視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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聞こえない声

もふもふは正義

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「ええと、女同士の話題ですよ!」

「はあ、私にはよくわかりませんが。まあ光さんが迷惑していないならいいです」

 目の前の信号が青になり再び車を走らせる。隣をチラリと見、この際だからもっと深く聞いてやろうかと決意する。

「九条さんて、なんで麗香さんと別れたんですか。あんなに綺麗な人なのに」

 なるべく自然に、ただの雑談に聞こえるように話したつもりだった。もちろん心の中は和太鼓が鳴り響く大騒ぎ。

 九条さんは特に表情を変えることなく言った。

「彼女は仕事仲間として信頼してますし尊敬もしてます。ですが異性と見るとなるとまた違いますし」

「へえ~……じゃあど、どういう人がいいんですかねえ?」

「さあ……居心地の良い人じゃないですか、よくわかりません」

 居心地の良い人!!!

 以前似たような質問を投げかけた時には、『好きになった人が好みの人です』とかいうどこのアイドルだよみたいな特徴のない返答だったけれど、それよりはまだわかる気がする。

 居心地の良い人!

 居心地の良い人!

……って、どんな人? 私は??

 色々考えたけどやっぱり、まるで参考にならない答えだと気付かされた。その人によって居心地のよさは違うもんな、一緒のペースで動くのがいいのか、引っ張ってくれるタイプがいいのか。

 ダメだ、今回もやはりイマイチ聞き出せなかった。この人わざとなんだろうか。

「とりあえず、今日は一旦帰宅です。伊藤さんには詳細を送っておきますが、明日事務所で集合してから今後については話し合いましょう」

「分かりました」

 それから九条さんはそのまま私の住むアパートまで送ってくれた。調査中は泊まり込みばかりなので、一旦帰宅できるというのは珍しいこと。なんだか新鮮な気分で車を降りる。

「じゃあ九条さん、ありがとうございました。おやすみなさい」

「はいお疲れ様でした」

 彼はそう短く答えると、そのまま車を発進させていく。車が見えなくなるまでそれを見送ると、私はため息をついた。

 とりあえず進展のない恋心はいつものことだ、おいておこう。それより首なしの霊、か。とりあえずネットで最近バラバラ殺人でもなかったか調べてみようかな。ニュースは見てるから、そんな目立つ事件があれば記憶に残ってるはずなんだけど……。

 オートロックを解除し、そのまま自室へ上がっていく。とりあえずお風呂に入りたいな。それからゆっくりしようっと。

 家に帰り、お風呂に入ったりしたあとスマホで最近のニュースを検索してみた。けれども、やはり頭部切断された遺体の事件はここ最近ではなかった。遡っていくとそういった事件もあったが、さすがは日本の警察、犯人は逮捕されていた。

 私は記事を読みながら思う。もし自分だったら、こんな殺され方したら思い残したことなんてありすぎてなかなか成仏できないよなあ。

「これ……本当に調査進められるのかな……あまりにも無謀な気が……」

 どんどん不安が膨らんでいく。

 言葉がない者の気持ちを理解するのは、あまりに難しい。





 翌朝、早くから事務所に出勤すると、私よりも早く九条さんと伊藤さんが来ていたので驚いた。伊藤さんはともかく、九条さんも朝が早いなんて。でも思えばこの人はいつも調査中だけはシャキッとしているのだ。

「あ、おはよう光ちゃん」

「おはようございます、すみません私が一番ゆっくりしてて……」

「いいのいいの、昨日遅くまで働いてたんだから。詳細は九条さんから聞いたよ~」

 伊藤さんは定位置とも言えるパソコンの前に座っており、九条さんはソファに腰掛けていた。でも眠っているわけでもなく、彼も何やら考え込むように腕を組んでいた。

 私はカバンを慌てておくと、伊藤さんに近寄る。

「もう調べ始めてるんですか?」

「いや、もう少ししたら菊池さんに電話してみて、ここ最近の行動パターンの詳細を聞いてから調べるよ。とりあえず今はあそこの土地とか、菊池さんについて調べてただけ」

「何かありました?」

「菊池さんのアパートは特に変なことはないよ。今まで事件があったようなこともないし。まあ今現在どっかの部屋で死体が隠されていたらわからないけど」

 可愛い顔して何をサラリと恐ろしいことを。私は絶句した。

 いやでもそういうパターンもある……? 隣の部屋に遺体が隠してあったり、って、やめてほしい!

 私は腕をさすってげんなりした。

「まあ、それは最悪パターンね。
 あとは菊池さんについては、あの人って元々金持ちの坊ちゃんみたいだねえ。その割には普通のアパート住みなのが意外なくらい」

「へえ、そうなんです?」

「でも本人はちゃんと昼間お勤めしているし、身元もしっかりしてる人だよ」

 キーボードを叩きながら言う。私は昨日見かけた大福という犬を思い出す。

「まあ、飼ってた犬がまだそばにいてくれるぐらいなんですし、いい人なんでしょうねえ」

 あのもふもふしたビジュアルを思い出す。触れないのが残念なくらい、魅力的すぎる毛並みだった。




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