55 / 449
目覚めない少女たち
九条さんの学生時代
しおりを挟む九条さんの運転する車に揺られ、私たちは一ノ瀬高校へ向かっていた。彼の車に乗るのはもう何度目か分からないほどで、その乗り心地にもだいぶ慣れてきてた。
「学校という場所についてどう思いますか」
ハンドルを握ったまま九条さんが尋ねてくる。私は少し考えて答える。
「いいイメージはありませんね。経験上、よくないものを見ることが多いです。病院とかよりよっぽど」
「同感です。
人が大勢集まるということも勿論ですが、やはり若くてパワーのある場所ですから、霊達も集まりやすいんですよね。楽しそうな声に惹かれてくる場合もありますし、昔から学校に怪談話が絶えないのにはちゃんと理由があります」
自分の学生時代を思い出し、少し憂鬱になる。いじめられていたわけではないが、『どこか変わった子』の印象を払拭することは出来なかった。
廊下や教室、様々なところに霊は溢れるくらいいる。それを避けて歩く私はまっすぐ歩くことさえ出来ない不器用な子だった。
仲のいい友達は結局できないまま学生時代を終えたのだ。彼氏なんて、想像上の生き物くらいに感じていた。
九条さんがいう。
「しかし……眠った後目覚めない、というのは聞いたことのない現象ですね。これは興味深い。まあ、それが怪奇によるものかどうかさえ分かりませんけど」
「そうですねえ……憑かれたとしても、眠り続けるなんて聞いたことないですね……あとは首吊りって言ってましたね。三木田さんの話によれば自殺者もいないっていうし、なんで首吊り……?」
首を傾げて考える。これがここ最近、学校内で首を吊った人がいたというなら話は早いのだが。
でも首吊りの霊だなんんて。私は身震いをする。やだなあ、グロテスクな格好だったらどうしよう。何かの本で、首吊り遺体って時間が経つとえげつないことになるっていうし……。私はやや寒気を感じた腕をさすりながらいう。
「気味悪いですね首吊りの霊なんて……私見たことありませんよ。樹海とか行けばたくさん見えるのかも」
「道端で首吊りの霊を見ることは確かにあまりありませんね」
「前から思ってたんですけど、九条さんって霊を怖いとか嫌だなとか思うんですか? いつでも平然としてますよね」
隣の運転席を見る。整った横顔は、無表情で前だけを見ていた。
「まあ、私は霊たちも影としか見えないので。光さんのように鮮明に見えるのよりマシなのかもしれませんね」
「あ、そっか……」
「ただ、道端を歩いていて耳元で突然話しかけられたりすると驚きます」
「ひえええ! そ、そんな体験いや! そんな時どうするんですか? びっくりしますよね?」
「一瞬驚きますが無視を貫きます」
すごいなあ、と感心した。きっと私なら叫び声をあげたりして、頭のおかしい子認定されること間違いない。
ふと、頭の中に思い浮かんだ疑問をぶつけた。
「九条さんってどんな学生だったんです?」
「このままですよ。普通のそこいらにいる学生です」
「このままだとしたらそこいらにいない」
冷静に少し低めの声で突っ込んだ。こんな美形の無表情、なのにど天然な男がそこいらにいてたまるか。
しかし当の本人は心外だ、というように答える。
「何がですか。至って普通の人間ではないですか」
「え、本気で言ってますか?」
「まああらゆる点で不器用なのは自覚してますけど、これくら不器用な者は大勢いますよ、伊藤さんが器用すぎるだけです」
「不器用っていうか、なんてゆうか」
「はあ」
「……いいです、説明し難い」
九条さんは不思議そうに少しだけ首をかしげた。
どうやら自分が最高に変人だということの自覚はあまりないらしい。普通の人は5歳児向けのゲームに一日中ハマったりしないんだなあ。
「あ、見えましたねあれです」
九条さんがいう。私が目を向けると、なるほどとても立派な校舎が見えてきた。
高校自体は古くからある学校だが、ここ数年で立て替えたらしい、新しくきれいで、おしゃれな外観をしている。白い壁が眩しいほどだ。
「なんていうか、首吊りの霊を見るってなれば古い校舎を想像しちゃうけど新しいんですよねえ。アンバランス」
「古い校舎となれば雰囲気も出るのですがね。さあ駐車して一旦三木田さんと合流しましょう。さまざまな手配が間に合っているといいのですが」
九条さんは車を駐車場へと入れ、空いている場所に停める。とりあえずは私も荷物を持たずに車から降りた。広々とした駐車場には多くの車が見える。遠くから笛の音が鳴り響き、一気に懐かしさに襲われた。体育の授業で使われているのだろうか。
校舎の裏側のようだが、果たしてどこから入ればいいのかと二人で当たりを見渡す。その時、一人の男性が校舎からできてきたのが見えた。
年は三十歳くらいだろうか。上下紺色のジャージを身に纏っていた。短髪で肌も健康的に焼けており、服の上からでもわかるガタイの良さからして、体育教師かもしれなかった。
彼は私たちめがけて小走りで近寄ってくる。白い歯を見せて、彼は笑顔で話しかけてきた。
「こんにちは! もしかして九条さんですか?」
「ええ、そうですが」
「よかった! ご案内します」
ハキハキと通る声に爽やかな笑み。九条さんや伊藤さんとはまた違うタイプの、でも女性に非常にモテそうな人だった。スポーツマンタイプ、というやつか。
彼は丁寧に頭を下げて、自己紹介をした。
「僕はここに勤めてます、東野といいます。体育教師をしています。三木田より九条さんたちの案内係を任されまして。専用の部屋も準びしてますから」
東野さんはやはり体育教師のようだ。私は当たっていたことになぜか喜ぶ。九条さんは一つ頷くと、いつものように抑揚のない声で言った。
「今回調査を承りました九条です」
「あ、黒島です」
慌てて私も続く。東野さんは私を見て、一瞬意外そうな表情をした。が、すぐに笑う。
「よろしくお願いします! こちらへどうぞ」
東野さんに言われるがまま三人で足を踏み出した瞬間、懐かしいチャイムの音が鳴り響いた。
21
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。