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これからもずっとですよ
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でもそれよりまず不安があり小さな声で言った。
「借金のこととか、入籍日のこととか……大丈夫なんでしょうか、二階堂の人間として」
それに対し、玲がサラリと言った。
「大丈夫だろ。知ってるのは親と楓ぐらいだ。他の人間がそんなことを調べるとは思えないし。楓は多分漏らせないだろう、そうすれば自分が尻軽だった証拠や、舞香を襲わせたことをバラされると思うからな。その上俺が舞香の借金を肩代わりした事実は実際はないんだし、再会したその日に交際ゼロ日婚ってことにしておけばいい。とやかく言うやついねえだろ」
「そうなのかな」
自信ない声で呟いた私に向きなおる。玲は真剣な顔で言った。
「舞香、俺は本当にどっちでもいい。このままゼロからやり直して、普通の人生を歩むのでも、二階堂に戻るのも」
「ええ?」
「舞香がいてくれるならどっちでもいいんだ。お前はどうしたい? 言っておくが二階堂の嫁になったら大変だと思う。大きな敵は一旦いなくなったけど、これから先また出てこないとも限らない。二人で服部になって、普通の生活をしたいというなら、俺はそれがいいと思う」
二人が私を見てくる。ぐっと言葉に詰まった。
考えた事がなかった、私が本物の二階堂の嫁になるなんて。確かに大変であることは間違いない。やれパーティーだお茶会だ、マナーだ知識だと、これから先もあるのだと思うとうんざりする。
でも、倫子さんや伊集院さん、畑山さんは好きだ。圭吾さんともこうして会うことが出来る。いつの間にか、私は二階堂でたくさんの大事な人が出来ている。
玲が私を気遣って言った。
「急すぎるよな、しばらく考え」
「いいよ」
「え?」
私はぐっと前を向いた。二人の顔を見て笑顔を作る。
「二階堂に戻っていいよ、玲。玲は案外優秀な人なんでしょ? その能力を使わなきゃ勿体ないし、二階堂に好きな人たちもいるんだよね。マミーたちがここまで下から出てるのに、断る理由はないかなって」
玲は戸惑ったように言う。
「本当に……大丈夫か?」
「性格悪い玲が、今更小さな会社で誰かに使われるとか出来なさそうだし」
「おい」
「あと二階堂にいた方が、勇太の学費とか困らないから」
「その理由が一番お前らしい」
玲が声をあげて笑った。私は決意し大きく頷いた。
正直どっちでもいい、は私も思ってる。また看護師の貧乏生活も、玲と一緒なら楽しそう。二階堂の肩の力が抜けない生活も、玲と一緒なら大丈夫。
また敵が沸いてきたとしても、きっと楽しく戦える。なってったって、本当の夫婦になれたんだから。
玲はふうと息を吐いた。
「戻ると言っても、今更親子をするつもりは全くない。一線を引いて仕事相手として接する。必要以上に俺や舞香に接触してほしくないし口出しもさせない。これは最初に念書書かせるか」
「そ、そこまでしなくても……」
「それぐらいしとかないとだよ。俺は会社には戻るけど、あいつらの息子に戻る気はないんだ」
彼はきっぱり言い切った。悲しくも、頼もしくもあった。きっと本当に私のことを思ってくれていて、ご両親のことは切り捨てているのだ。
圭吾さんが微笑んだ。
「僕はどちらの生活も、二人なら大丈夫だと思ってます。社長たちは、今回の件でお二人の人望や能力が身に染みたと思うので、今後はちゃんとフォローしてくれると思いますよ。では、親子は戻らないけど会社には戻ると伝えますね」
彼はそう言って玄関に向かっていった。玲は散らかった部屋を見渡しながら『せっかく引っ越しの準備してたのになあ』なんてぶつくさ言っている。
私は圭吾さんを見送るために、慌てて玄関へ向かった。
靴を履いている圭吾さんに、改めてお礼を言った。
「圭吾さん、ありがとうございました。私たちのために色々やってくれてたんですね」
倫子さんや伊集院さんをも使って、今の状況を有利にさせるとは。これほど詳しく一週間の出来事を把握するには、かなり気を張ってみていなければならないし。
いつでも私たちの味方な圭吾さん。
彼は振り返る。
「玲さんが腰抜けじゃなくてよかったです。ちゃんと自分で選べましたね」
「あは、腰抜け」
「まあ、腰抜けだったらそれはそれでよかったんですけど。二階堂を選んで舞香さんと離婚するようなことがあれば、僕の出番でしたから」
「圭吾さんの出番?」
首を傾げると、彼はふう、と息を吐いた。そして目を細め、どこか寂し気に言う。
「でも、舞香さんは玲さんの横にいる時が一番生き生きしててカッコいんですよねー。そんな舞香さんを、応援したいって思ったんです」
「最初からずっと、圭吾さんは私の味方でしたから」
「これからもずっとですよ」
それだけ彼は言うと、私に手を振って玄関の扉から出て行ってしまった。
「なんか、普段と様子がちょっと違ったような」
いつも通り優しいし時々毒を吐くのは変わらないけど、なんとなく違う雰囲気を感じた。腕を組んで考えてると、後ろから玲がやってくる。
「あれ、圭吾帰った?」
「うん、帰ったよー。圭吾さん疲れてたのかな? なんか普段より元気なかったかなーって」
彼と並んでリビングに戻りながらそう言うと、玲は困ったような声を出した。
「あーまあ……俺は一生あいつに頭が上がらない、ってことだけは確かだな」
「いつも上がってなくない? 圭吾さんに上手く転がされてると思うよ」
「そうじゃなくて今回は……まあいい」
ふいっと顔を背けて行ってしまった。私はよく分からないままだ。
まあ、圭吾さんの功績は凄いから、そりゃ私も頭が上がらないけどさ。
「舞香、今後について話す。こっちに来い」
「はーい」
私は小走りで玲の元へ走った。
「借金のこととか、入籍日のこととか……大丈夫なんでしょうか、二階堂の人間として」
それに対し、玲がサラリと言った。
「大丈夫だろ。知ってるのは親と楓ぐらいだ。他の人間がそんなことを調べるとは思えないし。楓は多分漏らせないだろう、そうすれば自分が尻軽だった証拠や、舞香を襲わせたことをバラされると思うからな。その上俺が舞香の借金を肩代わりした事実は実際はないんだし、再会したその日に交際ゼロ日婚ってことにしておけばいい。とやかく言うやついねえだろ」
「そうなのかな」
自信ない声で呟いた私に向きなおる。玲は真剣な顔で言った。
「舞香、俺は本当にどっちでもいい。このままゼロからやり直して、普通の人生を歩むのでも、二階堂に戻るのも」
「ええ?」
「舞香がいてくれるならどっちでもいいんだ。お前はどうしたい? 言っておくが二階堂の嫁になったら大変だと思う。大きな敵は一旦いなくなったけど、これから先また出てこないとも限らない。二人で服部になって、普通の生活をしたいというなら、俺はそれがいいと思う」
二人が私を見てくる。ぐっと言葉に詰まった。
考えた事がなかった、私が本物の二階堂の嫁になるなんて。確かに大変であることは間違いない。やれパーティーだお茶会だ、マナーだ知識だと、これから先もあるのだと思うとうんざりする。
でも、倫子さんや伊集院さん、畑山さんは好きだ。圭吾さんともこうして会うことが出来る。いつの間にか、私は二階堂でたくさんの大事な人が出来ている。
玲が私を気遣って言った。
「急すぎるよな、しばらく考え」
「いいよ」
「え?」
私はぐっと前を向いた。二人の顔を見て笑顔を作る。
「二階堂に戻っていいよ、玲。玲は案外優秀な人なんでしょ? その能力を使わなきゃ勿体ないし、二階堂に好きな人たちもいるんだよね。マミーたちがここまで下から出てるのに、断る理由はないかなって」
玲は戸惑ったように言う。
「本当に……大丈夫か?」
「性格悪い玲が、今更小さな会社で誰かに使われるとか出来なさそうだし」
「おい」
「あと二階堂にいた方が、勇太の学費とか困らないから」
「その理由が一番お前らしい」
玲が声をあげて笑った。私は決意し大きく頷いた。
正直どっちでもいい、は私も思ってる。また看護師の貧乏生活も、玲と一緒なら楽しそう。二階堂の肩の力が抜けない生活も、玲と一緒なら大丈夫。
また敵が沸いてきたとしても、きっと楽しく戦える。なってったって、本当の夫婦になれたんだから。
玲はふうと息を吐いた。
「戻ると言っても、今更親子をするつもりは全くない。一線を引いて仕事相手として接する。必要以上に俺や舞香に接触してほしくないし口出しもさせない。これは最初に念書書かせるか」
「そ、そこまでしなくても……」
「それぐらいしとかないとだよ。俺は会社には戻るけど、あいつらの息子に戻る気はないんだ」
彼はきっぱり言い切った。悲しくも、頼もしくもあった。きっと本当に私のことを思ってくれていて、ご両親のことは切り捨てているのだ。
圭吾さんが微笑んだ。
「僕はどちらの生活も、二人なら大丈夫だと思ってます。社長たちは、今回の件でお二人の人望や能力が身に染みたと思うので、今後はちゃんとフォローしてくれると思いますよ。では、親子は戻らないけど会社には戻ると伝えますね」
彼はそう言って玄関に向かっていった。玲は散らかった部屋を見渡しながら『せっかく引っ越しの準備してたのになあ』なんてぶつくさ言っている。
私は圭吾さんを見送るために、慌てて玄関へ向かった。
靴を履いている圭吾さんに、改めてお礼を言った。
「圭吾さん、ありがとうございました。私たちのために色々やってくれてたんですね」
倫子さんや伊集院さんをも使って、今の状況を有利にさせるとは。これほど詳しく一週間の出来事を把握するには、かなり気を張ってみていなければならないし。
いつでも私たちの味方な圭吾さん。
彼は振り返る。
「玲さんが腰抜けじゃなくてよかったです。ちゃんと自分で選べましたね」
「あは、腰抜け」
「まあ、腰抜けだったらそれはそれでよかったんですけど。二階堂を選んで舞香さんと離婚するようなことがあれば、僕の出番でしたから」
「圭吾さんの出番?」
首を傾げると、彼はふう、と息を吐いた。そして目を細め、どこか寂し気に言う。
「でも、舞香さんは玲さんの横にいる時が一番生き生きしててカッコいんですよねー。そんな舞香さんを、応援したいって思ったんです」
「最初からずっと、圭吾さんは私の味方でしたから」
「これからもずっとですよ」
それだけ彼は言うと、私に手を振って玄関の扉から出て行ってしまった。
「なんか、普段と様子がちょっと違ったような」
いつも通り優しいし時々毒を吐くのは変わらないけど、なんとなく違う雰囲気を感じた。腕を組んで考えてると、後ろから玲がやってくる。
「あれ、圭吾帰った?」
「うん、帰ったよー。圭吾さん疲れてたのかな? なんか普段より元気なかったかなーって」
彼と並んでリビングに戻りながらそう言うと、玲は困ったような声を出した。
「あーまあ……俺は一生あいつに頭が上がらない、ってことだけは確かだな」
「いつも上がってなくない? 圭吾さんに上手く転がされてると思うよ」
「そうじゃなくて今回は……まあいい」
ふいっと顔を背けて行ってしまった。私はよく分からないままだ。
まあ、圭吾さんの功績は凄いから、そりゃ私も頭が上がらないけどさ。
「舞香、今後について話す。こっちに来い」
「はーい」
私は小走りで玲の元へ走った。
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