視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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目覚めない少女たち

癒しがきた

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 生徒たちが登校し、授業が始まる。

 私と九条さんは再び眠りの世界に入っていた。夜はまた遅くまで活動するのが目に見えているので、今のうちに体力を回復させておかねばならないとのことだ。

 寝ると言っても、柔らかなベッドで寝れるわけではないので疲労が取り切れる感じもない。ただ、時折聞こえるチャイムの音は懐かしさからか心を穏やかにさせた。私たちはただあたたかな日差しの中うとうとと眠っては起き、眠っては起きを繰り返していた。

 
 午後になり、私は明るいうちにシャワールームをお借りして体を綺麗にした。夜になっては絶対に入れないので今しかチャンスがないと思ったのだ。

 残念ながらドライヤーまでは持ってきていなかった私は、肩にバスタオルを掛けたまま控室へと戻っていった。

 爽快感でやや気分が上がっていた私が教室の扉を開けた瞬間、眩しいものが目に入った。

「あ、光ちゃんお疲れ様~」

「……あ! 伊藤さんお疲れ様です! なんか眩しいと思ったら伊藤さんの笑顔でした!」

「あはは、何それ、疲れてるね光ちゃん?」

 伊藤さんが九条さんと向かい合って座っていた。差し入れなのか、机の上に色々な飲み物や食料が広げてあった。九条さんは椅子に座ったまま水を飲んでいる。伊藤さんの前には、持参したであろうパソコンが置かれていた。

「とりあえず少しヘルプにきたよ、あと調べ物の報告も」

「あ……何かわかりました?」

「それより風邪ひくよ、ほら座ってなるべく日に当たる温かい場所にいて!」

 伊藤さんがずるずると移動してくれた椅子に腰掛ける。窓際の陽射しが差し込むところだった。相変わらず優しい人だ。

 それにしても、学生用の木の椅子と机が、伊藤さんにあまりに似合っていることは心に秘めておいた方がいいだろう。こうなると高校生にも見える気がしてきた。伊藤さん童顔だなあ本当に。

 私が座ったことを確認した伊藤さんは、早速本題を切り出した。

「さて、まずは朝追加されたここ最近行方不明になっている女の子の情報ですが、調べても見当たりませんでした」

「ううん……違ったか……」

 だろうな、と思ってはいたが、やっぱりハズレていた。私は唸る。

「そして眠ってる四人についてだけどー……。
 接点はやっぱりまるでないですね。多分お互い顔もしらないかと。
 趣味などでも共通点なし。眠った当日の行動にも共通点なし」

「ふむ……行き詰まりますね」

 九条さんが困ったように言う。だがすぐに、伊藤さんが続けた。

「ただ、一つ挙げるなら」

「え?」

 私たちは前のめりになる。

 伊藤さんは目の前のパソコンを操作しながら言った。

「『友達らしき人がいない』……ですかねえ」

 私と九条さんは顔を見合わせる。伊藤さんが続けた。

「イジメとかはないみたいなんです、まあ細かい内情は分かりませんが、結構な人数に聞き込みしたけど口を揃えてそんなことはないってことでした」

 聞き込みという単語に突っ込みたくなったが飲み込む。伊藤さんいつのまにそんなことまでしてたの……?

 やっぱり敵に回してはいけないお方だ。

「でもこう、少なくともクラスに仲のいい友達はいないみたいなんですね。SNSを探ると、最初に眠ってしまった木下ちかさんって子らしきものだけ見つかりました。学校がつまらない、友達もいないって書き連ねてあるものばかりで……これです」

 目の前のノートパソコンをくるりと返し、私たちに見せる。よくあるSNSだ、木下ちかさんらしき書き込みが連なっている。




『馴染めず一年が終わるー』

『友達ってどうやって作んの』

『早く卒業したい』

『来年のクラスも絶対こんなんだし』

 

 ネガティブな書き込みには、他者からの反応は何もない。ただ独り言を淡々と書き込んでいるようだ。

 日常の出来事の書き込みもあったが、それよりも毎日の嘆きの書き込みの方が多いくらいだ。

 さらりと目を通し、九条さんが問う。

「つまりは四人とも孤独を感じている可能性が非常に高い、ということですか?」

「ですねえ。断言はできませんけど、少なくともクラスメイトに友達がいないことだけは間違いなく共通しています」

 九条さんが机の上にあったポッキーを一本手に取り見つめる。

「孤独を感じていたり自暴自棄になったりと心に隙間があると、霊に引っ張られやすくなります。この線で行けば、友人がいないことを嘆いている者たちはあの首吊り霊に引っ張られてる可能性も」

 ポキッ、と齧る。もぐもぐと口を動かしながらさらに続けた。

「そうなれば無論、あの首吊り霊も同じように友人がいないことで悩み自殺したのでしょう。同じ悩みを持つから波長が合ってしまったのです」

「でも、ここの生徒で自殺してる子はいないんですよ?」

 私が口を挟むと、彼はそこです、と言わんばかりに頷き私にポッキーの袋を差し出した。とりあえず一本頂いておく。正直、最近ポッキーを食べすぎて飽きているのだが。

 とりあえずその甘味を口に入れ、私は思いついたことを言ってみる。

「制服を着ているけど実はここの生徒じゃないとかですかね? 例えばここに入りたくてしょうがなかった中学生とか!」

「いい視点です」

 九条さんが少しだけ口角を釣り上げた。初めて考察で褒められた! 私は素直に感激する。

「制服を着ているからと言ってここの生徒とは限らない。思い込みを排除するのは大切なことです。霊が身につけて現れるものは、死ぬ時その格好だった、もしくは着たいと強く願っていた、というパターンもありますからね。

 ただ、友人がいないからと自殺するほど絶望している者が、死後制服を着て現れるほどこの学校に未練があるというのはどうも矛盾を感じますが……」

「まあ、確かに……」

 友達がいないことで悩んで自殺する。でも高校には凄く入りたかった! ……確かに、なんだか納得しないなあ。普通、高校に入ったら友達ができるかもしれないと夢をみるものだろうし。

 九条さんはさらに悩むように呟く。

「それに、首吊りと一言で言ってもバリエーションに富んでいるのもはやり気になる……」

「ですね……」

「結局謎は残っています。これはやはり本人にあって聞くしかないでしょうね。今夜は一晩中探しますよ、光さん覚悟しておいてください」

「ひぇ」

「あちらもどうやら私たちにアピールしてきていますし、結構簡単に遭遇できるかもしれませんよ」

「が、頑張ります……」

 項垂れて返事する私を不憫そうに伊藤さんが見ている。いいえ、私の仕事だからいいんです。寝不足も慣れてきました。
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