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光の入らない部屋と笑わない少女
この男子供には好かれるのは無理
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「どうしました」
彼は私たちに問いかけた。私とリナちゃんを交互に見る。
なんとなくぬいぐるみの話はもう終わりにした方がいい気がして、私は笑って誤魔化した。
「いえ、リナちゃんに朝の挨拶です!」
「そうですか。それでは私も」
九条さんは先程私が言った言葉をちゃんと考えてくれたらしい、リナちゃんの正面に移動し、ゆっくりしゃがみ込んだ。リナちゃんはじっと動かず九条さんを見つめていた。
「おはようございます。九条尚久です。27歳のいて座です。今回はあなたのお母様に頼まれて仕事にきました。どうぞよろしくお願いします」
そう、彼は無表情で言った。
……なぜ星座?というか、子供相手にも敬語なんだ……?
ポカンとしてその光景を眺めた。九条さんは至って真面目のようで、しっかりとリナちゃんを見つめている。能面のような顔で。
リナちゃんはしばらく無言を流したあと、ほんの少しずつ後退した。どう見ても怯えていた。それもそうだ、ニコリとも笑わずに敬語で話しかけてくる大人なんて子供から見たら敬遠する。しかも、九条さんは異様に顔が整っているので威圧感が凄い。人形のように思えてしまう。
ああ、こりゃ駄目だ。彼が子供に好かれないと言っていたわけがわかる。予想通りっちゃ予想通りなんだけど。私は頭を抱える。
九条さんはリナちゃんに引かれたことが悲しかったのか、少しだけ眉を下げた。そんな不器用な彼を少し可愛いと思ってしまった自分は感覚がおかしくなっているのだろうか。ついぷっと吹き出す。
「あはは、く、九条さん……!」
「はい」
「リナちゃんびっくりしてますよ……!」
「そのようですね」
彼はゆっくり立ち上がる。リナちゃんは未だ無言で九条さんを見ていた。私はそんな彼女に話しかける。
「大丈夫、怖い人じゃないよ」
と、フォローを入れてみるも、私自身リナちゃんに懐かれているわけではないのであまり意味はない。案の定リナちゃんは頷く事もしなかった。
やや微妙な空気が流れていたところへ、寝室の扉が開いた。起きてきた岩田さんだった。私はほっと息をつく。
「あ、おはようございます岩田さん」
「あ、おはようございます……ごめんねリナ、すぐ朝ごはんにするね」
眠そうに目を擦っている。そりゃ夜間あんなに苦しそうにうなされては疲労するだけだろう。あんなのが毎晩だなんて、想像するだけでぞっとする。
岩田さんはそれでも気丈に笑い、私たちに話しかけた。
「よかったら九条さんたちも一緒にいかがですか、簡単なものですが」
「え……」
私は九条さんを見る。意外にも九条さんは素直に頷いた。
「では、お言葉に甘えて」
「はい、少しお待ちくださいね」
「あ! 私手伝います!」
「あらありがとう」
岩田さんはリナちゃんの背中を軽く押しながらリビングへ入って行った。リナちゃんはその間もずっとぬいぐるみを握りしめていた。
彼は私たちに問いかけた。私とリナちゃんを交互に見る。
なんとなくぬいぐるみの話はもう終わりにした方がいい気がして、私は笑って誤魔化した。
「いえ、リナちゃんに朝の挨拶です!」
「そうですか。それでは私も」
九条さんは先程私が言った言葉をちゃんと考えてくれたらしい、リナちゃんの正面に移動し、ゆっくりしゃがみ込んだ。リナちゃんはじっと動かず九条さんを見つめていた。
「おはようございます。九条尚久です。27歳のいて座です。今回はあなたのお母様に頼まれて仕事にきました。どうぞよろしくお願いします」
そう、彼は無表情で言った。
……なぜ星座?というか、子供相手にも敬語なんだ……?
ポカンとしてその光景を眺めた。九条さんは至って真面目のようで、しっかりとリナちゃんを見つめている。能面のような顔で。
リナちゃんはしばらく無言を流したあと、ほんの少しずつ後退した。どう見ても怯えていた。それもそうだ、ニコリとも笑わずに敬語で話しかけてくる大人なんて子供から見たら敬遠する。しかも、九条さんは異様に顔が整っているので威圧感が凄い。人形のように思えてしまう。
ああ、こりゃ駄目だ。彼が子供に好かれないと言っていたわけがわかる。予想通りっちゃ予想通りなんだけど。私は頭を抱える。
九条さんはリナちゃんに引かれたことが悲しかったのか、少しだけ眉を下げた。そんな不器用な彼を少し可愛いと思ってしまった自分は感覚がおかしくなっているのだろうか。ついぷっと吹き出す。
「あはは、く、九条さん……!」
「はい」
「リナちゃんびっくりしてますよ……!」
「そのようですね」
彼はゆっくり立ち上がる。リナちゃんは未だ無言で九条さんを見ていた。私はそんな彼女に話しかける。
「大丈夫、怖い人じゃないよ」
と、フォローを入れてみるも、私自身リナちゃんに懐かれているわけではないのであまり意味はない。案の定リナちゃんは頷く事もしなかった。
やや微妙な空気が流れていたところへ、寝室の扉が開いた。起きてきた岩田さんだった。私はほっと息をつく。
「あ、おはようございます岩田さん」
「あ、おはようございます……ごめんねリナ、すぐ朝ごはんにするね」
眠そうに目を擦っている。そりゃ夜間あんなに苦しそうにうなされては疲労するだけだろう。あんなのが毎晩だなんて、想像するだけでぞっとする。
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「よかったら九条さんたちも一緒にいかがですか、簡単なものですが」
「え……」
私は九条さんを見る。意外にも九条さんは素直に頷いた。
「では、お言葉に甘えて」
「はい、少しお待ちくださいね」
「あ! 私手伝います!」
「あらありがとう」
岩田さんはリナちゃんの背中を軽く押しながらリビングへ入って行った。リナちゃんはその間もずっとぬいぐるみを握りしめていた。
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