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光の入らない部屋と笑わない少女
驚愕のパワー
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リナちゃんが反応するようになった事はいい事なのに、なんだか悲しい気持ちにもなった。丸2日色んな角度からあの子にアタックしたのに全然駄目だった私の立場。一度もらった反応は多分お菓子の力だし。
隣の九条さんを見上げると、彼も少し複雑そうな顔をしていた。後退りと全然反応違うものね。
でもまあ、いいことだ。もしかしたら、着物の女の事も何がわかるかもしれない。気持ちを切り替えなくては。
そう岩田さんに話しかけようと振り返ったとき、彼女の表情がとんでもなく固いのに気がついた。ついびくっと、私の体が強張るほどに。
岩田さんは口を結び無表情でリナちゃんを見ていた。てっきり、反応がいい事に喜んでいるのかと思っていた私は声を掛けれず戸惑う。
そんな様子に気づいたのか、岩田さんは私を見て苦笑いをした。深く出来た眉間の皺が、なんだが切なく見えた。
「私にもあまり反応してくれないのに……ちょっと複雑な気持ちになっちゃいました」
「あ……」
それもそうだ、と思う。私ですらちょっと落ち込んだのに、毎日付きっきりの岩田さんがそう思うのも無理はない。たった2日頑張った私とはわけが違う、2人きりでずっと頑張ってきたのに。
「その、伊藤さんは特別ですよ。ほんと、彼は凄いですから」
「そうですね、お会いして分かります」
「私や九条さんは全然ダメでしたし! 伊藤さんは人間対応のプロですから。岩田さんが落ち込む事はないです!」
私が励ますも、彼女は力なく微笑むだけだった。切ないなぁ、娘に話してもらえないってきっと辛いだろうに。
それ以上かける言葉も見つからず、私はまたリナちゃんたちに目を向ける。伊藤さんと二人でお菓子を見ているようだった。
「あ、僕このチョコ食べようっと。リナちゃんどれにする?」
リナちゃんは緩慢な動作でいくつかお菓子をじっくり見て選ぶ。私の時のように、気に入らないものは全て伊藤さんの膝に戻していた。
伊藤さんも何も言わずじっくりリナちゃんの動きを見守って待っていた。待つ、って意外と難しいんだよなぁ。ああいうところかな伊藤さん、人のペースに合わせられるの。
「じゃあ頂きまーす」
二人で並んでお菓子を食べる様子はとても微笑ましかった。初めてリナちゃんが普通の子供に見える。両手で少し大きめの焼き菓子を掴んでいる姿は可愛らしい。
「このまま少し彼に任せておきましょう」
隣の九条さんが言う。私も同意した。
「そうですね、じっと見てるのもなんだし」
「我々は少し休息を取る事にしますか。夜はまた働く事になりますし」
「はい」
私と九条さんはそう結論づけ、一度退散することにした。チラリと最後に見た伊藤さんとリナちゃんは、やっぱり仲良さそうにお菓子を食べていた。
控室に戻り私はまた岩田さんにシャワーをお借りした。もう持ってきた着替えは最後の一枚になってしまった。明日コインランドリーでも行く時間があるだろうか。
髪を乾かして部屋に戻れば、床で眠る九条さんが目に入った。狭く散らかった部屋の角で、膝を曲げて小さく横になっている。彼からは気持ちよさそうな寝息が聞こえた。
その様子がなんだか微笑ましくて、私はそっとその体に毛布をかけた。ここに来て毎回私にベッドを貸してくれているため、九条さんはいつも床で寝ている。大変申し訳ない。
私はしばらくその寝顔を眺めた後、自分自身もベッドに身を投げるとすぐに眠ってしまった。
何やら話し声が聞こえる。
私は眠い目を瞑りながら耳だけ澄ました。
「あーうん、上手上手! これは? あはは、いいね」
伊藤さんの声だった。そこでようやくパチリと目を開ける。すぐに視界に入ってきたのは、一生懸命積み木を積んでいる伊藤さんの姿だった。
ぼんやりした頭のまま上半身を起こす。そこまできてようやく、伊藤さんの隣にリナちゃんが座っている事に気付いたのだ。
「……!?」
眠気が一気に冷めた。ギョッとして目を見開く。そんな私に気づいたのか、伊藤さんがこちらを見た。
「あ、ごめん起こしちゃった?」
私をニコニコ見上げる伊藤さんの隣には、リナちゃんも同じように積み木を持っていた。その背後には爆睡する九条さんがいる。
リナちゃんは笑顔こそないものの、積み木を持っている姿はどこか柔らかい表情に見えた。私は見たことのない彼女の顔だ。
「い、伊藤さん……リナちゃん!?」
「今さーお城作っててさ! いい感じじゃない?」
彼らの前にある積み木のお城は確かにいい出来栄え……って、そういうことじゃない!
あのリナちゃんが私達の控室まで来て遊んでいる。片手にはやっぱり犬のぬいぐるみはあるけど、積み木も持ってちゃんと子供みたいに遊んでいる。
見渡せば岩田さんはいない。リナちゃんは伊藤さんについて来たのだ。
……もはや、感心を通り越えた。凄すぎて引いた。伊藤さん、リナちゃんとスムーズに仲良くなりすぎ。
隣の九条さんを見上げると、彼も少し複雑そうな顔をしていた。後退りと全然反応違うものね。
でもまあ、いいことだ。もしかしたら、着物の女の事も何がわかるかもしれない。気持ちを切り替えなくては。
そう岩田さんに話しかけようと振り返ったとき、彼女の表情がとんでもなく固いのに気がついた。ついびくっと、私の体が強張るほどに。
岩田さんは口を結び無表情でリナちゃんを見ていた。てっきり、反応がいい事に喜んでいるのかと思っていた私は声を掛けれず戸惑う。
そんな様子に気づいたのか、岩田さんは私を見て苦笑いをした。深く出来た眉間の皺が、なんだが切なく見えた。
「私にもあまり反応してくれないのに……ちょっと複雑な気持ちになっちゃいました」
「あ……」
それもそうだ、と思う。私ですらちょっと落ち込んだのに、毎日付きっきりの岩田さんがそう思うのも無理はない。たった2日頑張った私とはわけが違う、2人きりでずっと頑張ってきたのに。
「その、伊藤さんは特別ですよ。ほんと、彼は凄いですから」
「そうですね、お会いして分かります」
「私や九条さんは全然ダメでしたし! 伊藤さんは人間対応のプロですから。岩田さんが落ち込む事はないです!」
私が励ますも、彼女は力なく微笑むだけだった。切ないなぁ、娘に話してもらえないってきっと辛いだろうに。
それ以上かける言葉も見つからず、私はまたリナちゃんたちに目を向ける。伊藤さんと二人でお菓子を見ているようだった。
「あ、僕このチョコ食べようっと。リナちゃんどれにする?」
リナちゃんは緩慢な動作でいくつかお菓子をじっくり見て選ぶ。私の時のように、気に入らないものは全て伊藤さんの膝に戻していた。
伊藤さんも何も言わずじっくりリナちゃんの動きを見守って待っていた。待つ、って意外と難しいんだよなぁ。ああいうところかな伊藤さん、人のペースに合わせられるの。
「じゃあ頂きまーす」
二人で並んでお菓子を食べる様子はとても微笑ましかった。初めてリナちゃんが普通の子供に見える。両手で少し大きめの焼き菓子を掴んでいる姿は可愛らしい。
「このまま少し彼に任せておきましょう」
隣の九条さんが言う。私も同意した。
「そうですね、じっと見てるのもなんだし」
「我々は少し休息を取る事にしますか。夜はまた働く事になりますし」
「はい」
私と九条さんはそう結論づけ、一度退散することにした。チラリと最後に見た伊藤さんとリナちゃんは、やっぱり仲良さそうにお菓子を食べていた。
控室に戻り私はまた岩田さんにシャワーをお借りした。もう持ってきた着替えは最後の一枚になってしまった。明日コインランドリーでも行く時間があるだろうか。
髪を乾かして部屋に戻れば、床で眠る九条さんが目に入った。狭く散らかった部屋の角で、膝を曲げて小さく横になっている。彼からは気持ちよさそうな寝息が聞こえた。
その様子がなんだか微笑ましくて、私はそっとその体に毛布をかけた。ここに来て毎回私にベッドを貸してくれているため、九条さんはいつも床で寝ている。大変申し訳ない。
私はしばらくその寝顔を眺めた後、自分自身もベッドに身を投げるとすぐに眠ってしまった。
何やら話し声が聞こえる。
私は眠い目を瞑りながら耳だけ澄ました。
「あーうん、上手上手! これは? あはは、いいね」
伊藤さんの声だった。そこでようやくパチリと目を開ける。すぐに視界に入ってきたのは、一生懸命積み木を積んでいる伊藤さんの姿だった。
ぼんやりした頭のまま上半身を起こす。そこまできてようやく、伊藤さんの隣にリナちゃんが座っている事に気付いたのだ。
「……!?」
眠気が一気に冷めた。ギョッとして目を見開く。そんな私に気づいたのか、伊藤さんがこちらを見た。
「あ、ごめん起こしちゃった?」
私をニコニコ見上げる伊藤さんの隣には、リナちゃんも同じように積み木を持っていた。その背後には爆睡する九条さんがいる。
リナちゃんは笑顔こそないものの、積み木を持っている姿はどこか柔らかい表情に見えた。私は見たことのない彼女の顔だ。
「い、伊藤さん……リナちゃん!?」
「今さーお城作っててさ! いい感じじゃない?」
彼らの前にある積み木のお城は確かにいい出来栄え……って、そういうことじゃない!
あのリナちゃんが私達の控室まで来て遊んでいる。片手にはやっぱり犬のぬいぐるみはあるけど、積み木も持ってちゃんと子供みたいに遊んでいる。
見渡せば岩田さんはいない。リナちゃんは伊藤さんについて来たのだ。
……もはや、感心を通り越えた。凄すぎて引いた。伊藤さん、リナちゃんとスムーズに仲良くなりすぎ。
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