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目覚めない少女たち

証言3

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「目撃されたのはどなたですか」

 九条さんが尋ねる。中央のセミロングの子が手を挙げた。

「はい、はい! えっと、澤井めぐみといいます!!」

 嬉しそうにいうその子を見て、若いなあ、と年寄りみたいなことを思ってしまった。イケメンと関わるだけで友達同士と騒げる、学生ならではのノリだ。ちなみに私は学生時代もそんなノリを味わえていないのだが。

 九条さんはひとつ頷き、座ったまま言った。

「では澤井さんのみこちらへ。他の方は外でお待ちいただけますか」

 残念そうにする三人に、澤井さんは嬉しそうにピースして見せた。首吊りの霊を見たというのに、まるでそんなことを感じさせない。

 三人はそのまま教室から出、澤井さんは九条さんの隣の椅子に腰掛けた。私もとりあえず、澤井さんの隣に座る。

「初めまして、九条といいます」

「黒し」

「九条さん! 何歳なんですか?」

「二十七です」

「私二年です、十個上かあ」

 私の自己紹介は完全にスルーされたのをもう突っ込まない。もう澤井さんの眼中に私は存在しないのだ。

 やや複雑な気持ちを抑え込み、私は黙ってことの成り行きを見守る。

「やっぱり大人って感じですよねえ~もう芸能人みた」

「では、あなたが見た体験をなるべく細かく話してください」

 目をキラキラさせて九条さんを見つめる澤井さんの言葉を遮り、九条さんは促した。

 彼女は一瞬不服そうにしたものの、すぐに証言を始めた。



証言③   校舎の裏


 えっと、五日前のことです。時刻は放課後の、多分五時半頃だったと思います。

 私はその日友達と残って教室で喋ってたんです。別に普通の話題ですよ、テレビがどうとか先生がどうとか。よくあるんです、帰りに教室で残って少しお菓子食べたりして。

 途中、話してた友達がトイレに行きました。私はその場で待ってて、ぼうっと椅子に座ってたんです。教室には私以外もう誰も残っていませんでした。

 教室は夕焼けの赤色に染まってて、何をするでもなくただぼーっとしてたんですけど……。

 どこかから、不思議な音が聞こえてきたんです。

 こう、ええっと……何かが擦れる音みたいな。規則的に、ずっ、ずっ、みたいな感じ。最初はなんだろーぐらいだったんですけど、しばらく続くもんだから気になっちゃって。

 ずっ、ずっ、ずっ

 立ち上がってどこから聞こえる音か探しました。それが外から聞こえる音だってすぐにわかって、窓から外を覗いたんです。

 私の教室は二階にあります。それで、窓から見えるのは校舎の裏で、すぐそばに大きな木が植えてあるんです。桜の木だったかなあ。

 すごく太い幹をしていてしっかりした木なんですけど、その木にぶらさがってました。

 女の子です。

 木の高い場所に紐が括り付けられていて、首を吊ってぶら下がっていました。その体が不自然なほどに揺れていて、まさに今その子が首吊りした直後みたいに見えました。揺れるたびに女の子の首がぐにゃぐにゃ人形みたいに揺れて、ゾッとする光景でした。女の子はびくとも動かず、それもまた人形のようでした。

 あの音は、その子の革靴が木の幹とぶつかって擦れる音だったんです。

 私とにかくびっくりして、その時にはもう首吊りの霊がでるって噂は聞いてたのでそれだって思いました。

 トイレに行った友達を探しに行って、二人でもう一度教室に戻ってみましたけど、もう音も首吊りも無くなっていました。あれは絶対見間違いなんかじゃないです。








 よくあんなルンルンテンションで話に来たなと感心する目撃情報だった。視えるのが日常の私でも、いつもいる教室からそんなものをみたらしばらく引きずると思う。メンタルの違いだろうか。

 それにしても、体育館に調理室、校舎裏と目撃場所はてんでバラバラだ。

 九条さんはまたしても、今までと同じ質問を繰り返す。

「顔は見えましたか」

「いや、髪の長い女の子ってだけで、後ろ姿でした」

「声などは聞こえてませんか」

「さすがに」

「今目覚めない四名をご存知で?」

「ああ、一人はクラスメイトです」

 九条さんが少し前のめりになる。澤井さんは戸惑うようにややのけぞった。

「どのような方ですか」

「ええ? 至って普通の子ですよ~女の子ですけど、私はそんな仲良くないんですけど……」

 澤井さんは考えるように腕を組む。

「例えばクラスでイジメがあったなど」

「ええ? ないない! どちらかといえば地味な子でしたけど、イジメとか無視とかはほんとないですって!」

 驚いたように言う澤井さんの言葉に嘘はないように感じた。九条さんはそれでも質問を重ねる。

「例えば目覚めなくなった直前、何か変わったことがあったとか」

「特に思い浮かばないですけど~……」

「他の三名との共通点に心当たりは」

「他の子は知らない子ばっかです。だからよくわかんない」

 九条さんはようやく背もたれに背をつけた。しばらく沈黙が流れたあと、話を切り上げるようにして言う。

「分かりました。助かりました、証言ありがとうございました」

 今回まるで言葉を発していない私は、ほっとして澤井さんにお礼を言おうとした。がしかし、今度は彼女が前のめりになって九条さんに問いかけたのだ。

 その表情はさっきの証言中とは違い、好奇心旺盛な女子高生の顔だ。

「九条さんって、彼女いますかー?!」

 真意をついた質問に、一瞬私がむせかえる。怖いもの知らずの若さ、この能面男になかなかぶっ込んでくる。
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