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聞こえない声

???

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 思ってもみないセリフが耳に入ってきて、私は目を見開いた。普通ならドキっとかきゅん、とかするのかもしれないが、とにかく予想外すぎて驚きが勝ったので、私は菊池さんの顔を二度見するので必死だった。

「……え? はい?」

 聞き間違いかと思った。だって、付き合う……だなんて、それはなんだ、え、どういう意味だっけ??

 つい足を止めてぽかんとした間抜けづらで菊池さんをみるが、彼はさらに続けた。

「僕と付き合ってもらえませんか。その、一目惚れだったんです」

「??????」

 頭の中が?マークでいっぱいになる。混乱の絶頂だ、一体今何が起きているっていうんだ。

 菊池さんはどんどん顔を赤くさせた。何も言葉が出てこない私に、トドメのような言葉を続けていく。

「その、黒島さんと接点がなくなるのが嫌だったので、調査の続行をお願いしたっていうのもあります。すみません、邪な気持ちを」

「???」

「今付き合ってる人とかいるんですか。いないなら、僕と付き合ってくれませんか」

 ここまできてようやく脳が処理を施し、私の鼓動はスピードを速くさせた。一気にこちらも顔が熱くなる。まるで思ってもみなかった菊池さんの発言に、パニックもいいところだ。

「あ、の。私、こんな、霊とか視えちゃう体質ですし、変わり者だから、その」

「そんなの最初から知ってますから。でも関係なくないですか、可愛いし優しい人です」

「……え」

「いるんですか、彼氏」

 以前付き合っていた人から、視える力のことが原因で振られてしまった私として、その言葉はものすごく大きい意味を持っていた。

 視えることなんて関係ない。そんな風に言ってくれる人がいるななんて。

 私はつい俯いた。

 菊池さんなんてどう見てもモテる側の人間だろうし、そんな人がなぜ私なんだろうという思いで一杯だ。でも冗談を言っているようには思えない、ちゃんと私も答えなくちゃと思った。

『いるんですか、彼氏』

 ふわりと頭の中に、あの人が浮かんだ。

 彼氏なんて。いるわけない。全然実りそうにない相手だよ、ずっと片想い。

「彼氏、なんていません」

「ほんとですか?」

「でも、好きな人はいます。だから……すみません」

 それでも、私にはこの告白を受け入れる気にはなれなかった。

 実らないけど、全然そんな風に見られてないけど、でもやっぱり私はいつでもあの人でいっぱいになっている。自分でも呆れるくらい、どうしても好きになってしまってる。

 私は丁寧に頭を下げた。こんな私に好意を寄せてくれたなんて、本当に感謝してもし尽くせない。

「ありがとうございます、そう言って頂けてすごく嬉しか」

「その好きな人は、希望ある人なんですか?」

 菊池さんが痛いところを突いてきたのでつい顔を上げた。真面目な目をしている彼の視線が痛い。

「……え」

「好きな人いるならしょうがないですけど、その相手は実りそうなんですか?」

「……そ、れは」

 私が言葉を濁すと、菊池さんがにっこり笑った。そして私の手を突然取って握る。びっくりして体を硬直させてしまった。

「もし、その片想いが叶いそうにないのならチャンスをください。徐々に好きになって貰えばいいです。僕と付き合ってみてください」

「え、え」

「他に好きな人がいても諦めませんよ。とりあえず連絡先聞いてもいいですか?」

 意外だった、まさかこんなに強く言ってくれるなんて。そんな時、この前伊藤さんと会話した内容を思い出す。

『せめて他にいい人いないか視野を広げてみたら? 他に気になる人ができたら、自然とフェードアウトすることもあるかも』

 彼はそう言っていた。九条さんをあきらめるには、他にもいい人を見つける方がいい、って。

 少し視線を泳がせる。菊池さんはどうみても私にはもったいないほどの人だ、でもこんな中途半端な気持ちで付き合うなんて。
 
 にこやかにポケットからスマホを取り出す彼に釣られて私もカバンを漁ると、菊池さんが優しい声で諭した。

「少し考えてください。今すぐ返事しろってわけじゃないですから」

「あ、はい……」

「試しに、って感じでいいんですよ、あまり深く考えすぎないで」

 笑う彼に、とりあえず必死に頷いた。されるがまま連絡先の交換だけ終える。これで私の寂しいスマホに一人、連絡先が増えた。

 こんな経験、あんまり味わったことがないからどうしていいかわからない。世の中の恋愛経験者、一体どう対処してるの?

「さ、コンビニいきましょうか、暗くなっちゃう」

「そ、そうですね」

 何事もなかったかのように歩き出す菊池さんの背中を慌てて追う。胸がドキドキして、変な気持ちになった。



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