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光の入らない部屋と笑わない少女
冗談返し
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「大丈夫ですか!? 怪我は!」
警察の一人が話しかけてくれた。私は首を振って否定する。
「だい、大丈夫です、腰が抜けただけで」
「よかった」
目の前で繰り広げられた出来事が現実とは思えず頭がうまく回っていなかった。包丁を持った人間を羽交い締めにしたのだって初めてだったし、九条さんがあんな機敏な動きを見せたのも驚きだったし。
……何より、九条さんがもう死んじゃうかと思った……
あのまま包丁で刺されるんじゃないかと。
未だ立ち上がることが出来ない私を見た九条さんは、ゆっくりこちらに歩み寄る。しゃがみ込むと、私に言った。
「なぜあなたがここにいるんですか」
「……だ、って……」
安心感から、ぶわりと涙が込み上げてくる。彼の無事を改めて感じ心が軽くなった。見慣れた白い肌を見上げながら、呟く。
「く、九条さんになんかあったら、って……」
彼は泣いた私を見て、少しだけ困ったように視線を泳がせた。
「……これでも護身術はそこそこ身に付けています、あとポケットには催涙スプレーも」
「……そ、ですか……」
ポタポタと溢れてきた涙を必死に拭いた。だって、いつもポッキー食べてる姿しか見てないもの、護身術身に付けてるなんて想像もつかない。
いや、もしそうだとしても、一人で危険に臨むようなことはしないでほしい。本当に、怖かったのに。
九条さんは無言で私を見つめた後、その長い指で私の頬を拭いた。少しひんやりした彼の体温を感じて、つい体が硬直する。
「……ありがとうございます。しかし、危険な真似はしないでください」
「こ、こっちの台詞です」
「まあ、それもそうですね」
少しだけ口元を緩めた九条さんは、私の頭にポンと手を乗せた。それだけで、私の心臓がぎゅんと鳴った。口から心臓が出るかと思った。
彼の顔を見つめながら、顔から火が出そうなくらい熱くなるのを自覚する。九条さんの大きな手を感じながら高鳴る心を必死に抑えた。
その胸に、抱きついてしまいたい。そう、思った。
九条さんはすぐにパッと手を離し、すっと立ち上がる。
「さあ、立てますか。立てないなら抱っこしましょうか」
いつだったか聞いたあまり笑えない冗談を言ってきた彼になんだかムカついた私は、口を尖らせて九条さんを睨んだ。いつだってそうだ、笑えない冗談をぶっ込んでくる。私一人慌てふためいてるんだから。
分かってるのかな。私がこんなになってる原因。
「……ええ、立てそうにないから抱っこしてもらえますか」
冗談返しのつもりだった。少し意地悪を込めた。
しかし私が言い放つと、九条さんはゆっくりこちらを見下げた。そして無言で再びしゃがむと、私の膝の下に手を入れようと腕を伸ばしたのだ。
突然の行動にひょ! と変な声を出した私は慌てて言う。
「じょじょ冗談です立てます!!」
「なんだ、冗談ですか。せっかく抱っこしようと思ったのに」
いつもの能面で言い放った九条さんは一人立ち上がった。その飄々とした顔が憎い。
くそう。結局、私だけいつも戸惑っているんだから。
背の高い彼を見上げて、こんなことならいっそ抱っこされればよかった、なんて思う自分がいた。
それから岩田さんは無論逮捕され、リナちゃんが元の両親のところへ無事戻ることが出来たと聞かされた。
しばらくテレビニュースはそのことで持ちきりだったが、もちろん私たちの存在はなにも報道されなかった。半年間監禁されていた少女無事に保護される、と大々的に報道されているのみだった。
その時見たリナちゃんの顔写真はロングヘアの可愛い笑顔の写真で、ああ、元々はこんなふうに笑う子だったんだと思ってまた少し泣けてしまった。
そして少し経った頃、リナちゃん……いや、加奈子ちゃんの本当のご両親がぜひ私たちに会ってお礼を言いたいと聞き、九条さん、伊藤さんと三人揃って警察署に出向いて行ったのだった。
警察の一人が話しかけてくれた。私は首を振って否定する。
「だい、大丈夫です、腰が抜けただけで」
「よかった」
目の前で繰り広げられた出来事が現実とは思えず頭がうまく回っていなかった。包丁を持った人間を羽交い締めにしたのだって初めてだったし、九条さんがあんな機敏な動きを見せたのも驚きだったし。
……何より、九条さんがもう死んじゃうかと思った……
あのまま包丁で刺されるんじゃないかと。
未だ立ち上がることが出来ない私を見た九条さんは、ゆっくりこちらに歩み寄る。しゃがみ込むと、私に言った。
「なぜあなたがここにいるんですか」
「……だ、って……」
安心感から、ぶわりと涙が込み上げてくる。彼の無事を改めて感じ心が軽くなった。見慣れた白い肌を見上げながら、呟く。
「く、九条さんになんかあったら、って……」
彼は泣いた私を見て、少しだけ困ったように視線を泳がせた。
「……これでも護身術はそこそこ身に付けています、あとポケットには催涙スプレーも」
「……そ、ですか……」
ポタポタと溢れてきた涙を必死に拭いた。だって、いつもポッキー食べてる姿しか見てないもの、護身術身に付けてるなんて想像もつかない。
いや、もしそうだとしても、一人で危険に臨むようなことはしないでほしい。本当に、怖かったのに。
九条さんは無言で私を見つめた後、その長い指で私の頬を拭いた。少しひんやりした彼の体温を感じて、つい体が硬直する。
「……ありがとうございます。しかし、危険な真似はしないでください」
「こ、こっちの台詞です」
「まあ、それもそうですね」
少しだけ口元を緩めた九条さんは、私の頭にポンと手を乗せた。それだけで、私の心臓がぎゅんと鳴った。口から心臓が出るかと思った。
彼の顔を見つめながら、顔から火が出そうなくらい熱くなるのを自覚する。九条さんの大きな手を感じながら高鳴る心を必死に抑えた。
その胸に、抱きついてしまいたい。そう、思った。
九条さんはすぐにパッと手を離し、すっと立ち上がる。
「さあ、立てますか。立てないなら抱っこしましょうか」
いつだったか聞いたあまり笑えない冗談を言ってきた彼になんだかムカついた私は、口を尖らせて九条さんを睨んだ。いつだってそうだ、笑えない冗談をぶっ込んでくる。私一人慌てふためいてるんだから。
分かってるのかな。私がこんなになってる原因。
「……ええ、立てそうにないから抱っこしてもらえますか」
冗談返しのつもりだった。少し意地悪を込めた。
しかし私が言い放つと、九条さんはゆっくりこちらを見下げた。そして無言で再びしゃがむと、私の膝の下に手を入れようと腕を伸ばしたのだ。
突然の行動にひょ! と変な声を出した私は慌てて言う。
「じょじょ冗談です立てます!!」
「なんだ、冗談ですか。せっかく抱っこしようと思ったのに」
いつもの能面で言い放った九条さんは一人立ち上がった。その飄々とした顔が憎い。
くそう。結局、私だけいつも戸惑っているんだから。
背の高い彼を見上げて、こんなことならいっそ抱っこされればよかった、なんて思う自分がいた。
それから岩田さんは無論逮捕され、リナちゃんが元の両親のところへ無事戻ることが出来たと聞かされた。
しばらくテレビニュースはそのことで持ちきりだったが、もちろん私たちの存在はなにも報道されなかった。半年間監禁されていた少女無事に保護される、と大々的に報道されているのみだった。
その時見たリナちゃんの顔写真はロングヘアの可愛い笑顔の写真で、ああ、元々はこんなふうに笑う子だったんだと思ってまた少し泣けてしまった。
そして少し経った頃、リナちゃん……いや、加奈子ちゃんの本当のご両親がぜひ私たちに会ってお礼を言いたいと聞き、九条さん、伊藤さんと三人揃って警察署に出向いて行ったのだった。
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