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真夜中に来る女
思わぬお誘い
しおりを挟むその後来た警察にことのあらましを伝え、翌朝早朝から京也さんの捜索が開始された。
とても広い樹海だったが、意外にも彼はすぐに発見された。さほど遠くには行っておらず、一人しゃがみ込んで震えていたところを発見された。
だが、あの女の力か、それとも真っ暗な樹海で一晩過ごした恐怖からなのか。
京也さんは正気を失っていた。
すぐに精神病院へ搬送されるも、会話すらままならない状態で入院する運びとなったという。
「とんっでもなく胸糞悪い終わりだったわ。まあ私が手がける事件はどれも気持ちよく終われないんだけど、今回は群を抜いてヤバイ」
不愉快そうに麗華さんが言った。
あれから八重さんたちを家まで送り、泊まっていっていいというまさこさんの誘いを断った私たちは夜中に事務所へと帰ってきていた。無論自宅に帰る元気なんかなく、九条さんと麗華さんはソファへダイブ、そして私はいつもの仮眠室で死んだように眠っていた。
朝になって伊藤さんが出勤してきた後も起きることなく、午後十五時にもなってやっと起き出したのだ。私と麗華さんは。九条さんはまだ夢の中。
起きてすぐに伊藤さんが気を使って淹れてくれたコーヒーを飲みながら麗華さんは散々悪態をつき、伊藤さんにことの始終を説明していた。
癒しオーラを身に纏いながら伊藤さんも麗華さんの言葉を聞いて苦々しい顔になる。
「それはなんと言いますか……さすがに不憫ですねえ八重さん……いやあ、確かに京也さんって人すごい愛情でしたけど。そこまで歪んでるとは思いませんでしたよ」
「あれっだけ八重さんに執着しておきながら女の姿みて逃げ出したからね。お前が生み出したんだっつーの。無意識に才能あるって嫌ね。私そこそこ長くこの業界にいるけど、胎児を呪った事例なんて初めて聞いたわ」
「え、そうなんです?」
「聞かないわよそんな特殊な話。最初はそんなこと可能なのかと疑ったわ。まあ、あの女の攻撃受けてたら結局八重さんも葬られてたでしょうけどね」
「無事だったのはほんとよかったですね……朝比奈さんが言うくらい強い女みたいだったし」
「あの男が釘打ち付けてたのは、女性が首吊って亡くなってた木なの。そのほかにも樹海には死者の気がたくさんあったし、自分で用意した小動物たちの死骸もあるでしょ。いろーんなものをこねくり回して完成されたのがあのワンピの女。顔がたくさんあったのも納得。
京也って男、潜在的に呪詛の才能が凄まじかったんだわ。自分の代わりに手を下すやつをああも簡単に生み出したんだから」
はあとため息をついて麗華さんがコーヒーを啜る。伊藤さんも気分悪そうに口を歪めた。私も無言でコーヒーを飲む。
これから八重さんとお腹の子がどう生きていくのか。調査が終了したのでそれを知る術は残っていないが、どうしても気になって仕方がない。
男を見る目がなかった、なんて安易な言葉で片付けたくない案件だ。
場の雰囲気を変えるように、伊藤さんが私の方を向いて言った。
「でも、光ちゃんよく気づいたね、八重さんの妊娠!」
「え、ああ……なんとなくふっと浮かんだだけです」
「いやいや、そういう洞察力大事だよーね、朝比奈さん!」
ニコニコと呼びかけられ、麗華さんがすっと目を細めて私を見た。どきりと心臓が鳴る。麗華さんと少し気まずくなってから、まだなんとなくそれが続いているのだ。
だが彼女はすっとソファからた立ち上がった。
「ねえ、ちょっと銭湯付き合ってくんない。このまま家帰るの気持ち悪いし」
「……え、私ですか!!?」
「伊藤さんに付き合ってもらうわけないでしょ。樹海に行ったまま汚れが気になんのよ。近くにあったじゃない、行くわよ」
まさかの誘いに慌てて立ち上がる。いや、銭湯? あそこの銭湯はもはや常連になってるけど。でも誰かと一緒にお風呂に入るだなんて。修学旅行以来だろうか?
仮眠室から急いで着替えなどを持ってくると、伊藤さんがやけに嬉しそうに笑って私を見ていた。私たちの気まずい雰囲気を感じ取っていたのかもしれない。
「光ちゃん行ってらっしゃい!」
「す、すみません、では……」
ペコペコと頭を下げながら麗華さんの背中についていく。隣に並んで見たものの、何を話していいのかもよくわからず無言で歩いた。
エレベーターのボタンを押し、到着を待つ。
「あ、の……麗華さん、すごかったですね色々。最後の女の消滅も、私こう、お経唱えるとか想像してたんですけど。いろんなやり方あるんですね」
「ああ、言ったけど私のは自己流だからね。人それぞれ向き不向きがあるわけ。お経唱えるのが向いてる人もいればお札使う人もいる。それぞれよ」
「へえ……」
「あー気持ち悪い。あの樹海首吊りいっぱいいたじゃない? 見るだけで嫌よあんなの」
「え!? わた、私気付きませんでした!」
「あらそうなの? まあああいうのも相性だからね。私は厄介なやつらほど見えやすいのよ」
そういえば京也さんが使っていた木も、元々首吊りに使われたって言ってたっけ……まさか見えてたのかな。
今までいろんなものが見えてしまう自分を不幸に思っていたが、上には上がいるのだと痛感させられた。その横顔をぼんやり眺める。
ここまで強いのも大変なんだろうなあ……。
「あ、来たわ。はい乗った乗った」
「す、すみません!」
ちょうど開かれたエレベーターの扉に吸い込まれるように、私は箱の中に入っていった。
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