤さんだった。片方に小さなエクボを浮かべ、子供のような笑顔で私を覗き込んでいた。
そしてその背後にはなんと九条さんが、無表情で立ってこちらを見ていたのだ。
「あ、あれ、伊藤さんに九条さん!」
「偶然だね。さっき仕事のことで九条さんに電話したらさあ、寝ててまだ今日朝から何も食べてないんだって! もう呆れて無理矢理食事に連れ出したとこ!」
口を開けて笑う伊藤さんに、先ほどから落ち込んでいた心がすうっと楽になる気がした。つい頬が緩み笑ってしまう。
「朝からですか? 寝過ぎですね九条さん」
「ねえ? まあ僕もちょうど晩御飯どうしようか迷ってたからよかったけど。光ちゃんは? 買い物でも?」
そう尋ねられてうっと答えに困る。いやあ、街コンに一人で参加して惨敗し落ち込んでました、なんて言えないよなあ……。私は苦笑いする。
「ちょっと、まあ、そんな感じですかね」
正直に言えない私は誤魔化す。伊藤さんはそれ以上何も聞いてこなかった。買い物といっても荷物は小さな鞄一つの私には無理がある嘘だ。
ずっと黙っていた九条さんが口を開いた。
「食事はとりましたか」
「え? いいえ、まだ……」
「では一緒に行きますか。まだ何食べるか決まってませんが」
誘ってくれた彼の方を見る。相変わらず白い服に黒いパンツ。今日は前髪の一部が寝癖でくるんとカールしていた。
私はつい笑う。それでも、この二人に囲まれたことが非常に嬉しくなって頷いた。
「はい、ご一緒していいですか?」
「うん行こう行こう! さーて何食べようねー」
私は伊藤さんと九条さんに並ぶ。さっきまでの落ち込みようが嘘のように心が穏やかになる。心地いいこの空間が、やっぱりとても好きだなと思ってしまった。
ここ最近依頼もなく穏やかに過ごしている。少し前まで立て続けに調査があったので、私としてはたまにはこういう静かな日が続くのもいいんじゃないかなと思っている。
事務所で伊藤さんから簡単な仕事をもらいゆったりこなしていた。まあ私と九条さんは暇だが、伊藤さんはいつも忙しそうなのだ。以前の調査の報告書などを一通りまとめたり、その後の生活はどうか依頼主に電話で聞いてくれたりと、彼はいつも完璧に仕事をこなしている。
その日もソファで寝ている九条さん、パソコンに向かっている私と伊藤さんで静かに時間は流れていた。伊藤さんは少し前までやっていた調査の報告書を作っているようだった。
「よーし完成!」
そんな言葉が聞こえて顔を上げる。彼はにこやかに立ち、プリントした資料をまとめていた。
「お疲れ様です」
「この前の調査は簡単だったからねー長いと報告書も辛いけど」
「そうですよね、口頭で九条さんから言われた内容をあんなふうにまとめられるのすごいと思います」
「いやいやそれが僕の仕事だし。視えないからそういうとこはやれないと。さ、郵便局に行ってこようかな。そのままお昼買ってこよー」
「お疲れ様です」
封筒と財布を持った伊藤さんは私にヒラヒラと手を振り、そのまま事務所を後にする。ちらりと時計を見上げれば、確かにもうそろそろ昼食の時間だった。
私は持ってきたお弁当を取り出す。たまには外食でもいいかと思うこともあるが、なんせ九条さんの分があるため結局作ってきてしまう。外に出るのが面倒なあの人は、気分が乗らないと外食も来てくれない。
まあ弁当手当も貰っちゃってるからね。私は手に持ったお弁当をいつものように九条さんのデスクの上に置いていた。さて、いつ起きるやら。
自分の分を食べようと席に座った時、ごそりと物音がした。顔を上げると、ソファから体を起こした九条さんが見える。相変わらず後頭部は寝癖で跳ねている。ほんと、顔面無駄遣い。
どこかぼーっとしている九条さんに呆れて言った。
「おはようございます、お昼ですよ。食事置いておきました」
彼は私の言葉に反応もなく、半目でゆっくり当たりを見渡す。そして不思議そうに首を傾げた。
「…………おかしいですね、今私は氷の魔法が使える女王と話していたはずなんですが」
「何を言ってるんですか、昨日のテレビでやってたアニメでも夢に出てきたんです? 寝ぼけてますよ、ここは事務所です」
「……そうでした、昨日テレビで眺めていたんでした」
頭を掻いてそう納得する。私ははあとため息をついた。いい大人がこんなに寝ぼけることある? 何に一番呆れているかって、ちょっと可愛いと思った自分に対してだ。
聞き覚えのある声が聞こえて顔を上げる。そこにいたのは最高の癒し、伊藤さんだった。片方に小さなエクボを浮かべ、子供のような笑顔で私を覗き込んでいた。
そしてその背後にはなんと九条さんが、無表情で立ってこちらを見ていたのだ。
「あ、あれ、伊藤さんに九条さん!」
「偶然だね。さっき仕事のことで九条さんに電話したらさあ、寝ててまだ今日朝から何も食べてないんだって! もう呆れて無理矢理食事に連れ出したとこ!」
口を開けて笑う伊藤さんに、先ほどから落ち込んでいた心がすうっと楽になる気がした。つい頬が緩み笑ってしまう。
「朝からですか? 寝過ぎですね九条さん」
「ねえ? まあ僕もちょうど晩御飯どうしようか迷ってたからよかったけど。光ちゃんは? 買い物でも?」
そう尋ねられてうっと答えに困る。いやあ、街コンに一人で参加して惨敗し落ち込んでました、なんて言えないよなあ……。私は苦笑いする。
「ちょっと、まあ、そんな感じですかね」
正直に言えない私は誤魔化す。伊藤さんはそれ以上何も聞いてこなかった。買い物といっても荷物は小さな鞄一つの私には無理がある嘘だ。
ずっと黙っていた九条さんが口を開いた。
「食事はとりましたか」
「え? いいえ、まだ……」
「では一緒に行きますか。まだ何食べるか決まってませんが」
誘ってくれた彼の方を見る。相変わらず白い服に黒いパンツ。今日は前髪の一部が寝癖でくるんとカールしていた。
私はつい笑う。それでも、この二人に囲まれたことが非常に嬉しくなって頷いた。
「はい、ご一緒していいですか?」
「うん行こう行こう! さーて何食べようねー」
私は伊藤さんと九条さんに並ぶ。さっきまでの落ち込みようが嘘のように心が穏やかになる。心地いいこの空間が、やっぱりとても好きだなと思ってしまった。
ここ最近依頼もなく穏やかに過ごしている。少し前まで立て続けに調査があったので、私としてはたまにはこういう静かな日が続くのもいいんじゃないかなと思っている。
事務所で伊藤さんから簡単な仕事をもらいゆったりこなしていた。まあ私と九条さんは暇だが、伊藤さんはいつも忙しそうなのだ。以前の調査の報告書などを一通りまとめたり、その後の生活はどうか依頼主に電話で聞いてくれたりと、彼はいつも完璧に仕事をこなしている。
その日もソファで寝ている九条さん、パソコンに向かっている私と伊藤さんで静かに時間は流れていた。伊藤さんは少し前までやっていた調査の報告書を作っているようだった。
「よーし完成!」
そんな言葉が聞こえて顔を上げる。彼はにこやかに立ち、プリントした資料をまとめていた。
「お疲れ様です」
「この前の調査は簡単だったからねー長いと報告書も辛いけど」
「そうですよね、口頭で九条さんから言われた内容をあんなふうにまとめられるのすごいと思います」
「いやいやそれが僕の仕事だし。視えないからそういうとこはやれないと。さ、郵便局に行ってこようかな。そのままお昼買ってこよー」
「お疲れ様です」
封筒と財布を持った伊藤さんは私にヒラヒラと手を振り、そのまま事務所を後にする。ちらりと時計を見上げれば、確かにもうそろそろ昼食の時間だった。
私は持ってきたお弁当を取り出す。たまには外食でもいいかと思うこともあるが、なんせ九条さんの分があるため結局作ってきてしまう。外に出るのが面倒なあの人は、気分が乗らないと外食も来てくれない。
まあ弁当手当も貰っちゃってるからね。私は手に持ったお弁当をいつものように九条さんのデスクの上に置いていた。さて、いつ起きるやら。
自分の分を食べようと席に座った時、ごそりと物音がした。顔を上げると、ソファから体を起こした九条さんが見える。相変わらず後頭部は寝癖で跳ねている。ほんと、顔面無駄遣い。
どこかぼーっとしている九条さんに呆れて言った。
「おはようございます、お昼ですよ。食事置いておきました」
彼は私の言葉に反応もなく、半目でゆっくり当たりを見渡す。そして不思議そうに首を傾げた。
「…………おかしいですね、今私は氷の魔法が使える女王と話していたはずなんですが」
「何を言ってるんですか、昨日のテレビでやってたアニメでも夢に出てきたんです? 寝ぼけてますよ、ここは事務所です」
「……そうでした、昨日テレビで眺めていたんでした」
頭を掻いてそう納得する。私ははあとため息をついた。いい大人がこんなに寝ぼけることある? 何に一番呆れているかって、ちょっと可愛いと思った自分に対してだ。
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