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真夜中に来る女
夜中のドライブ
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「何と言いました?」
私の言葉をきいて、九条さんがやけに驚いた声で聞き返した。
振り返ってみると、目を丸くして私を見下ろしている九条さんがいる。
「あ、いえ、ふと思っただけで……」
「なぜそう思ったのです」
やけに切羽詰まったように聞かれて面くらいながらも答えてみる。それを聞いた途端、彼は返事をすることもなくくるりと私に背を向け、足早にリビングへと向かっていった。私は慌てて立ち上がり、その白い背中を追う。
九条さんに続いてリビングに飛び込んだとき、八重さんがキョトンとして座ったまま九条さんを見ていた。
「え……と、どこでそれを? あの、話す必要はないかと思ってたんですが……」
本人に直接聞いたのだ、と思った。するとソファに座っていた麗香さんまでもが、血相を変えてこちらに歩み寄ってきた。
「ちょっと待って。ナオ、まさか」
「謎が解けました。光さんが気づいたので」
鋭い眼光で九条さんが言う。イマイチ流れについて行けていない私は、それでも追求する余裕などない空気感だった。ただ呆然と九条さんと麗香さんを交互に見る。
二人は唖然とした様子で見つめあっていた。
黙っていたまさこさんが恐る恐る声を上げる。
「あの、何か……? 娘の呪詛と関係が?」
九条さんが口をつぐんだ。しかしすぐに凛とした表情で言い放った。
「もしかすると、八重さんにとって辛い結果になるかもしれません」
夜も更けた頃。九条さんの車に二人で乗り込んでいた。
辺りは陽が落ちてどっぷりと暗くなっている。田んぼばかりの田舎道は街灯も少なく、車内ランプとヘッドライトが唯一の灯りとなっていた。
エンジンを掛けた状態で、まだ車を発進させていない彼に、私はため息をついて尋ねる。
「本当なんですか、さっき話してもらったこと……」
「確定はしていません。ですがその可能性は非常に高いと思っています」
これまで彼が考え抜いた結論で間違いだったことはない。それを知っている私は絶望をおぼえた。
だって、あんまりだ。八重さんがあんまりにもかわいそうすぎる。
「でも確定はしてないので八重さん本人にはまだ告げないでおきます。今からはその犯人と思しき相手の行動を追います。呪詛を掛けている現場を見つけられれば逃れられない証拠ですから」
「え、家の中でかけてたらどうするんですか?」
「今回の場合、おそらくですが家の中ではないと思っています。私は気づかなかったけれど光さんと麗香が感じ取っていた匂いのおかげで」
彼は手に持った携帯を真剣な眼差しで見つめていた。液晶の明かりが九条さんの白い顔を映し出す。私がさらに質問をぶつけようとした時、持っていた携帯をずいっと見せつけられた。眩しさに少し顔をしかめつつも見てみると、地図が映っている。
地図の上には赤い点がゆっくり移動していた。
「なんですかこれは?」
「動き出しました。伊藤さんに言って向こうの車に発信機をつけてもらったので。これを追います」
発信機だと……? 純真無垢な顔をしている伊藤さんの笑顔が蘇る。そんなことも成し遂げるのね伊藤さん……そりゃ今回は『僕も本気出す』って言ってたけどさ……。
衝撃で固まっていると、家の中から麗香さんや八重さんたちが出てきたのに気がついた。呪詛の現場を見れるというなら麗香さんも行かないわけにはいかず、今現在女から守ってもらっている八重さんも必然的に移動することになる。
三人は車の戸を開けて乗り込む。暗い中でも、八重さんの表情が今までの中でも一番強張っているのに気がついた。まだ詳しい説明はしていないが、もしかしたら今から自分に呪詛を掛けている相手が判明するかもしれない。彼女の反応は最もだった。
「全員乗り込みましたね。動きますよ」
九条さんは安全運転で発車させた。車内の沈黙が耳に痛い。エンジン音だけが響いている。
私の言葉をきいて、九条さんがやけに驚いた声で聞き返した。
振り返ってみると、目を丸くして私を見下ろしている九条さんがいる。
「あ、いえ、ふと思っただけで……」
「なぜそう思ったのです」
やけに切羽詰まったように聞かれて面くらいながらも答えてみる。それを聞いた途端、彼は返事をすることもなくくるりと私に背を向け、足早にリビングへと向かっていった。私は慌てて立ち上がり、その白い背中を追う。
九条さんに続いてリビングに飛び込んだとき、八重さんがキョトンとして座ったまま九条さんを見ていた。
「え……と、どこでそれを? あの、話す必要はないかと思ってたんですが……」
本人に直接聞いたのだ、と思った。するとソファに座っていた麗香さんまでもが、血相を変えてこちらに歩み寄ってきた。
「ちょっと待って。ナオ、まさか」
「謎が解けました。光さんが気づいたので」
鋭い眼光で九条さんが言う。イマイチ流れについて行けていない私は、それでも追求する余裕などない空気感だった。ただ呆然と九条さんと麗香さんを交互に見る。
二人は唖然とした様子で見つめあっていた。
黙っていたまさこさんが恐る恐る声を上げる。
「あの、何か……? 娘の呪詛と関係が?」
九条さんが口をつぐんだ。しかしすぐに凛とした表情で言い放った。
「もしかすると、八重さんにとって辛い結果になるかもしれません」
夜も更けた頃。九条さんの車に二人で乗り込んでいた。
辺りは陽が落ちてどっぷりと暗くなっている。田んぼばかりの田舎道は街灯も少なく、車内ランプとヘッドライトが唯一の灯りとなっていた。
エンジンを掛けた状態で、まだ車を発進させていない彼に、私はため息をついて尋ねる。
「本当なんですか、さっき話してもらったこと……」
「確定はしていません。ですがその可能性は非常に高いと思っています」
これまで彼が考え抜いた結論で間違いだったことはない。それを知っている私は絶望をおぼえた。
だって、あんまりだ。八重さんがあんまりにもかわいそうすぎる。
「でも確定はしてないので八重さん本人にはまだ告げないでおきます。今からはその犯人と思しき相手の行動を追います。呪詛を掛けている現場を見つけられれば逃れられない証拠ですから」
「え、家の中でかけてたらどうするんですか?」
「今回の場合、おそらくですが家の中ではないと思っています。私は気づかなかったけれど光さんと麗香が感じ取っていた匂いのおかげで」
彼は手に持った携帯を真剣な眼差しで見つめていた。液晶の明かりが九条さんの白い顔を映し出す。私がさらに質問をぶつけようとした時、持っていた携帯をずいっと見せつけられた。眩しさに少し顔をしかめつつも見てみると、地図が映っている。
地図の上には赤い点がゆっくり移動していた。
「なんですかこれは?」
「動き出しました。伊藤さんに言って向こうの車に発信機をつけてもらったので。これを追います」
発信機だと……? 純真無垢な顔をしている伊藤さんの笑顔が蘇る。そんなことも成し遂げるのね伊藤さん……そりゃ今回は『僕も本気出す』って言ってたけどさ……。
衝撃で固まっていると、家の中から麗香さんや八重さんたちが出てきたのに気がついた。呪詛の現場を見れるというなら麗香さんも行かないわけにはいかず、今現在女から守ってもらっている八重さんも必然的に移動することになる。
三人は車の戸を開けて乗り込む。暗い中でも、八重さんの表情が今までの中でも一番強張っているのに気がついた。まだ詳しい説明はしていないが、もしかしたら今から自分に呪詛を掛けている相手が判明するかもしれない。彼女の反応は最もだった。
「全員乗り込みましたね。動きますよ」
九条さんは安全運転で発車させた。車内の沈黙が耳に痛い。エンジン音だけが響いている。
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