37 / 449
光の入らない部屋と笑わない少女
驚愕のパワー
しおりを挟む
リナちゃんが反応するようになった事はいい事なのに、なんだか悲しい気持ちにもなった。丸2日色んな角度からあの子にアタックしたのに全然駄目だった私の立場。一度もらった反応は多分お菓子の力だし。
隣の九条さんを見上げると、彼も少し複雑そうな顔をしていた。後退りと全然反応違うものね。
でもまあ、いいことだ。もしかしたら、着物の女の事も何がわかるかもしれない。気持ちを切り替えなくては。
そう岩田さんに話しかけようと振り返ったとき、彼女の表情がとんでもなく固いのに気がついた。ついびくっと、私の体が強張るほどに。
岩田さんは口を結び無表情でリナちゃんを見ていた。てっきり、反応がいい事に喜んでいるのかと思っていた私は声を掛けれず戸惑う。
そんな様子に気づいたのか、岩田さんは私を見て苦笑いをした。深く出来た眉間の皺が、なんだが切なく見えた。
「私にもあまり反応してくれないのに……ちょっと複雑な気持ちになっちゃいました」
「あ……」
それもそうだ、と思う。私ですらちょっと落ち込んだのに、毎日付きっきりの岩田さんがそう思うのも無理はない。たった2日頑張った私とはわけが違う、2人きりでずっと頑張ってきたのに。
「その、伊藤さんは特別ですよ。ほんと、彼は凄いですから」
「そうですね、お会いして分かります」
「私や九条さんは全然ダメでしたし! 伊藤さんは人間対応のプロですから。岩田さんが落ち込む事はないです!」
私が励ますも、彼女は力なく微笑むだけだった。切ないなぁ、娘に話してもらえないってきっと辛いだろうに。
それ以上かける言葉も見つからず、私はまたリナちゃんたちに目を向ける。伊藤さんと二人でお菓子を見ているようだった。
「あ、僕このチョコ食べようっと。リナちゃんどれにする?」
リナちゃんは緩慢な動作でいくつかお菓子をじっくり見て選ぶ。私の時のように、気に入らないものは全て伊藤さんの膝に戻していた。
伊藤さんも何も言わずじっくりリナちゃんの動きを見守って待っていた。待つ、って意外と難しいんだよなぁ。ああいうところかな伊藤さん、人のペースに合わせられるの。
「じゃあ頂きまーす」
二人で並んでお菓子を食べる様子はとても微笑ましかった。初めてリナちゃんが普通の子供に見える。両手で少し大きめの焼き菓子を掴んでいる姿は可愛らしい。
「このまま少し彼に任せておきましょう」
隣の九条さんが言う。私も同意した。
「そうですね、じっと見てるのもなんだし」
「我々は少し休息を取る事にしますか。夜はまた働く事になりますし」
「はい」
私と九条さんはそう結論づけ、一度退散することにした。チラリと最後に見た伊藤さんとリナちゃんは、やっぱり仲良さそうにお菓子を食べていた。
控室に戻り私はまた岩田さんにシャワーをお借りした。もう持ってきた着替えは最後の一枚になってしまった。明日コインランドリーでも行く時間があるだろうか。
髪を乾かして部屋に戻れば、床で眠る九条さんが目に入った。狭く散らかった部屋の角で、膝を曲げて小さく横になっている。彼からは気持ちよさそうな寝息が聞こえた。
その様子がなんだか微笑ましくて、私はそっとその体に毛布をかけた。ここに来て毎回私にベッドを貸してくれているため、九条さんはいつも床で寝ている。大変申し訳ない。
私はしばらくその寝顔を眺めた後、自分自身もベッドに身を投げるとすぐに眠ってしまった。
何やら話し声が聞こえる。
私は眠い目を瞑りながら耳だけ澄ました。
「あーうん、上手上手! これは? あはは、いいね」
伊藤さんの声だった。そこでようやくパチリと目を開ける。すぐに視界に入ってきたのは、一生懸命積み木を積んでいる伊藤さんの姿だった。
ぼんやりした頭のまま上半身を起こす。そこまできてようやく、伊藤さんの隣にリナちゃんが座っている事に気付いたのだ。
「……!?」
眠気が一気に冷めた。ギョッとして目を見開く。そんな私に気づいたのか、伊藤さんがこちらを見た。
「あ、ごめん起こしちゃった?」
私をニコニコ見上げる伊藤さんの隣には、リナちゃんも同じように積み木を持っていた。その背後には爆睡する九条さんがいる。
リナちゃんは笑顔こそないものの、積み木を持っている姿はどこか柔らかい表情に見えた。私は見たことのない彼女の顔だ。
「い、伊藤さん……リナちゃん!?」
「今さーお城作っててさ! いい感じじゃない?」
彼らの前にある積み木のお城は確かにいい出来栄え……って、そういうことじゃない!
あのリナちゃんが私達の控室まで来て遊んでいる。片手にはやっぱり犬のぬいぐるみはあるけど、積み木も持ってちゃんと子供みたいに遊んでいる。
見渡せば岩田さんはいない。リナちゃんは伊藤さんについて来たのだ。
……もはや、感心を通り越えた。凄すぎて引いた。伊藤さん、リナちゃんとスムーズに仲良くなりすぎ。
隣の九条さんを見上げると、彼も少し複雑そうな顔をしていた。後退りと全然反応違うものね。
でもまあ、いいことだ。もしかしたら、着物の女の事も何がわかるかもしれない。気持ちを切り替えなくては。
そう岩田さんに話しかけようと振り返ったとき、彼女の表情がとんでもなく固いのに気がついた。ついびくっと、私の体が強張るほどに。
岩田さんは口を結び無表情でリナちゃんを見ていた。てっきり、反応がいい事に喜んでいるのかと思っていた私は声を掛けれず戸惑う。
そんな様子に気づいたのか、岩田さんは私を見て苦笑いをした。深く出来た眉間の皺が、なんだが切なく見えた。
「私にもあまり反応してくれないのに……ちょっと複雑な気持ちになっちゃいました」
「あ……」
それもそうだ、と思う。私ですらちょっと落ち込んだのに、毎日付きっきりの岩田さんがそう思うのも無理はない。たった2日頑張った私とはわけが違う、2人きりでずっと頑張ってきたのに。
「その、伊藤さんは特別ですよ。ほんと、彼は凄いですから」
「そうですね、お会いして分かります」
「私や九条さんは全然ダメでしたし! 伊藤さんは人間対応のプロですから。岩田さんが落ち込む事はないです!」
私が励ますも、彼女は力なく微笑むだけだった。切ないなぁ、娘に話してもらえないってきっと辛いだろうに。
それ以上かける言葉も見つからず、私はまたリナちゃんたちに目を向ける。伊藤さんと二人でお菓子を見ているようだった。
「あ、僕このチョコ食べようっと。リナちゃんどれにする?」
リナちゃんは緩慢な動作でいくつかお菓子をじっくり見て選ぶ。私の時のように、気に入らないものは全て伊藤さんの膝に戻していた。
伊藤さんも何も言わずじっくりリナちゃんの動きを見守って待っていた。待つ、って意外と難しいんだよなぁ。ああいうところかな伊藤さん、人のペースに合わせられるの。
「じゃあ頂きまーす」
二人で並んでお菓子を食べる様子はとても微笑ましかった。初めてリナちゃんが普通の子供に見える。両手で少し大きめの焼き菓子を掴んでいる姿は可愛らしい。
「このまま少し彼に任せておきましょう」
隣の九条さんが言う。私も同意した。
「そうですね、じっと見てるのもなんだし」
「我々は少し休息を取る事にしますか。夜はまた働く事になりますし」
「はい」
私と九条さんはそう結論づけ、一度退散することにした。チラリと最後に見た伊藤さんとリナちゃんは、やっぱり仲良さそうにお菓子を食べていた。
控室に戻り私はまた岩田さんにシャワーをお借りした。もう持ってきた着替えは最後の一枚になってしまった。明日コインランドリーでも行く時間があるだろうか。
髪を乾かして部屋に戻れば、床で眠る九条さんが目に入った。狭く散らかった部屋の角で、膝を曲げて小さく横になっている。彼からは気持ちよさそうな寝息が聞こえた。
その様子がなんだか微笑ましくて、私はそっとその体に毛布をかけた。ここに来て毎回私にベッドを貸してくれているため、九条さんはいつも床で寝ている。大変申し訳ない。
私はしばらくその寝顔を眺めた後、自分自身もベッドに身を投げるとすぐに眠ってしまった。
何やら話し声が聞こえる。
私は眠い目を瞑りながら耳だけ澄ました。
「あーうん、上手上手! これは? あはは、いいね」
伊藤さんの声だった。そこでようやくパチリと目を開ける。すぐに視界に入ってきたのは、一生懸命積み木を積んでいる伊藤さんの姿だった。
ぼんやりした頭のまま上半身を起こす。そこまできてようやく、伊藤さんの隣にリナちゃんが座っている事に気付いたのだ。
「……!?」
眠気が一気に冷めた。ギョッとして目を見開く。そんな私に気づいたのか、伊藤さんがこちらを見た。
「あ、ごめん起こしちゃった?」
私をニコニコ見上げる伊藤さんの隣には、リナちゃんも同じように積み木を持っていた。その背後には爆睡する九条さんがいる。
リナちゃんは笑顔こそないものの、積み木を持っている姿はどこか柔らかい表情に見えた。私は見たことのない彼女の顔だ。
「い、伊藤さん……リナちゃん!?」
「今さーお城作っててさ! いい感じじゃない?」
彼らの前にある積み木のお城は確かにいい出来栄え……って、そういうことじゃない!
あのリナちゃんが私達の控室まで来て遊んでいる。片手にはやっぱり犬のぬいぐるみはあるけど、積み木も持ってちゃんと子供みたいに遊んでいる。
見渡せば岩田さんはいない。リナちゃんは伊藤さんについて来たのだ。
……もはや、感心を通り越えた。凄すぎて引いた。伊藤さん、リナちゃんとスムーズに仲良くなりすぎ。
28
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
【完結】『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~
潮ノ海月
ホラー
五月の中旬、昼休中に清水莉子と幸村葵が『こっくりさん』で遊び始めた。俺、月森和也、野風雄二、転校生の神代渉の三人が雑談していると、女子達のキャーという悲鳴が。その翌日から莉子は休み続け、学校中に『こっくりさん』の呪いや祟りの噂が広まる。そのことで和也、斉藤凪紗、雄二、葵、渉の五人が莉子の家を訪れると、彼女の母親は憔悴し、私室いた莉子は憑依された姿になっていた。莉子の家から葵を送り届け、暗い路地を歩く渉は不気味な怪異に遭遇する。それから恐怖の怪奇現象が頻発し、ついに女子達が犠牲に。そして怪異に翻弄されながらも、和也と渉の二人は一つの仮説を立て、思ってもみない結末へ導かれていく。【2025/3/11 完結】

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。