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真夜中に来る女

女の正体は

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 しばらく経つと、電気もつけないまま麗香さんがくるりとこちらを向いた。そして無言で私たちに手招きして廊下を歩く。居間に集まれということらしい。

 電気はつけっぱなしになっていた居間の近くには大川さん母娘がもはや涙で顔をぐっしょりと濡らして立っていた。これまで女に認知されていなかった存在がバレてしまった恐怖心は、私には計り知れない。

 私はお二人を無言で促し居間へ入った。眩しさに目を細める。

 麗香さんは一足先に部屋に入っていた。あんな光景を見た後で冷静にいられるだなんてさすがだなと感心したが、よくみれば彼女の着ている黒いTシャツは汗で首元が濡れていた。眉をひそめて険しい表情をしている。

 最後に部屋に入った九条さんが居間の戸を閉めた。大川さんたちは力なくソファに腰掛ける。

「さすがナオが持ってきた案件ね、嫌な奴だわ」

 麗香さんは髪をかき上げた。まさこさんが顔を赤くして麗香さんに言う。

「ど、どうして女は今日普段と違ったんですか……!」

「私が家にある女の気を祓ったからですよ。懸命に守ってくれてた家もあと少しで限界だったから、祓ってなかったら多分今日、あの女家に入って来れちゃったはず。後少しで入れると思ってたのにまた固く閉じられちゃったから怒ってたのよ」

 大川さんたちは顔を真っ青にして固まった。九条さんが麗香さんに言った。

「それで、何か分かりましたか」

 麗香さんは腕を組んでじっと考える。しばしそのままでいたあと、ポツリと言った。

「呪詛の匂いがする」

 経験値の低い私ですら、その単語はさすがに知っていた。驚いて尋ねる。

「呪詛、って……いわゆる、呪いってことですか!?」

「そう。確実に狙ってきてる」

「お二人を??」

「いいえ。八重さん、あなたを」

 みんなの視線が八重さんに集まった。彼女は目をまん丸にして停止している。まさこさんは隣で信じられない、という顔で娘を見た。

「わた、し……?」

「あの女の気がね、あなたを覆っているのよね。ちょっと失礼」

 麗香さんはポケットから例のおしゃれな小瓶を取り出して八重さんに向かって吹きかける。そして軽く肩をパンパン、と叩いてみせた。

「これでとりあえずよしっと」

「私、そんな、呪われるような記憶ないんです……! 本当に、そんなに誰かに恨まれているなんて……」

 混乱したように言う八重さんに、九条さんが冷静に声をかけた。

「八重さん、落ち着いてください。呪詛なんて方法を用いる相手は普通の人間じゃないのですから。あなたに非がなくても何か逆恨みをしてるだけかもしれません」

「……そん、な」

「それで、麗香。プロの仕業ではないですね?」

「もちろん。プロ相手じゃないのは確か」

 二人が頷きながら言ったのを、恐る恐る割って入る。

「あの、プロとは?」

 九条さんんがこちらを見て説明した。

「信じられないかもしれませんが、この時代にも人を呪うことによって金儲けをするプロは存在するのですよ。昔に比べてぐっと減りましたが」

「ま、まさか……!」

「ですが。現代では命を狙うことは稀です。少し不運を与えるとか、怪我をさせるくらいの結果がほとんどです。相手はプロなので、そこのところもちゃんと力を加減して呪いますから」

 まさに本の中の話のようだった。私はまだまだ勉強不足だ、と反省する。そんなことも現代でまだ存在していたんだ……。

 麗香さんが引き継いで説明を続ける。

「でも今回の場合はプロがやってきたことじゃないってこと。女は完全に命狙ってきてるし、玄関から入れなかったりと力が全然コントロールできてないでしょ。
 でも最も厄介。これは随分と、才能のある素人が送ってきた呪詛だからよ」

「才能がある素人……?」

 麗香さんは嫌そうに顔を歪める。

「一番厄介なのよね、力の制御の仕方もしらない。潜在的に持っている自分の力にも気づかず無茶苦茶にやってくる。どんなやつだか知らないけど近づきたくないわ」

「それで! 娘は……八重は大丈夫なんですか? 助かるんでしょうか!」

 まさこさんが切羽詰まったように叫んだ。隣で八重さんは放心状態のまま座っている。不憫に思いながらも、今掛ける言葉は何も浮かんでこなかった。

 九条さんが言う。

「安心してください。呪詛は対処することができます」

 はっと二人の顔が少しだけ明るくなる。

 麗香さんが二本指を立てて言った。

「私は何度か対処してきたし大丈夫よ。呪詛の対処は大きく分けて二つ。
 まず一。呪詛返し」

 綺麗にネイルがされた人差し指にみんなが注目した。

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