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光の入らない部屋と笑わない少女
開始
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岩田さんが答える。
「夫は隠れて私に暴力を振るう人で、リナには一切手をあげませんでした。確かに突然父親を無くしたショックはあるかもしれませんが、失声症になるほどではないと思うんです」
「病院へは」
「行きました。やはり何かのストレスだろうと言われましたが、その、この子ものすごい病院嫌いなんです。病院は暴れて叫ぶから中々カウンセリング連れていけなくて。病院はとにかく時間をかけて見ていきましょうと言われました」
九条さんは腕を組んで考え込む。岩田さんは思い出したように言った。
「他にもリナは怖いものがあって。一つは光です」
「光?」
「太陽の光が苦手なんです。だからあんな事になってて……」
3人で閉ざされた窓を見つめる。なるほど、それであの段ボールなのか。それにしても徹底ぶりが凄いが。
「あと外出も……。本人は行きたがることもありますが、外に出ると奇声を上げて暴れるので、決して外には出せません。ここ最近は買い物もすべてネットの宅配で、私も家から出れていません」
「え……じゃあずっと二人きりで篭ってるんですか?」
目を丸くして聞く。岩田さんはこくんと頷いた。
唖然としてその項垂れた頭を見つめる。九条さんは続ける。
「お仕事は?」
「ええと、少し前母が亡くなりまして、その遺産が結構ありまして。ですから依頼料は大丈夫です、リナをよろしくお願いします!きっと何かよくないものがいるせいであの子はこうなってるんです……元のリナに戻してください!」
岩田さんはテーブルに額がつきそうなほどに深く頭を下げる。背後のアニメの音声がアンバランスだった。
隣の九条さんを見上げれば、未だ何かを考えているように腕を組んでじっと岩田さんを見ていた。
そして少し経った後、頷いて彼は言う。
「とりあえず調査させて頂きます。娘さんの原因が怪奇によるものかどうかまだ確定ではありませんが、夜うなされる体験も気になりますし」
「あ、ありがとうございます……!」
「とりあえず夜間の様子をカメラ撮影させて頂きたいのですが。可能であれば一室お借りし、私達は夜通しその部屋からあなた方を見守りたいです。ですが無理ならば夜は一旦退きます」
「いいえいいえ、大丈夫です。部屋もありますから使ってやってください!ああ、ありがとうございます……!」
まるで神でも見るかのように、岩田さんは私たちに拝んだ。その様子を見て不憫に思う。
きっとこの人いっぱいいっぱいなんだろうな。娘が理解できない状況になって、夫から逃げて、きっと悩んだんだろうなぁ……。
決まりだとばかりに岩田さんは立ち上がった。
「リナの部屋を使ってください。いまは物置状態なんです。他もお好きに使って下さっていいですから」
その言葉を合図に私たちは立ち上がる。リナちゃんは未だにテレビを無言で見ていた。
リビングをでてすぐ右手に見えた扉が開かれる。子供部屋として用意してある部屋だと一目で分かった。そこには子供用のおもちゃなどが多くあったからだ。
広さは8畳ほどだろうか。ブロックやままごとのセット、人形やその家たち。女の子ならではのおもちゃに懐かしさを感じるが、どうもそれらはあまり遊ばれていないようだった。ほとんどが新品同様であったからだ。
その部屋も勿論窓には段ボールがはめ込まれ、ガムテープが張り巡らされていた。
他にはシングルのベッドが一つ、置いてある。
「向かいにある部屋が寝室で、私とリナはそこで寝ています。勝手に入って貰って構いません」
「分かりました。一度車から機材を運び込んできます」
「はい、私はリビングにいますので……」
岩田さんは再び頭を下げると、すぐにまたリビングへと戻った。一人にさせているリナちゃんが心配なんだろうなと思った。
ふうと息をついて辺りを見回す。とりあえず、乱雑に置いてあるおもちゃたちを端に寄せた。
「どう思いますか、今の話」
九条さんが突然言った。振り返ると、彼はポケットに手を入れて段ボールがはめ込まれた窓を眺めていた。
「ええと、この部屋とかリナちゃんに変なものは全然感じませんね」
「同感です」
「リナちゃんの失声症の原因はよく分かりませんね……霊が関係しているのか、ほかのストレスが何かあったのか」
「どうもしっくりこない話ですね。話が違和感だらけなので当然と言えば当然ですが……。
光を嫌がったり医者や外を嫌がったり。彼女はとにかく外に対して拒否が強い」
「そうですね、何ででしょう……」
「それに……」
九条さんは言いかけて止まる。ボンヤリと考え事をしばらくした後、少し眉を下げて頭を掻いた。
「まあ、とりあえず泊まり込みの許可も得たので撮影しましょう。毎晩だと言っていましたから、今日も起こるといいですね」
「あ、じゃあ機材を……」
「機材は私が運び入れる事にします。黒島さんには違う仕事を」
「え?違う仕事?」
首を傾げて尋ねると、九条さんは私が持ってきた紙袋を指さした。
「娘である岩田リナに、一応話を聞いてみてください」
「夫は隠れて私に暴力を振るう人で、リナには一切手をあげませんでした。確かに突然父親を無くしたショックはあるかもしれませんが、失声症になるほどではないと思うんです」
「病院へは」
「行きました。やはり何かのストレスだろうと言われましたが、その、この子ものすごい病院嫌いなんです。病院は暴れて叫ぶから中々カウンセリング連れていけなくて。病院はとにかく時間をかけて見ていきましょうと言われました」
九条さんは腕を組んで考え込む。岩田さんは思い出したように言った。
「他にもリナは怖いものがあって。一つは光です」
「光?」
「太陽の光が苦手なんです。だからあんな事になってて……」
3人で閉ざされた窓を見つめる。なるほど、それであの段ボールなのか。それにしても徹底ぶりが凄いが。
「あと外出も……。本人は行きたがることもありますが、外に出ると奇声を上げて暴れるので、決して外には出せません。ここ最近は買い物もすべてネットの宅配で、私も家から出れていません」
「え……じゃあずっと二人きりで篭ってるんですか?」
目を丸くして聞く。岩田さんはこくんと頷いた。
唖然としてその項垂れた頭を見つめる。九条さんは続ける。
「お仕事は?」
「ええと、少し前母が亡くなりまして、その遺産が結構ありまして。ですから依頼料は大丈夫です、リナをよろしくお願いします!きっと何かよくないものがいるせいであの子はこうなってるんです……元のリナに戻してください!」
岩田さんはテーブルに額がつきそうなほどに深く頭を下げる。背後のアニメの音声がアンバランスだった。
隣の九条さんを見上げれば、未だ何かを考えているように腕を組んでじっと岩田さんを見ていた。
そして少し経った後、頷いて彼は言う。
「とりあえず調査させて頂きます。娘さんの原因が怪奇によるものかどうかまだ確定ではありませんが、夜うなされる体験も気になりますし」
「あ、ありがとうございます……!」
「とりあえず夜間の様子をカメラ撮影させて頂きたいのですが。可能であれば一室お借りし、私達は夜通しその部屋からあなた方を見守りたいです。ですが無理ならば夜は一旦退きます」
「いいえいいえ、大丈夫です。部屋もありますから使ってやってください!ああ、ありがとうございます……!」
まるで神でも見るかのように、岩田さんは私たちに拝んだ。その様子を見て不憫に思う。
きっとこの人いっぱいいっぱいなんだろうな。娘が理解できない状況になって、夫から逃げて、きっと悩んだんだろうなぁ……。
決まりだとばかりに岩田さんは立ち上がった。
「リナの部屋を使ってください。いまは物置状態なんです。他もお好きに使って下さっていいですから」
その言葉を合図に私たちは立ち上がる。リナちゃんは未だにテレビを無言で見ていた。
リビングをでてすぐ右手に見えた扉が開かれる。子供部屋として用意してある部屋だと一目で分かった。そこには子供用のおもちゃなどが多くあったからだ。
広さは8畳ほどだろうか。ブロックやままごとのセット、人形やその家たち。女の子ならではのおもちゃに懐かしさを感じるが、どうもそれらはあまり遊ばれていないようだった。ほとんどが新品同様であったからだ。
その部屋も勿論窓には段ボールがはめ込まれ、ガムテープが張り巡らされていた。
他にはシングルのベッドが一つ、置いてある。
「向かいにある部屋が寝室で、私とリナはそこで寝ています。勝手に入って貰って構いません」
「分かりました。一度車から機材を運び込んできます」
「はい、私はリビングにいますので……」
岩田さんは再び頭を下げると、すぐにまたリビングへと戻った。一人にさせているリナちゃんが心配なんだろうなと思った。
ふうと息をついて辺りを見回す。とりあえず、乱雑に置いてあるおもちゃたちを端に寄せた。
「どう思いますか、今の話」
九条さんが突然言った。振り返ると、彼はポケットに手を入れて段ボールがはめ込まれた窓を眺めていた。
「ええと、この部屋とかリナちゃんに変なものは全然感じませんね」
「同感です」
「リナちゃんの失声症の原因はよく分かりませんね……霊が関係しているのか、ほかのストレスが何かあったのか」
「どうもしっくりこない話ですね。話が違和感だらけなので当然と言えば当然ですが……。
光を嫌がったり医者や外を嫌がったり。彼女はとにかく外に対して拒否が強い」
「そうですね、何ででしょう……」
「それに……」
九条さんは言いかけて止まる。ボンヤリと考え事をしばらくした後、少し眉を下げて頭を掻いた。
「まあ、とりあえず泊まり込みの許可も得たので撮影しましょう。毎晩だと言っていましたから、今日も起こるといいですね」
「あ、じゃあ機材を……」
「機材は私が運び入れる事にします。黒島さんには違う仕事を」
「え?違う仕事?」
首を傾げて尋ねると、九条さんは私が持ってきた紙袋を指さした。
「娘である岩田リナに、一応話を聞いてみてください」
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