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オフィスに潜む狂気
最終報告
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「今回の解決は間違いなく二人の力のおかげです。どちらかが欠けていてもうまくいかなかったでしょう。それは感謝します。
でもいいですか。二度とこんな真似はしないでください。今回はうまくいったからいいものの、死者が出てもおかしくない方法です」
「「はい……」」
「言っておきますが霊は手に負えなければ違う者へ託してしまえばいいんです。あなた達がそこまで体を張る必要はありません。
光さん、入られてしまうのとわざと入らせるのではレベルが違います。あのままでは体を乗っ取られていましたよ」
「はい……」
「伊藤さん、確かに光さんも時々入られてしまうのは大変ですが、彼女は生まれつき持った力で無意識にコントロールできている。自力で戻れるんですから。視えないあなたとはまたわけが違うんですよ」
「はい……」
九条さんは腕を組んでビシッと私たちに言い放った。
「二人とも二度とこんな無理はしないように。あなた方の代わりはいません、いつでも自分の安全第一に考えてください」
キッパリとそう言い切った九条さんに、私たちは項垂れた。でもそれと同時に、少し笑ってしまうこともあった。
いつもは大体九条さんって私か伊藤さんに叱られてるのに、今日はまるで立場が逆なんて。でも、やっぱり私たちの身を案じて怒ってくれるその優しさは彼らしいと思ってしまった。
伊藤さんも同じような気持ちだったのか、ばちっと目が合った時、どちらからでもなくお互い微笑んだ。
とりあえずは無事解決できた、ということ。
あとでちゃんと伊藤さんにお礼言わなきゃ。彼の存在がなかったら本当に大変なことになっていただろう。……反省。私にはやっぱり難しすぎたんだな。
「……とにかく、今は休みましょう。調査報告はそれからです。二人とも体に力が入らないようですから」
「あ! あの、九条さん、一点だけいいですか」
私は慌てて彼に声をかけた。
「のぞみさんに入られた時……生前の彼女の様子がわかったんです。というかまさに体験したというか」
「生前の様子、ですか?」
二人が少し首を傾げる。私は俯いて床を見ながら言った。
そう、完全にシンクロしながら見させられた。のぞみさんの本当の気持ち。
「……彼女は自殺なんてするはずじゃなかったんです。ここの仕事でひどく病んで疲れてたけど、拓郎さんのおかげで前に進もうとしていた」
「自殺するはずじゃなかった?」
「それを……電車を待っている時、長谷川さんから電話があったんです」
自分の腕を強く握った。苦しみと怒りで、その力をどこへぶつけていいか分からなかったのだ。
ふつふつと湧き上がってくる感情が、抑えきれない。
「電話で罵倒したんです、のぞみさんを。のぞみさんは長谷川さんという人物にひどく恐怖心を持っていて、だから電話越しにでも酷いことを言われて心が乱れてしまった。どこに行ってもうまくいきっこないとか、母親がいないならしょうがないとか、そんなことを言われて……。
そんな時ちょうど電車がきた。そして……たぶん、その駅にいた霊達に引き込まれてしまったんです。飛び降りるつもりなんてなかったのに、ほんの一瞬の心の隙をつかれてしまった……!」
悔しさからせっかく乾いた涙が再び溢れてくる。
あの時、電話が来なければ。きっとのぞみさんは飛び込むなんてしなかったはず。新しい人生を歩んで、拓郎さんと二人楽しく生きていったはずなのだ。
たった一本の電話が全てを狂わせた。長谷川さんにそんなつもりはなくとも、彼女の罪は重い。
退職する前も、あんなに体に不調が出るほど毎日毎日のぞみさんを追い詰めたのも彼女だ。正直なところ恨まれても仕方がないとすら思った。
「そうだったんですか……その恨みだけが残って、のぞみさんは長谷川さんに攻撃しようとしていた……」
九条さんが呟いた。伊藤さんは苦しそうな顔で視線を落とす。重苦しい沈黙が流れた。のぞみさんが誰かに攻撃することなく安らかに眠れたのはよかったが、亡くなった原因があまりに辛い。
しばらくしたあと、九条さんが言った。
「最終報告する相手が、花田さんではなくなりましたね」
その表情は、さっきよりさらに怒りに満ちていた。
でもいいですか。二度とこんな真似はしないでください。今回はうまくいったからいいものの、死者が出てもおかしくない方法です」
「「はい……」」
「言っておきますが霊は手に負えなければ違う者へ託してしまえばいいんです。あなた達がそこまで体を張る必要はありません。
光さん、入られてしまうのとわざと入らせるのではレベルが違います。あのままでは体を乗っ取られていましたよ」
「はい……」
「伊藤さん、確かに光さんも時々入られてしまうのは大変ですが、彼女は生まれつき持った力で無意識にコントロールできている。自力で戻れるんですから。視えないあなたとはまたわけが違うんですよ」
「はい……」
九条さんは腕を組んでビシッと私たちに言い放った。
「二人とも二度とこんな無理はしないように。あなた方の代わりはいません、いつでも自分の安全第一に考えてください」
キッパリとそう言い切った九条さんに、私たちは項垂れた。でもそれと同時に、少し笑ってしまうこともあった。
いつもは大体九条さんって私か伊藤さんに叱られてるのに、今日はまるで立場が逆なんて。でも、やっぱり私たちの身を案じて怒ってくれるその優しさは彼らしいと思ってしまった。
伊藤さんも同じような気持ちだったのか、ばちっと目が合った時、どちらからでもなくお互い微笑んだ。
とりあえずは無事解決できた、ということ。
あとでちゃんと伊藤さんにお礼言わなきゃ。彼の存在がなかったら本当に大変なことになっていただろう。……反省。私にはやっぱり難しすぎたんだな。
「……とにかく、今は休みましょう。調査報告はそれからです。二人とも体に力が入らないようですから」
「あ! あの、九条さん、一点だけいいですか」
私は慌てて彼に声をかけた。
「のぞみさんに入られた時……生前の彼女の様子がわかったんです。というかまさに体験したというか」
「生前の様子、ですか?」
二人が少し首を傾げる。私は俯いて床を見ながら言った。
そう、完全にシンクロしながら見させられた。のぞみさんの本当の気持ち。
「……彼女は自殺なんてするはずじゃなかったんです。ここの仕事でひどく病んで疲れてたけど、拓郎さんのおかげで前に進もうとしていた」
「自殺するはずじゃなかった?」
「それを……電車を待っている時、長谷川さんから電話があったんです」
自分の腕を強く握った。苦しみと怒りで、その力をどこへぶつけていいか分からなかったのだ。
ふつふつと湧き上がってくる感情が、抑えきれない。
「電話で罵倒したんです、のぞみさんを。のぞみさんは長谷川さんという人物にひどく恐怖心を持っていて、だから電話越しにでも酷いことを言われて心が乱れてしまった。どこに行ってもうまくいきっこないとか、母親がいないならしょうがないとか、そんなことを言われて……。
そんな時ちょうど電車がきた。そして……たぶん、その駅にいた霊達に引き込まれてしまったんです。飛び降りるつもりなんてなかったのに、ほんの一瞬の心の隙をつかれてしまった……!」
悔しさからせっかく乾いた涙が再び溢れてくる。
あの時、電話が来なければ。きっとのぞみさんは飛び込むなんてしなかったはず。新しい人生を歩んで、拓郎さんと二人楽しく生きていったはずなのだ。
たった一本の電話が全てを狂わせた。長谷川さんにそんなつもりはなくとも、彼女の罪は重い。
退職する前も、あんなに体に不調が出るほど毎日毎日のぞみさんを追い詰めたのも彼女だ。正直なところ恨まれても仕方がないとすら思った。
「そうだったんですか……その恨みだけが残って、のぞみさんは長谷川さんに攻撃しようとしていた……」
九条さんが呟いた。伊藤さんは苦しそうな顔で視線を落とす。重苦しい沈黙が流れた。のぞみさんが誰かに攻撃することなく安らかに眠れたのはよかったが、亡くなった原因があまりに辛い。
しばらくしたあと、九条さんが言った。
「最終報告する相手が、花田さんではなくなりましたね」
その表情は、さっきよりさらに怒りに満ちていた。
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