99 / 449
真夜中に来る女
自分にできることをやるしかない
しおりを挟む
布団のひんやりした感覚に包まれる。仮眠とは言っても、事務所でも寝る事はできたのであまり眠気はないのだが……。
「黒島さん入ってどれくらい?」
「え! えっと、一ヶ月ちょっと……ですかね」
「そうなの、そりゃまだ慣れないわね」
「麗香さんはその、いつから祓えるように?」
「んー高校生の頃から商売にしだしたかしら。それまではみるばかりだったけど、やってみたら祓えちゃったから」
考えるようにして答える彼女の横顔を驚いて見る。
「え、やってみたら出来ちゃったって。こう、修行とかしてないんですか?」
「完全に自己流よ。あ、でも途中少し他の先輩について現場はみたけど。祓うって人それぞれやり方あって面白いのよね」
ほうっとため息を漏らした。才能、というやつか。そういえばいつだったか九条さんも、祓うのはまた違った才能だって言ってたっけ。
視るだけじゃなくて祓えたらなあ。私の人生ももう少し違っただろうか。
「成人する頃にはもうそこそこ依頼をもらうようになってたわね。しばらくしたらあの事務所立ち上げてすぐの頃のナオと出会って」
突然出てきた名前にぐっと息をのんだ。隣の麗香さんはうつ伏せになって何やら携帯電話を見ている。私のこのコミュニケーション能力で、世間話として続けていけるだろうか。
「あ、古くからのお知り合い……なんですね」
「あいつは昔から何も変わらないけどね! いい意味でも悪い意味でも。ポッキー何年かじってんのよ、ポッキーの売り上げ貢献しすぎ」
「はは、ちょっと変わった人、ですよねえ。えっと、付き合ってたんでした、っけ」
やっぱり自分はあまり世間話とかが得意ではないことを今更痛感した。言い終えてから後悔する。もう少し自然とスムーズに聞けないものか。
それでも麗香さんは特に気にしてなさそうに答えた。
「そうねー。そんな時期もあったねー」
「……あ、どうして別れちゃったんですか……」
「んーナオっていい人だけどやっぱり変わってるから。恋人には向かないのよね。別れる時散々嫌だって言われたんだけど」
これが臥床した状態でなければ私は倒れ込んでいたかもしれない。それくらいの衝撃で、目の前が真っ白になった。
つまりは麗香さんが振ったんだ。それで、九条さんが別れたくないって言ったんだ。あの九条さんがそんなことを言っている姿なんて想像つかない。
ああでも、そんなに好きだったんだ、麗香さんのこと……。
急に泣き出しそうになってしまったのを隠すように枕に顔を埋めた。
ダメだ、マイナスな思考ばかりになっている。
もういい大人の九条さんに色んな過去があるのは当然のことで、外見は文句の付けようがない彼が美人と付き合っていたのはむしろ納得の出来事じゃないか。誰がどう見ても二人はお似合いだ。
だからってここで拗ねてどうする。今も信頼関係は厚いようだけど、それでも復縁とかしそうではない。悩んでいてもしょうがない。今私に出来ることは、早く一人前になって九条さんの役に立てるようになることだ。
そう、まずはそこから。九条さんに信頼してもらえるようになって、初めてスタートラインに立てるんだから。
溢れそうになった涙をぐっと堪えて顔を上げた。よしっと気合いを入れる。
未だ携帯で遊んでいる麗香さんに尋ねた。
「あの、最初にあったあの匂いって?」
「ああ、あれ? んーうまく言えないけど、その女の残り香みたいな感じ? 私はこう言う場面、鼻で感じ取ることが多いの。ほら、ナオはシルエットで見えたりするし、その人それぞれだから。黒島さんも分かったのは私とちょっと似てる部分があるのかも」
「除霊ってどうやるんですか?」
「状況によるわ。雑魚ならさっきの塩水かけておしまいのことだってあるし。叩いたり自分の中に入れてみたりよ」
「じゃあ……」
「急に質問攻めね?」
麗香さんが携帯から目線を上げて笑う。綺麗な笑顔に見惚れてしまいそうになった。
「勉強させて頂きたくて。早く一人前になりたいんです!」
鼻息荒くしてそういうと、彼女は大きな声で笑った。再び持っている携帯をいじり出しながら言う。
「素直ね。いい心がけだわ。でも無理は禁物よ。現場は数をこなすのが一番。ナオが私に持ってきた案件なんだから相当やばいやつだろうし、とにかく心を落ち着けて行動することよ。焦りは相手にも伝わる」
「は、はい」
返事をした私を再び小さく笑うと、麗香さんはそれ以上何も言わずに布団を肩までかけて反対側を向いてしまった。栗毛色の髪をじっと見つめながら、私も掛け布団を深くかぶる。
焦りは禁物、か。留守番するはずだったのにここまで連れてきたもらったんだし、足手まといにだけはならないようにしないと。
心に強く誓い、私は天井を見つめた。
「黒島さん入ってどれくらい?」
「え! えっと、一ヶ月ちょっと……ですかね」
「そうなの、そりゃまだ慣れないわね」
「麗香さんはその、いつから祓えるように?」
「んー高校生の頃から商売にしだしたかしら。それまではみるばかりだったけど、やってみたら祓えちゃったから」
考えるようにして答える彼女の横顔を驚いて見る。
「え、やってみたら出来ちゃったって。こう、修行とかしてないんですか?」
「完全に自己流よ。あ、でも途中少し他の先輩について現場はみたけど。祓うって人それぞれやり方あって面白いのよね」
ほうっとため息を漏らした。才能、というやつか。そういえばいつだったか九条さんも、祓うのはまた違った才能だって言ってたっけ。
視るだけじゃなくて祓えたらなあ。私の人生ももう少し違っただろうか。
「成人する頃にはもうそこそこ依頼をもらうようになってたわね。しばらくしたらあの事務所立ち上げてすぐの頃のナオと出会って」
突然出てきた名前にぐっと息をのんだ。隣の麗香さんはうつ伏せになって何やら携帯電話を見ている。私のこのコミュニケーション能力で、世間話として続けていけるだろうか。
「あ、古くからのお知り合い……なんですね」
「あいつは昔から何も変わらないけどね! いい意味でも悪い意味でも。ポッキー何年かじってんのよ、ポッキーの売り上げ貢献しすぎ」
「はは、ちょっと変わった人、ですよねえ。えっと、付き合ってたんでした、っけ」
やっぱり自分はあまり世間話とかが得意ではないことを今更痛感した。言い終えてから後悔する。もう少し自然とスムーズに聞けないものか。
それでも麗香さんは特に気にしてなさそうに答えた。
「そうねー。そんな時期もあったねー」
「……あ、どうして別れちゃったんですか……」
「んーナオっていい人だけどやっぱり変わってるから。恋人には向かないのよね。別れる時散々嫌だって言われたんだけど」
これが臥床した状態でなければ私は倒れ込んでいたかもしれない。それくらいの衝撃で、目の前が真っ白になった。
つまりは麗香さんが振ったんだ。それで、九条さんが別れたくないって言ったんだ。あの九条さんがそんなことを言っている姿なんて想像つかない。
ああでも、そんなに好きだったんだ、麗香さんのこと……。
急に泣き出しそうになってしまったのを隠すように枕に顔を埋めた。
ダメだ、マイナスな思考ばかりになっている。
もういい大人の九条さんに色んな過去があるのは当然のことで、外見は文句の付けようがない彼が美人と付き合っていたのはむしろ納得の出来事じゃないか。誰がどう見ても二人はお似合いだ。
だからってここで拗ねてどうする。今も信頼関係は厚いようだけど、それでも復縁とかしそうではない。悩んでいてもしょうがない。今私に出来ることは、早く一人前になって九条さんの役に立てるようになることだ。
そう、まずはそこから。九条さんに信頼してもらえるようになって、初めてスタートラインに立てるんだから。
溢れそうになった涙をぐっと堪えて顔を上げた。よしっと気合いを入れる。
未だ携帯で遊んでいる麗香さんに尋ねた。
「あの、最初にあったあの匂いって?」
「ああ、あれ? んーうまく言えないけど、その女の残り香みたいな感じ? 私はこう言う場面、鼻で感じ取ることが多いの。ほら、ナオはシルエットで見えたりするし、その人それぞれだから。黒島さんも分かったのは私とちょっと似てる部分があるのかも」
「除霊ってどうやるんですか?」
「状況によるわ。雑魚ならさっきの塩水かけておしまいのことだってあるし。叩いたり自分の中に入れてみたりよ」
「じゃあ……」
「急に質問攻めね?」
麗香さんが携帯から目線を上げて笑う。綺麗な笑顔に見惚れてしまいそうになった。
「勉強させて頂きたくて。早く一人前になりたいんです!」
鼻息荒くしてそういうと、彼女は大きな声で笑った。再び持っている携帯をいじり出しながら言う。
「素直ね。いい心がけだわ。でも無理は禁物よ。現場は数をこなすのが一番。ナオが私に持ってきた案件なんだから相当やばいやつだろうし、とにかく心を落ち着けて行動することよ。焦りは相手にも伝わる」
「は、はい」
返事をした私を再び小さく笑うと、麗香さんはそれ以上何も言わずに布団を肩までかけて反対側を向いてしまった。栗毛色の髪をじっと見つめながら、私も掛け布団を深くかぶる。
焦りは禁物、か。留守番するはずだったのにここまで連れてきたもらったんだし、足手まといにだけはならないようにしないと。
心に強く誓い、私は天井を見つめた。
18
お気に入りに追加
531
あなたにおすすめの小説
みえる彼らと浄化係
橘しづき
ホラー
井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。
そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。
驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。
そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。