101 / 449
真夜中に来る女
女の正体は
しおりを挟む
しばらく経つと、電気もつけないまま麗香さんがくるりとこちらを向いた。そして無言で私たちに手招きして廊下を歩く。居間に集まれということらしい。
電気はつけっぱなしになっていた居間の近くには大川さん母娘がもはや涙で顔をぐっしょりと濡らして立っていた。これまで女に認知されていなかった存在がバレてしまった恐怖心は、私には計り知れない。
私はお二人を無言で促し居間へ入った。眩しさに目を細める。
麗香さんは一足先に部屋に入っていた。あんな光景を見た後で冷静にいられるだなんてさすがだなと感心したが、よくみれば彼女の着ている黒いTシャツは汗で首元が濡れていた。眉をひそめて険しい表情をしている。
最後に部屋に入った九条さんが居間の戸を閉めた。大川さんたちは力なくソファに腰掛ける。
「さすがナオが持ってきた案件ね、嫌な奴だわ」
麗香さんは髪をかき上げた。まさこさんが顔を赤くして麗香さんに言う。
「ど、どうして女は今日普段と違ったんですか……!」
「私が家にある女の気を祓ったからですよ。懸命に守ってくれてた家もあと少しで限界だったから、祓ってなかったら多分今日、あの女家に入って来れちゃったはず。後少しで入れると思ってたのにまた固く閉じられちゃったから怒ってたのよ」
大川さんたちは顔を真っ青にして固まった。九条さんが麗香さんに言った。
「それで、何か分かりましたか」
麗香さんは腕を組んでじっと考える。しばしそのままでいたあと、ポツリと言った。
「呪詛の匂いがする」
経験値の低い私ですら、その単語はさすがに知っていた。驚いて尋ねる。
「呪詛、って……いわゆる、呪いってことですか!?」
「そう。確実に狙ってきてる」
「お二人を??」
「いいえ。八重さん、あなたを」
みんなの視線が八重さんに集まった。彼女は目をまん丸にして停止している。まさこさんは隣で信じられない、という顔で娘を見た。
「わた、し……?」
「あの女の気がね、あなたを覆っているのよね。ちょっと失礼」
麗香さんはポケットから例のおしゃれな小瓶を取り出して八重さんに向かって吹きかける。そして軽く肩をパンパン、と叩いてみせた。
「これでとりあえずよしっと」
「私、そんな、呪われるような記憶ないんです……! 本当に、そんなに誰かに恨まれているなんて……」
混乱したように言う八重さんに、九条さんが冷静に声をかけた。
「八重さん、落ち着いてください。呪詛なんて方法を用いる相手は普通の人間じゃないのですから。あなたに非がなくても何か逆恨みをしてるだけかもしれません」
「……そん、な」
「それで、麗香。プロの仕業ではないですね?」
「もちろん。プロ相手じゃないのは確か」
二人が頷きながら言ったのを、恐る恐る割って入る。
「あの、プロとは?」
九条さんんがこちらを見て説明した。
「信じられないかもしれませんが、この時代にも人を呪うことによって金儲けをするプロは存在するのですよ。昔に比べてぐっと減りましたが」
「ま、まさか……!」
「ですが。現代では命を狙うことは稀です。少し不運を与えるとか、怪我をさせるくらいの結果がほとんどです。相手はプロなので、そこのところもちゃんと力を加減して呪いますから」
まさに本の中の話のようだった。私はまだまだ勉強不足だ、と反省する。そんなことも現代でまだ存在していたんだ……。
麗香さんが引き継いで説明を続ける。
「でも今回の場合はプロがやってきたことじゃないってこと。女は完全に命狙ってきてるし、玄関から入れなかったりと力が全然コントロールできてないでしょ。
でも最も厄介。これは随分と、才能のある素人が送ってきた呪詛だからよ」
「才能がある素人……?」
麗香さんは嫌そうに顔を歪める。
「一番厄介なのよね、力の制御の仕方もしらない。潜在的に持っている自分の力にも気づかず無茶苦茶にやってくる。どんなやつだか知らないけど近づきたくないわ」
「それで! 娘は……八重は大丈夫なんですか? 助かるんでしょうか!」
まさこさんが切羽詰まったように叫んだ。隣で八重さんは放心状態のまま座っている。不憫に思いながらも、今掛ける言葉は何も浮かんでこなかった。
九条さんが言う。
「安心してください。呪詛は対処することができます」
はっと二人の顔が少しだけ明るくなる。
麗香さんが二本指を立てて言った。
「私は何度か対処してきたし大丈夫よ。呪詛の対処は大きく分けて二つ。
まず一。呪詛返し」
綺麗にネイルがされた人差し指にみんなが注目した。
電気はつけっぱなしになっていた居間の近くには大川さん母娘がもはや涙で顔をぐっしょりと濡らして立っていた。これまで女に認知されていなかった存在がバレてしまった恐怖心は、私には計り知れない。
私はお二人を無言で促し居間へ入った。眩しさに目を細める。
麗香さんは一足先に部屋に入っていた。あんな光景を見た後で冷静にいられるだなんてさすがだなと感心したが、よくみれば彼女の着ている黒いTシャツは汗で首元が濡れていた。眉をひそめて険しい表情をしている。
最後に部屋に入った九条さんが居間の戸を閉めた。大川さんたちは力なくソファに腰掛ける。
「さすがナオが持ってきた案件ね、嫌な奴だわ」
麗香さんは髪をかき上げた。まさこさんが顔を赤くして麗香さんに言う。
「ど、どうして女は今日普段と違ったんですか……!」
「私が家にある女の気を祓ったからですよ。懸命に守ってくれてた家もあと少しで限界だったから、祓ってなかったら多分今日、あの女家に入って来れちゃったはず。後少しで入れると思ってたのにまた固く閉じられちゃったから怒ってたのよ」
大川さんたちは顔を真っ青にして固まった。九条さんが麗香さんに言った。
「それで、何か分かりましたか」
麗香さんは腕を組んでじっと考える。しばしそのままでいたあと、ポツリと言った。
「呪詛の匂いがする」
経験値の低い私ですら、その単語はさすがに知っていた。驚いて尋ねる。
「呪詛、って……いわゆる、呪いってことですか!?」
「そう。確実に狙ってきてる」
「お二人を??」
「いいえ。八重さん、あなたを」
みんなの視線が八重さんに集まった。彼女は目をまん丸にして停止している。まさこさんは隣で信じられない、という顔で娘を見た。
「わた、し……?」
「あの女の気がね、あなたを覆っているのよね。ちょっと失礼」
麗香さんはポケットから例のおしゃれな小瓶を取り出して八重さんに向かって吹きかける。そして軽く肩をパンパン、と叩いてみせた。
「これでとりあえずよしっと」
「私、そんな、呪われるような記憶ないんです……! 本当に、そんなに誰かに恨まれているなんて……」
混乱したように言う八重さんに、九条さんが冷静に声をかけた。
「八重さん、落ち着いてください。呪詛なんて方法を用いる相手は普通の人間じゃないのですから。あなたに非がなくても何か逆恨みをしてるだけかもしれません」
「……そん、な」
「それで、麗香。プロの仕業ではないですね?」
「もちろん。プロ相手じゃないのは確か」
二人が頷きながら言ったのを、恐る恐る割って入る。
「あの、プロとは?」
九条さんんがこちらを見て説明した。
「信じられないかもしれませんが、この時代にも人を呪うことによって金儲けをするプロは存在するのですよ。昔に比べてぐっと減りましたが」
「ま、まさか……!」
「ですが。現代では命を狙うことは稀です。少し不運を与えるとか、怪我をさせるくらいの結果がほとんどです。相手はプロなので、そこのところもちゃんと力を加減して呪いますから」
まさに本の中の話のようだった。私はまだまだ勉強不足だ、と反省する。そんなことも現代でまだ存在していたんだ……。
麗香さんが引き継いで説明を続ける。
「でも今回の場合はプロがやってきたことじゃないってこと。女は完全に命狙ってきてるし、玄関から入れなかったりと力が全然コントロールできてないでしょ。
でも最も厄介。これは随分と、才能のある素人が送ってきた呪詛だからよ」
「才能がある素人……?」
麗香さんは嫌そうに顔を歪める。
「一番厄介なのよね、力の制御の仕方もしらない。潜在的に持っている自分の力にも気づかず無茶苦茶にやってくる。どんなやつだか知らないけど近づきたくないわ」
「それで! 娘は……八重は大丈夫なんですか? 助かるんでしょうか!」
まさこさんが切羽詰まったように叫んだ。隣で八重さんは放心状態のまま座っている。不憫に思いながらも、今掛ける言葉は何も浮かんでこなかった。
九条さんが言う。
「安心してください。呪詛は対処することができます」
はっと二人の顔が少しだけ明るくなる。
麗香さんが二本指を立てて言った。
「私は何度か対処してきたし大丈夫よ。呪詛の対処は大きく分けて二つ。
まず一。呪詛返し」
綺麗にネイルがされた人差し指にみんなが注目した。
28
お気に入りに追加
533
あなたにおすすめの小説
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
みえる彼らと浄化係
橘しづき
ホラー
井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。
そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。
驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。
そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
適者生存 ~ゾンビ蔓延る世界で~
7 HIRO 7
ホラー
ゾンビ病の蔓延により生きる屍が溢れ返った街で、必死に生き抜く主人公たち。同じ環境下にある者達と、時には対立し、時には手を取り合って生存への道を模索していく。極限状態の中、果たして主人公は この世界で生きるに相応しい〝適者〟となれるのだろうか――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。